ニセモノとホンモノと、真実はひとつ。
TAKE4
「――――――やあキリ。調子はどうだい?」
聞きなれた声に顔を上げると、長官が立っていた。
「長官・・・まあ、ぼちぼちッス」
シスルがいなくなって一週間。
シスルに代わる人員は未だ補給されておらず、一か月前に抜けたジニアの穴も埋められていない。おかげで、キリは新人の身でありながら、西区の管理を一手に任されているような状況になっていた。当然、管轄外の『蒼き狼』の事件を追うような余裕はない。
「シスルのことは・・・残念だったね」
沈鬱な表情をつくるロサに、キリは黙って首を垂れた。
「君には悪いと思っているよ・・・まだ赴任して二か月余りなのに頼るべき先人を二人も失わせてしまって。僕の力が及ばないばかりに」
「長官のせいじゃないっす」
確かにこの状況はしんどいが、ロサを責めても仕方がない。人材の補充は来春まで来ないと見るべきだ。今、西区に回せる人材は他にいないのだろう。
だが、次に続く言葉はキリにとっては意外な提案だった。
「そこでだ、どうかな。暫定措置として君には僕の管轄下に入って貰おうと思っているのだけれど」
「・・・長官の下に?」
「あくまで人材が補給されるまでの暫定だよ」
驚きに目を丸くするキリに、ロサが理由を口にする。
「君はまだ経験が足りなすぎる。西区を一人で背負わせるのは流石に忍びないと思ってね・・・そこでだ。西区の管轄は暫く東南北の担当者に分担してもらって、君の身柄は僕が預かろうと思う」
要するに、キリが一人前になるまでの期間、長官がキリの指導員代わりをしてくれるという話らしい。有難い話だが、長官自らが指導を担当してくれるとは。
「俺、期待されちゃってるんスかね」
「そう思ってくれてよいよ。優秀な人材をみすみす潰すのは嫌だからね」
そういうと、ロサはにこりと笑んで握手を求めてきた。
「・・・俺の名前を騙った犯罪者?」
キリの手の中のトランプを品定めしながら、エンジュはこくりと首を傾げた。
キリとエンジュは現在、食後のお茶を嗜みながらトランプに興じている。ポーカーだのブラックジャックだの難しいゲームはお互い苦手だということで、何という事はないババ抜きだ。
その合間に、『蒼き狼』の殺人疑惑の話を振ってみたのだ。泥棒に調査状況を報せるのは如何なものかと思い、今まで情報を伏せてきたのだが、捜査は遅々として進まない。本人に聞けば、何か有益な情報が得られるかもしれないと考えたのだ。
エンジュは扇状に並べた二枚のキリのトランプを慎重に吟味しながら、明らかに不機嫌になった。まあ、自分が殺人犯呼ばわりされていると知って、喜ぶ人間もそういないだろうが。
「何だよー、俺の名前騙るってだけなら別にいいけどよー。それで殺人とかシャレになんねーだろ」
「だからシャレになってねーんスよ。警察の人たちはアンタが犯人だと思ってるッス」
「じゃあお前も俺が犯人だと思ってんだ」
「・・・いや、思ってないスけど」
歯切れ悪く応じたキリの言葉に、エンジュは意外そうな顔をする。
「お前も警察だろ」
「ありえねースよ。だって、殺人のうち半分はアンタが俺に捕まってから起きてるんだもん」
それは事実だ。
キリは、エンジュが犯人でないという確固たる証拠を握っている。エンジュを捕まえる以前から『蒼き狼』の無罪を信じていた理由は自分にも説明できないが、そこまで語る必要はないだろう。
「じゃあどーして疑ってるんだよ」
「だから、俺は疑ってないスよ。だから、聞いてるんじゃないスか。そーゆーことするヤツに心当たりとかないんスか?」
「ねえよ。友達にそんなんされたら凹むわ」
「友達じゃなくても、恨みを買うような相手とか」
「いっぱいいすぎて覚えてねえ」
「・・・そうっスよねえ・・・」
キリだって警官になってからの数週間だけでも相当の恨みを買っているだろう。その前だって、無自覚であちこちから敵意を貰っている可能性もある。更には逆恨みや愉快犯という可能性まで考慮すれば、当然の返答といえた。
「・・・じゃあ、銀髪の泥棒に知り合いとかいるスか?」
「銀髪の泥棒? 『シルバーフォックス』か?」
キリの問いに、エンジュは直ぐそう返してきた。銀髪=『シルバーフォックス』という連想が、余程世間には根付いているらしい。
「残念ながら奴さんとは面識がねえなあ。そもそもホームグラウンドが違うしな。奴はウエストヘブン中心に活動してた怪盗だし」
「いや、別にシルバーフォックスに限らなくてもいいんだけど」
「『シルバーフォックス』以外の銀髪の怪盗なんて知らねぇぞ」
「・・・・そっスか」
