トンデモな昔話 ~自分探しの旅に出た若者が、おむすびころりんしました~
オリジナルを知らなくても楽しめる……はずです(震え声)
昔々あるところに、自分探しの旅に出たくてしかたがない若者がいました。
若者は上級国民の生まれで、何不自由のない生活をしています。美しい妻たちと、まだ幼い子供もいます。
それを全部捨ててでも自分探しの旅に出たい! 若者は、そう思っていました。
ある日突然、若者は旅立ちます。それは、まるで何かに駆り立てられたかのようでした。
若者は、自分探しをする人たちがたくさんいる国を目指します。
その国では、自分探しをする人が、炊き出しでおむすびをもらえるからです。
途中、若者は自分の身なりに気付きました。自分探しをするには、あまりにも高級すぎたのです。
これはいけません。このままだと、盗賊に襲われるかもしれません。過激派に拉致されるかもしれません。
若者は、途中で出会った人と着ているものを交換し、自分探しにふさわしい身なりになりました。
無事に目的の国に着いた若者は、さっそく自分探しを始めました。
☆
ある日のこと。
いつものようにおむすびをもらった若者は、いつものように山にやってきました。
若者は、いつものように大きな木の下に座り、自分を見つめなおします。
やがてお昼が近くなり、お腹がすいてきました。
若者は、おむすびを食べようと、取り出します。
ところが、そこで手を滑らせてしまいました。
おおむすびはころころと転がり、木の根元に開いた穴にストンと落ちてしまいます。
すると、そこから不思議な声が聞こえました。
「迷える者よ、汝が求めるものは、ここにある」
若者は穴に向かって問いかけます。
「私が求めるもの(おむすび)が、そこにあるというのですか?」
「然り。求めよ、さらば与えられん」
穴から答えが返ってきました。
いったい、穴の中には誰がいるのでしょう?
若者は大きく深呼吸してから、穴に入っていきました。
穴の中は真っ暗闇。遠くの方に、白くて丸いものだけが、うっすらと光っていました。
(あれがおむすびに違いない)
そう思った若者は、足元に気を付けながら、前に進みます。
不思議なことに、若者があと少しまで近付くと、おむすびは転がります。
おむすびに導かれるまま、若者は穴の奥へと進みます。
「!?」
突然、目の前が明るくなりました。
そこには、おいしそうなごちそうがたくさん並んでいます。
でも、若者は食べたいのを我慢しました。
自分探しをしてる間は、おむすびしか食べないのが決まりだからです。
若者は悲しそうに首を振ります。すると、ごちそうは消え、あたりも真っ暗に戻りました。
おむすびを追いかけ、若者は奥へ進みます。
また、目の前が明るくなりました。
今度は、恐ろしい獣がたくさんいました。
うなり声をあげて、今にも若者に襲い掛かろうとしています。
でも、若者は恐れません。
お腹がすいて、おむすびしか目に入らなかったからです。
若者は平然と前に進みます。すると、獣たちは消えてしまいました。
その後も、若者の心を揺さぶるようなものが、次々と出てきました。
売れば一生遊んで暮らせるような伝説の武器。
極振りした防御力と毒無効スキルがなければ死亡確定な三つ首の毒蛇。
男なら声をかけずにはいられない、せくしいなお姉さんたち。
でも、若者は、そんなものには目もくれません。
おむすびだけをしっかり見つめ、奥へ奥へと進みます。
そしてとうとう、若者は一番奥までやってきました。
「!!?」
目の前には、光り輝く黄金の都がありました。
若者の耳に、さっきの不思議な声が聞こえます。
「よくぞここまでたどり着いた。汝が求めたものを授けよう」
若者の頭の中に、生まれてから今までの出来事が、走馬灯のように映ります。
それが終わると、膨大な知識が頭の中に流れ込みました。
「そうか…、そういうことだったのか! すべての物に実体はなく、お互いに関係しながら、常に変化していたのか…」
若者は悟りを開き、地上に戻りました。
そして神様に勧められ、ありがたい教えを広めて回りました。
若者がたどり着いた黄金の都は、今ではシャンバラと呼ばれています。
おしまい。
転がるおむすびはバラバラにならないのか? それ以前に、落ちたら潰れて転がらないんじゃ…。
大人になってから考えると、オリジナルにもツッコミどころはあります(笑)
子どもの頃の無邪気さは、どこに行ってしまったのでしょう(遠い目)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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