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1.舞台裏にて

 白は何も無い色として扱われるが、実は違う。当たり前だが、白には光が存在する。何も無いのは、光すらない黒だろう。

 だがしかし、人の心理はなぜか白を空疎な色として捉えてしまう。光が溢れていても、どこか空しい。空白。白い闇。


 目の前には、まさにその光景が広がっている。ただただ、一面が白い。陽だまりのような温度を感じるようでいて、しかしやはり何も無い。上も下も定かではない。

 もしもこれが死後の世界なのだとしたら、少しばかり殺風景かな、なんていったことを思う。そもそも私は死んだのか、とか、こんなことならあの時プリン食べときゃ良かった、とかいったような、おおよそこの状況とは関係の無い考えばかりが真っ白な空間の中を駆け巡る。


 そんな空白の世界を彷徨う私は、いつの間にか、向こう側に人の影があったことに気が付いた。

 緩やかに波打つ淡い藤色の髪を背中まで伸ばし、白いワンピースを着た女性が、ただぽつりと立っている。周囲が白一色なので、小柄なようにも様にも思えるが、もしかしたら、背が高いのかもしれない。何も無い空間へ、今すぐにでも溶け込みそうな、儚く曖昧な人の影。


 女性がこちらに気付いたのか、振り向いた。光が強くて、顔は良く分からない。おぼろげに認識できる優しげな口元が、彼女の素直な私への好意を伝えてくれる。

 淡く揺れる豊かな髪が、藤の花を連想させる。芳醇な香りを放つ、春の花。陶酔とか、恋に酔うとか、そんな花言葉のある花だ。


 顔が見えないはずなのに、彼女は陽だまりのような優しい笑顔をしているのだと、なんとなくそう思う。春の木漏れ日のような、柔らかくて温かな光が心に差し込む。だというのに、その温かな光の奥に、寂しそうな色が滲む。切ない魅力だ。


 藤の女性が何かを言った。

 涼やかな、しかし温かみのある声が、一面に響く。彼女の口から出ているのに、まるで辺りにこだましているかのように、そして頭の中に反響しているかのように、空間に響きわたる。残念ながら、内容は聞き取れない。

 この良くわからない状況の中、私には成す術がない。そもそも、自分自身が確認できない。多分、夢だろうと思う。


 急に光の闇が濃くなる。頭の奥に響く声が遠くなる。目の前がどんどん白い色だけになっていく。恐らく、私の意識が薄れているのだ。

 余談になる上やはりこの状況とはまるで関係がないのだが、藤には他にも花言葉がなかったろうか。しかしまあ、どうでも良いことだろう。

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