現場で見つけた白髪について、これ以上エンジュから有用な情報は得られそうにない。キリが密かに落胆していると、エンジュが叫んだ。
「・・・・んっ、これだ!」
「え? ああっ!」
見ればエンジュがハートの3とスペードの3を手に、にやにやしている。キリの手の中に残されたのは、言うまでもなくジョーカーだ。
「ありえねえんスけど・・・これで八敗めっスよ。ズルでもしてんじゃねえスか」
毒づくキリに、エンジュはころころと笑う。
「こんな遊びにズルとかするわけねーだろ。まあ、もっと命とかかかってるゲームならイカサマも考えるけどな」
「アンタにイカサマできる頭があるとは思えねえスけど」
「ババ抜きで八敗する奴にはいわれたくねえな――――――でも気持ち悪い話だよな、それ」
エンジュは手の内の二枚のカードをトランプの山へと投げ出すと、天井を見上げてため息を吐いた。その仕草で手首に巻かれた手錠がしゃらんと音を立てる。
「俺が今警察に捕まったら、窃盗罪だけでなく殺人罪にまで問われちゃうってことだろ? 自分のしたことで怒られるのは仕方ねえけど、自分のやってないことで怒られるのは嫌だよな」
「そう・・・ッスよね。だから犯人の手掛かりが欲しいんスけど・・・」
このまま放置すれば、偽『蒼き狼』は調子に乗って事件を起こし続けるだろう。そのたびに、『蒼き狼』の評判が下がっていくのだ。状況は刻一刻と悪くなっている。
だが、警察内で『蒼き狼』を庇うような言動をとるわけにはいかないし、管轄外の事件に関与するにも限界がある。キリのおひざ元である西区で事件が起これば、大手を振って捜査に繰り出せるのだが、何故か贋物は一度も西区で事件を起こしてくれないのだ。
要するに――――――お手上げ状態なのだ。
天井を仰いで大袈裟なため息をついたキリの耳に、ぱちんという音が響いた。どうやら、エンジュが指を打ち鳴らしたらしい。何事かと振り向いたキリに、喜色を満面に浮かべたエンジュがにじり寄ってきた。
「そうだ! じゃあ俺が手伝ってやるよ。犯人捜し」
名案を思い付いたといわんばかりに、得意げに宣言する。当然、キリはその提案に眉を顰めた。
「あんたがぁ?」
「俺が協力すればきっと真犯人を直ぐに捕まえられるって! だから」
「・・・だから手錠を外せっていうんでしょ? 上手いこと言って逃げ出す気なのがバレバレっすよ」
「そんなことしねえってば」
「信用ならねぇッス」
キリは聞く耳を持たなかった。折角捕まえた小鳥――――――もとい狼を、野に放つような真似ができるわけがない。
「頼むぜ、マジで。無能な警察に任せておいたら俺が殺人犯にされちゃうじゃねえか。ここは俺自ら打って出るしかねーよ」
「犯罪者は大人しく手錠で繋がれてればいいんスよ」
この話は終わりだとばかりに、キリはトランプの山を片付ける。
「ちぇー、頭の固いやつだぜ。司法取引って言葉を知らねーのかよ」
司法取引。
減刑などを条件に犯罪者に捜査協力を要請することのことだ。
(――――――成程。そういう考え方もあるか)
それならば、警察官としての体裁も保てる。エンジュの力を借りるという選択も視野にいれつつ、とりあえず保留にしておくことにした。
「あー。疲れたッス」
キリは長官室の中央で、堂々と愚痴をこぼした。それを咎める者は誰もいない。ロサは別件で東区の担当警官と打ち合わせがあるといって出て行ってしまった。その間に書類の整理を頼まれてしまい、デスクワークの苦手なキリは頭を抱えていた。
暫定的に長官付になってから一週間。
予想を上回る目まぐるしさにキリはてんてこ舞いだった。毎日山のように起こるすべての事件に目を通し、指示をだし、人を動かし、部下の教育をし――――――
自分と一つしか違わないとは思えない仕事量だ。素直にそのスーパーマンぶりに驚嘆する。
しかも長官の部下ということになると苦手分野である書類整理が主なものとなるため、フラストレーションはたまる一方だ。正直、これなら一人で西区を担当していた方がましだったかもしれない。
「やってらんねえっスね」
キリは些か乱暴に書類の束をデスクに叩きつけた。そんなことをしても書類が減るわけではないのだが、気分的な問題だ。
――――――バサリ。
その所作の直ぐ後、何かが床に落ちる音を聞きつけてキリは床を見渡す。すると、薄いブルーのファイルが床に落ちてしまっている。先ほどのキリの行動が原因だろう。
「あ、やべ」
慌てて拾い上げようとして――――――キリの動きが止まる。
「・・・これ・・・」
ファイルは、ページが開けていた。落ちた拍子に偶然開いてしまったのだろう――――――その、曝け出されたページに目が吸い寄せられる。
キリは咄嗟に周囲を見渡した。
「――――――・・・・」
当然のことながら、誰もいない。この部屋にはキリが一人きりだ――――――先刻出て行ったこの部屋の主が戻るまでは。
そのことを確認するや否や、キリは迷わずファイルに手を伸ばした。
逸る心を抑えて中身を確認すると――――――
「・・・やっぱり、これ」
キリは息をのんだ。
『蒼き狼』についてのファイル。しかもキリが調べているのと同じ、『蒼き狼』の殺人疑惑についてのものだ。
殺人を犯すようになってからの『蒼き狼』の事件のあらましを初めとして、それらと以前の犯行との相違点、被害者についての情報、犯行時刻、場所、殺害現場における状況まで――――――そのファイルには詳細に記されていた。
「長官が独自にここまで・・・?」
少し気になっただけ――――――というには詳しすぎる。
何故長官がこんなにも詳細な資料を集めているのだろうか。ふとそんな疑問が胸中を過ぎるが、直ぐにその資料の有用性に目を奪われてそれどころではなくなった。
「――――――・・・これ」
中でもキリが惹かれたのはイーストエデンの中心部を切り取った地図だった。その地図に、赤ペンでいくつかマルがつけられている。『蒼き狼』の事件を熱心に調べていたキリには、そのマルの意味が理解できる。
その赤マルは――――――『蒼き狼』と思しき殺人事件のあった場所。
「・・・・これって・・・」
こうして俯瞰で地図をみていると、あることに気付く。そう、事件のあった場所を辿っていくと、中心にあるものが存在していることが読み取れる。
――――――第三時計塔。
イーストエデンには区域ごとに時計塔がいくつか存在しているが、中心にあるのは第三時計塔だ。すべての事件は、第三時計塔から二キロ以内で発生しているのだ。
『蒼き狼』は仕事の後に時計塔の鐘を鳴らす。
『蒼き狼』の真似ごとをする以上、贋物といえどそれは外せないルールのはずだ。鐘が鳴って金が降らなければ、それは『蒼き狼』の犯行として認知されない。事件が第三時計塔の周辺で発生しているのは、そのためだろう。ならば、次の事件も第三時計塔の近くで起こるはず――――――
「・・・道理でうちの地区で事件が起こらないわけだ・・・」
第三時計塔は東区の管轄なのだ。だからキリの担当する西区では、『蒼き狼』の殺人が起こらなかったのだろう。
贋物は東区にしか出没しない。それを踏まえれば、次に事件が起こる場所を予測できるのではないか。
そう考えたキリは地図とにらめっこを開始したが――――――直ぐに頭を抱えてしまった。
いくら『第三時計塔の近く』というヒントがあったとしても、偽『蒼き狼』が襲いそうな小金持ちの家はざっとみただけでも数十件。とてもそれだけのヒントでは絞り込めそうもない。
他に、標的を絞る手立てはないものか――――――
「――――――そうだ。逆の発想をすれば・・・」
キリはふと気づいた。
『蒼き狼』が狙う家を特定する必要はない。犯罪を犯した後、贋物は必ず第三時計塔にやってくるのだ。ならば、時計塔で張っていれば――――――そう遠くないうちに。
そいつとご対面できるだろう。
「俺の贋物を捕まえに行く――――――?」
帰ってくるなりそう宣言したキリに、エンジュは驚いた声をあげた。
「どういうことだよ、それ」
「長官の部屋で、すごいもの見つけたんス」
そう言いながら、キリは露店で買ってきたサンドイッチとスープをベッドサイドに並べだす。長官の部屋で『蒼き狼』のファイルに見入ってしまっていたため、大分帰りが遅くなってしまった。夕食の準備をする手間を惜しんで、帰りがけに調達してきたのだ。
「ルールその一。夕食にはファストフードは食べない。肥るから」
「嫌なら食べなくていいっスよ。『パンの時は汁物を添える』ってルールは守ったんスから勘弁してほしっス」
文句を言うエンジュの言葉を聞き流し、キッチンでお湯を沸かす。
「何だよー、手抜きしやがって・・・お、でもこれタヌキ屋のサンドイッチじゃん。あそこのパンうまいんだよなあ」
不満そうなエンジュだったが、サンドイッチの袋のロゴを見て途端に機嫌を直した。タヌキ屋は人気のパン屋で、平日に限り大通りに露店をだして軽食を売っている。
上機嫌で袋からサンドイッチを取り出したエンジュだったが、中身を確認するなり顔を険しいものへと変貌させた。
「ローストビーフとエッグシュリンプだと・・・この究極の選択をどうしろというんだ」
「こうすりゃいいんじゃねぇスか」
いうなり、キリはさくりとサンドイッチにナイフを入れた。その動きに従って、サンドイッチは綺麗に二つに分断される。
「ね、半分こ」
「・・・頭いいな、お前」
そこまで真剣に褒められるようなことではないと思うのだが。キラキラと目を輝かせてエンジュはそういった。
「なんか半分こ、っていいよな。一人じゃできないし」
「・・・何急に言い出すんスか」
「別に。誰かとご飯を食べるっていいよな、って話」
「・・・・・・」
そんな友達みたいなことを言われても困る。キリとエンジュは警察と泥棒――――――要するに敵同士なのだから。しかし、そう悪い気がしていないのも事実だった。
そんな自分の心境に蓋をしながら、エンジュは二人分のコーヒーをテーブルに載せる。
「いただきます」
「いただきます――――――で、どういう事だよ? さっきの」
「え? ああ。前にアンタの贋物が事件を起こしてるって話したじゃねぇっスか。そいつを見つける算段が立ったってことなんスよ」
長官の部屋で見つけた『蒼き狼』についてのファイル。
その資料には殺人が起こり始めてからの『蒼き狼』の犯行について、詳細に記されていた。
たとえば狙う家。『蒼き狼』が大富豪を狙うのに対して贋物が狙うのは中流家庭だということ。
たとえば盗みの状況。『蒼き狼』が現金にしか手を付けないのに対して、贋物は時計や宝飾品などの貴金属をも盗んでいるということ。
たとえば犯行日時。『蒼き狼』が白昼堂々の犯行を好むのに対して、贋物は夜半過ぎから明け方にかけての犯行が多いということ。
たとえば犯行手口。『蒼き狼』が高い窓を割っての侵入が多いのに対して、贋物は裏口のドアを壊しての侵入が多いということ。
・・・Etc.etc。
それらはキリの考えと完全に合致していた。
そして地図を見て気づいた犯行現場の共通点――――――第三時計塔
「要するに、時計塔で張ってればそのうち『蒼き狼』の偽物に会えるってことッス」
故に、キリは今夜から張り込みを開始することにしたのだ。偽『蒼き狼』の犯行は頻繁に行われている。一週間を待たずして、次の犯行が起こることだろう。
「だから、これ食ったらまたでるっス」
一通り説明を終えると、キリは一息にスープを飲みほした。少し温くなっているが、中華風で胡麻油がきいていて美味しい。
「成程、俺も連れてけよ」
サラリと放たれた言葉に、キリは危うくスープを吹き出しそうになった。
「・・・・・・・いやいやいや、駄目ッスよ!?」
「何でだ。前もいっただろ、協力するって」
「そんなこといって、逃げる気ッスね!? そうは行かないッスよ!」
「いや、でもお前の予想によれば、そいつ俺の関係者らしいじゃん」
「ああ・・・・」
長官に白髪とも銀髪ともつかない髪の毛が落ちていたことを報告した時に言われたことを思い出す。シルバーフォックスを匂わせる犯人は、『蒼き狼』に対して個人的な恨みを抱いているのではないかと。そのため、『蒼き狼』の名を貶めようと暗躍しているのではないか――――――とも言っていた。
「俺に恨みを持ってるやつなら、会いに行きたい。会って、俺が話を付けるべきだろ」
「でも――――――」
言いかけて、キリは慌てて口をつぐむ。キリは今、こういおうとしたのだ。
恨みを持つ相手と対峙するなど危ないではないか――――――と。
これではまるで、エンジュのことを心配しているようではないか。それはおかしい。内心の動揺を押し隠して、キリは冷静を装って言葉を紡いだ。
「連れていけるわけねーじゃねースか。外に出したら逃げるに決まってるッス」
「逃げねぇよ。少なくとも怪我が完治するまではお前の家に世話になろうと思ってる」
「俺の家は療養所じゃないんスけど!?」
「三食昼寝、イケメンつき。悪くねえ」
しかし、エンジュは珍しく真面目な顔をすると、ぽつりと呟いた。
「ちょっと嫌な予感がしてな・・・そいつに会っときたい、てのが正解かもな」
その真摯な態度に、キリは思わず動きを止めた。だが、直ぐに目を反らす。
「と、とにかく駄目ッス! アンタはお留守番」
そう言い捨てると、一枚の紙を取り出す。長官のファイルに挟んであった地図だ。こっそり、これだけコピーしておいたのである。
張り込み前に改めて地図を眺めていたキリは、あることに気づいた。地図には赤いマルの他にいくつかの書き込みがある。中でも青ペンで×印がつけられている箇所が複数ある。
「これ、なんだろ?」
青い×印は時計塔を囲うようにして、いくつか書き留められている。それらは公園やホテル、アパートなどに記されていた。
「どれどれ?」
「ああ、この青い×印――――――って、何勝手に見てるんスか!」
いつの間にかエンジュが地図を覗き込んでいる。慌てて地図を折りたたもうとするキリを押しとどめて、さりげなく言った。
「・・・教えてやろうか」
「え?」
「青い×印の意味。教えてやろうか?」
「――――――わかるんスか!?」
驚いて問い詰めるキリに、エンジュはこくりと頷いた。
「知りたいか? ――――――だったら交換条件だぜ」
「・・・・・・・」
にんまりと笑うエンジュ。間違いなく、張り込みに同行させろというのだろう。キリが応じるべきか迷っているうちに、エンジュは地図に指を走らせる。
「時計塔を見やすい位置だよ」
「――――――え?」
慌ててキリは地図上を覗き込む。
「この青い×印。全部時計塔を見張るのに絶好なポイントだ。俺の立場からするとよくわかる。まあ、もっといい場所もあるんだけどな・・・」
「それ、どこスか?」
「教えねえよ、商売あがったりだろ」
成程、エンジュは常日頃からこういった場所に隠れて、時計塔に人気がない時を見計らっているのだろう――――――鐘を鳴らすタイミングをはかるために。本家『蒼き狼』エンジュの言葉には説得力があった。
密かに感心しているキリに、エンジュの自慢気な声が届く。
「どうだ? 俺、役に立つだろ?」
「やっぱりシャバはいいな。空気がうまいぜ」
「目的を忘れないでほしいんスけど・・・外にでた理由わかってるッスよね?」
そういって伸びをするキリを恨めし気に眺めて、キリはため息を吐いた。そのキリとエンジュの手首は手錠で拘束されている。
結局、あの後キリはエンジュの要望を拒み切れず、こうして外に連れ出す羽目になってしまった。どうしても偽物を自分の手で捕縛したいというキリの気持ちは理解できる。キリだって、自分の名を騙る偽物が大手を振って歩いているような状況は不愉快だ。
だが、折角捕まえた『蒼き狼』を迂闊に外に出して、逃げられてしまってはたまらない。故にこうして手錠でつながれた状態での外出と相成ったわけだ。
「うん、家の中でイチャイチャするのに飽きたから外でデートしたいってわけだろ? でもできたら女の子とそういうことはしてえな」
「全然違う!」
「ま、これもファンとのふれあいと思えば仕方ねぇな。で、どこ行く? 映画館? 遊園地? 水族館?」
「普通にデートプランを勧めないで欲しいッス!」
「俺にはデートに関して俺のルールが三つある」
「全力で俺の話を聞いてないんスけど!」
「一つ、遊園地は親しくなってから」
「あ、じゃあ今回はパスなんスか」
「一つ、デート代は性別ではなく互いの年収を考慮すべきだと思う」
「・・・・じゃあアンタのが稼いでるんじゃないスか? 俺はしがない公務員スよ」
「やはりイケメンが出すべきだと思う」
「速攻ルール変えた! 拘りとか特にないんだ!」
「お前こそ自分が俺よりイケメンだとあっさり認めやがったな。嫌味な男だ。まあ自分の美しさに無知なイケメンもそれはそれでムカつくけどな」
「要するにイケメン嫌いなだけじゃないスか!」
「イケメンが好きな男などいるものか! いたとしたらそいつはホモだろ」
「いや、そこは朝焼けの美しさを誰もが認めるように、俺のことも好いて欲しいッス」
「朝焼けは怖いとか気持ち悪いとかいう意見もあるよな」
「美しさと恐ろしさは紙一重スからね・・・・ってそんなことはどーでもいいんスよ!」
「おおそうだった。ルールその3がまだだったな」
「いやそこじゃねえッス!」
「ルールその3――――――」
そういってとある一角を指さして、エンジュはにんまり笑う。
「あの公園とかどうよ?」
――――――その言葉にキリは形の良い眉を吊り上げる。エンジュが指差したのは長官ファイルで青い×印がつけられていた公園だったのだ。無駄口を散々叩いてはいるが、本題を忘れているわけではないらしい。本当に食えない男だ。
キリは不敵に笑うと、その誘いに応じることにした。
「悪くないンじゃないスか?」
『蒼き狼』は仕事の後、時計塔の鐘を鳴らして戦利品を空からばら撒く。
一連の殺人事件が『蒼き狼』の犯行とされているのは、事件直後に鐘の音による合図と、『お布施』があるからだ。
それらは『蒼き狼』の象徴だ。偽物は、『蒼き狼』を騙るためにこのプロセスを省くことはできない。要するに、『蒼き狼』の真似事をするためには時計塔に近づく必要があるというわけだ。
キリが資料を確認したところ、偽『蒼き狼』の犯行範囲は極めて狭かった。東区限定、しかもこの第三時計塔から半径2キロ以内に限られる。ならば、この時計塔の前で張っていれば鐘を鳴らしに来た贋物を見つけることができるだろう。
キリたちが到着すると、案の定時計塔に警察隊は配備されていなかった。
『蒼き狼』が時計塔に頻繁に登場することはわかりきっているのだから、ここで二十四時間見張っていれば、いつかは『蒼き狼』に逢えるのというのに警備が手緩いような気もするが、イーストエデンの現状を鑑みる限り、それは仕方のない事だ。『蒼き狼』がいつ出没するかわからない上、どこの町の時計塔に現れるか見当もつかない以上、常時警察を配備するなど無理な話だ。警察隊の数は限られているし、イーストエデンに巣食う犯罪者は『蒼き狼』だけではないのだから。
だが、今回は話が違う。贋物が利用するのはこの東区の時計塔のみ。数日張り込むだけで、確実に成果と繋がるはずだ。しかし、キリはその事を上部に報せなかった。
エンジュと共にいるところを見られるのも避けたかったが、それ以上に贋物を他の誰かに逮捕されたくなかったのだ。贋物は是が非でもキリ自身の手で捕縛して――――――『蒼き狼』の名を騙る理由を聞き出したかった。
贋物を捕えるために、キリは時計塔の斜向かいに位置する公園で、エンジュと二人で四日前から時計塔を見張り続けている。
時計塔の鐘は通常、夜明けと正午、それに日暮れの三回しか鳴らされない。その時間外で時計塔に近づく者がいれば怪しいということだ。キリは一瞬たりとも目を離すまいと、時計塔の入り口に目を凝らす――――――
「なあ」
そんなキリの肩を、横からエンジュがとんとん、と叩く。
「何スか?」
「コーヒー飲むか?」
「って何でそんなピクニック気分なんスかああああああ!」
エンジュは魔法瓶をもったまま、にかりと笑う。
「いや、久々に外出したら外の空気が気持ちよくて」
「状況わかってるんスか?」
「うん、天気もすごく良くてピクニック日和だよな。夜だけど」
「いや、誰がお出かけ日和について分析しろっていったッスか!? ちゃんと目を離さず見張ってないとダメッスよ! いつ贋物が現れるかわかんないんスから!」
「お弁当もってくればよかったよなあ。ま、とりあえずそこの露店でサンドイッチ買って来たぜ」
「早速目を離してるし!」
「ローストビーフ&クリームチーズと、照り焼きチキンタマゴどっちがいい? 俺は・・・チキンかなあ」
「俺の分も買ってきてくれたんだ!? 有難う!」
「気にするなよ、これお前の財布だから。あったかいうちに食えよ」
「さりげなく財布スられてた! 警察から財布盗むとかアンタ舐め過ぎじゃねえスか!」
「そっちこそ、Sランク泥棒の前で油断しすぎじゃないスか警察サン。・・・ん、うまい。けどもう少し胡椒が効いてるともっといい」
「人の話を――――――」
キリの抗議をサラリと聞き流し、サンドイッチをぱくつくエンジュ。更に声を張り上げようとした瞬間。エンジュがその動作を押しとどめるように片手を上げた。
「あ、誰か来たぜ」
「――――――え?」
キリが慌てて振りかぶると、一人の男が時計塔へと近づいている。帽子を目深にかぶり、周囲を警戒するようにキョロキョロと落ち着きなく見回している。怪しい事この上ない。
「――――――あいつスかね」
「まーまへ。へってーてきなひょーこをつはむはでは」
「食いながら喋るな!」
「・・・まあ待て。決定的な証拠を掴むまでは動かない方がいい」
酷く真摯な表情のエンジュの口許の照り焼きソースが気になったが、キリはとりあえず頷いた。鐘を鳴らす前に取り押さえてから人違いだと言い逃れされては目も当てられない。どうせ、ものの数分で判明するはずだ――――――
「あれが『シルバーフォックス』か? 帽子で頭が見えねえな」
「・・・どうスかね・・・」
「長官サンの予想では、真犯人は『蒼き狼』の名を騙った『シルバーフォックス』なんだろ。でも俺、そんな名前の奴に恨まれる覚えないんだけどな・・・」
キリとエンジュが見守る前で、男は時計塔の中へと姿を消した。二人が暫くそのままで待っていると――――――ふわり、と。
頭上に――――――金が舞い落ちてきた。
間違いようもなく本物のジェル紙幣だ。キリが思わず上を見上げると同時に、鈍い鐘の音が鳴り響いた。
「――――――間違いない、アイツだ」
いうが早いか、キリは飛び出した。手錠で繋がれているエンジュもまた、サンドイッチの残りを口内に押し込めると、キリの後を追って走り出した。
焦る必要はない。
時計塔の出口は一つだ。
鐘を鳴らした男はここから出てくるしかない。エンジュのように屋根をつたって走れるならば話が別だが。出口の前で二人が張っていると、やがて足音が響いてきた。
案の定、出口から先ほどの男が走り出してくる。
「待つッスよ」
キリはその前に立ちふさがると、男の進路を塞ぐ。男は戸惑ったように歩を緩めたが、キリの纏う警官隊の制服に目を止めると、あからさまに狼狽した。
「さっきここから金を撒いていたのはお前か」
男は落ち着きなく辺りを見回す。キリがじろりと睨み据えると、びくりと肩を震わせた後、胸を反らす――――――虚勢を張っているのが見え見えの所作だった。
そして男は、キリ待望の一言を吐き出した。
「――――――そうだ、俺があの『蒼き狼』だ」
――――――やはりこの男が。
相手はS級犯罪者の名を出してこちらを威嚇しようとしているのだろうが、キリの隣には本物の『蒼き狼』が立っているのだ。そんな脅しが通用するはずもない。
(――――――こんな奴が、『蒼き狼』の名を貶めてたのか)
そう考えると、キリの中に名も知れぬ怒りが沸々と湧き上がってきた。しかし、これで確信した。この男が最近、『蒼き狼』の名を騙って殺人を起こしていた男に間違いない。
「嘘ッスね。お前は『蒼き狼』のまがい物だ」
キリは満足そうに頷くと、エンジュの方を見た――――――
すると。
エンジュは目を見開いて、男を凝視していた。
「・・・・? エンジュ?」
その反応に、キリの方が戸惑う。贋物を捕まえたいと主張していたのはエンジュも同じだ。もう少し喜んでいてもよさそうなものではないか。
「・・・・エンジュ?」
男が初めて口を開く。
その言葉に、声に、エンジュが雷に打たれたように震えたのを――――――キリは見た。いや、そもそもどうして贋物がエンジュの本名を知っているのか。やはり知人ということか。
「――――――・・・お前、」
男と――――――エンジュの目があった。
男は皮肉そうに口許を歪めると、エンジュの横をするりと走り抜けていく。
「ちょっ・・・アンタ! 何してるんスか!」
それをそのまま見送ったエンジュに、キリは俄然慌てた。あれほど贋物の存在に興味を示していたというのに、それをあっさり見逃すとはどういうことか。焦ってキリはエンジュの腕をとると、男を追って走り出す。手錠で繋がれているため、エンジュも共に連れて行くしかないのだ。
「何やってるんスか。ボーッとして・・・」
「あ、ああ・・・わりィ」
エンジュはというと、キリに連れられて走るうちに漸く正気を取り戻したようだ。
「ちょっと驚いただけだ。追いかけようぜ――――――・・・いや、追わないといけねぇ」
そう呟くエンジュの横顔はいつになく真摯で、声を掛けることは躊躇われた。
明らかに様子のおかしいエンジュが気にかかりはしたが――――――とりあえず、キリは贋物を追うことにした。
――――――あの男を捕えれば。
どのみちすべて明らかになるのだろうから。
――――――エンジュが生まれたのは、イーストエデンでも最下層に位置する貧しい村だった。イーストエデン北区・第89地区。後に『蒼き狼』と呼ばれる青年は、貧しい村の貧しい家に生まれた。
父親は酒乱で、酒が切れると母に八つ当たりをして家を荒らした。そういった時にはいつもエンジュは、一つ年下の妹を隠すようにして父親が落ち着くのを待った。
エンジュが7歳の時、母親が死んだ。
父親の酒代を稼ぐために、無理を重ねたのが祟ったらしい。エンジュと妹は、父親の手によってわずかばかりの金と引き換えに奴隷商人に売られた。母親亡き後、二人を庇ってくれるものはいなかった。
奴隷商人の元に売られても、エンジュは落ち込んだりしなかった。
彼は一人ではない―――――妹と一緒だ。
妹を守ること、そしていつか幸せにしてやること――――――。それが自分の使命だと、そう固く信じていた。
やがて、彼らはとある金持ちの貴族の元へと引き取られた。だが、それは別に養子になった――――――などという幸福な話ではない。
その時引き取られたのは、エンジュと妹だけでなく、奴隷商人の元で共に『商品』として生活していた子供たち五十人ほどもまとめてのことだったのだ。
まとめて引き取られた子供たちは、戦闘訓練を受けさせられた。
幼い身の上でさながら軍隊のような生活を強いられたが、エンジュは辛いとは思わなかった。妹も同じ貴族に引き取られたからだ。兄弟が二人揃って同じところに引き取られるなど、奇跡だ。戦闘訓練を積まされているところを見ると、将来的には私兵として雇用されるのだろう。使い捨ての兵士といて酷使されるのは目に見えているが、傍で妹を守れるのならば悪くない。隣にいることができれば、自分が妹を庇護することができる。そして、いつか彼女だけでも奴隷の立場から解放してやるのだ。
――――――そう思っていた。
男は時計塔を離れると、直ぐに地下通路へと入り込んだ。
地下通路はホームレスやマンホールチャイルドの住処になっている他、闇市場を開くための隠れ蓑としても利用されている。この国が新体制に移行する際に放擲された存在であり、あたかも治外法権のような惨状を呈していた。
贋物も、地下通路の住人なのだろうか。先刻から迷う素振りも見せず、一目散に逃亡を諮っている。
男を追跡しながら、キリは何度もエンジュに話しかけようとしては失敗していた。エンジュの常とは違う思いつめたような表情に気圧されて、思わず口を噤んでしまうのだ。
そんなエンジュにばかり気を取られていたため、エンジュが立ち止まるまでキリは気づかなかった。――――――この先が行き止まりだということに。
だが、気づいたところでキリに焦りは生まれなかった。逃げる男と違って、追うキリたちにとっては相手を追い詰めたというだけの話だ。寧ろ好都合というべきであり、男の方こそ観念すべき状況であるはずだ。
しかし、行き止まりだというのに、男は動じない。この危機的状況を前にして、何故か余裕たっぷりといった様子だ。
「・・・もう逃げられないッスよ、贋物の『蒼き狼』さん」
キリの言葉に、男は咽喉の奥からクツクツとくぐもった笑い声を洩らした。
「――――――バレちゃ仕方ねえな。そう、俺は『蒼き狼』じゃない。ホンモノが横に居たんじゃこれ以上嘘ついても仕方ねぇよなあ・・・刑事さんが何でそいつといるのかは知らねえけどよォ」
――――――この男、やはりエンジュが本物の『蒼き狼』だと知っている。
キリは表情を引き締めた。
「『蒼き狼』じゃないなら、アンタは誰なんスか? 教えてもらいたいッスね」
「俺の名が知りたいか?」
「是非ご拝聴願いたいッスね。知ってる名前だと有難いんスけど」
キリの言葉に、男は舞台俳優のように両手を広げて宣言した。
「聞いて驚け! 俺はあの『シルバーフォックス』だ! ウエストヘブンで名を馳せた天下無双の大怪盗だ!」
そう高らかに名乗りを上げると、余裕綽綽といった風にこちらを振り返る――――――帽子をばさりと外して。
「――――――よう、久しぶりだな。エンジュ」
そうエンジュに声を掛けてきた男の容姿を、まじまじとキリは観察した。
身長はエンジュより十センチは低いだろう。背が低い上に、人の顔色を伺うかのような上目遣いをする仕草が卑屈な印象を受ける。姿勢の悪さがそれに拍車を掛けていた。
そばかすだらけの顔。痩せて骨ばった手足。薬でもやっているのか、大きく開いた眼はぎょろぎょろと落ち着きなく揺れていた。
そして髪は――――――くすんだ鼠色。
「成程、ね・・・」
あの髪色をもって、『シルバーフォックス』を名乗っているというわけか。現場で採取された髪の毛はこの男の物と見て間違いはないだろう。
「・・・シルバーっていうには、大分しょぼいスけどね」
鼠色の髪に失笑して呟くキリの言葉を聞きつけ、鼠色の男は胸を反らした。
「そうだ、俺がウエストヘブンで名高き強盗、『シルバーフォックス』だ。あの、『人魚姫の涙』を盗んだ男だ!」
「それさっきも聞いたけど。てか、『人魚姫の涙』持ってるなら、売ってもっといい服かったらどうッスか。靴にも穴空いてるッスよ」
「う、うるさい! 俺は盗んだブツはコレクションするたちなんだ」
「『シルバーフォックス』はモノに執着しないたちだって聞いたッスけど?」
「『人魚姫の涙』はお気に入りなんだ! つべこべいうんじゃねえ!」
顔を赤らめてキリにどなり返すと、男はエンジュへと向き直る。そういえば、先ほどからエンジュは黙ったままだ。呆然とした様子で、一言も口を開かないでいる。
そんなエンジュの様子を、何故か勝ち誇ったように眺めると、男はいやらしい笑みを浮かべた。
「もっとも――――――お前と出会った頃はアザミと名乗っていたがな」
「アザミ・・・・」
その名にエンジュが顔を歪める。
名を聞いて思い当ったというよりは、名を聞いて確信したというように見えた。恐らく――――――というより間違いない。
この男は、エンジュの知り合いなのだ。
きっと――――――あまり再会したくない類の。
「懐かしいだろ? 会えてうれしいだろ? もっと喜んでくれよホラ・・・」
エンジュの表情をみて、満足そうに男が笑い声を漏らす。両手を広げて、芝居がかった仕草でそういった後――――――意地悪く顔を歪めた。
「ああ、それともがっかりしたか? 俺は十四年前に――――――」
「お前が殺した筈なんだから」