飴と無償
「アース・クエイク」
カヤがその魔法を唱えた瞬間、大地が凄まじい
強さで揺れ始める。
シルフィーの魔法で、空中に浮かんで
いる俺達は無害だが、地面に居るおびただしい数のジョロキアスネークは、大地の振動で微動だに
出来ずにいる。
息を呑んで静観していると、大地にヒビが入り
始めた。
そして___
「ふぅっ……、終わったよ皆。」
瞬きを1回終えた 次の時には
地割れによって、砕けたクッキーのような大地と
視界一杯に広がるジョロキアスネークの死骸が
散乱していた。
「すっげ…………。」
その光景に圧倒された俺は、今さらながらに
カヤの……地の精霊の力を再認識する。
そして崩壊した地面の、発生源の上に立つカヤを
見て俺は気づく。
「って! カヤお前、花! 氷結花!!
ジョロキアスネークと一緒に花もグチャグチャ
になってんじゃねえかっ!?」
そう、カヤの広範囲の魔法により、地面に咲いて
いた氷結花も根こそぎ地割れに巻き込まれて
しまっている。
「安心しなよソラ。僕がそのくらい計算してない
と思っているのかい? ちゃんと用意はして
あるよ。」
するとカヤは、白衣のポケットから小さなビンと
スポイトのような物を取り出した。
「シルフィー、僕も浮かせてもらえるかな?」
「いいわよ? "フォロー・ウィンド"」
シルフィーが人差し指をクイッと動かすと、
カヤも宙に浮かぶ。
そして自身の身体が、完全に地面から離れた事を
確認すると、持っていたビンからスポイトで
中身を吸い出す。
「カヤ、何だよそれ?」
「まあ見てなよ。ん………しょっ。」
カヤがスポイトの中身にある液体を1滴、
そう、ほんの1滴地面にポトリと垂らした。
その瞬間___
「おっ、おいおいおい! 嘘だろっ!?」
「へぇっ………。さすがカヤね。」
たった今さっきまで凄惨な絵面が広がっていた
ハズなのに、崩壊した大地と一緒にぐしゃぐしゃになった草や木々が、元の形に復元されていく。
その中には、当然「氷結花」も___
「うん。まあ、こんなものかな。
後は自然回復で充分だろう。」
満足気にカヤが頷く。
「なあカヤ……それ何だ?」
「このスポイトの中身かい? これは植物の細胞
を活性化させる物だよ。大地の養分や、周りの
生き物などから、急激に栄養を吸収する事が
できる。その証拠に…ほらっ。」
カヤが指差す方を見ると、カヤの魔法によって
全滅したジョロキアスネーク達が、全て骨のみに
なっていた。
「あんなに沢山居たからね。
崩れた大地を元に戻すには、充分すぎる栄養を
吸収したハズだよ。」
「素晴らしいですカヤ様! ねっ、ソラ!!」
「あ、ああ……。なんつうか…やっぱりお前
土の精霊なんだなあ……。改めて実感したわ。
これからも頼りにしてるぜ。」
「フフッ……、ようやくソラも、僕という存在の
素晴らしさが理解できたみたいだね。
これからは もっと敬意を持って接すると
いいよ。」
「はいはい、わかったわかった。
じゃあこれやるよ。今回の報酬な。」
そうしてカヤに渡した物は__
「また僕のパンツじゃないかっ!!
しかもちょっと湿ってるよ!?」
「ああ、今朝ご使用させてもらったヤツだ。
目が覚めたら愛しの我が子が、一生懸命テント
張ってるもんだから、ついな。
でもしっかり洗ったぞ?エチケットやマナーは大事だからな。」
「常識を学んでくれないかなっ!?」
___
______
____________
その後、港町に帰る頃には すっかり日が暮れて
しまった。
町の入り口に戻ると、漁師や老人達が勢揃いして
いるのが見えた。
「おうっ! 帰って来たな兄ちゃん!!
待ってたぜぇっ!!」
「どうしたんだよ、皆揃って?
何かあったのか?」
「なあにスっとぼけてんだよっ!
見てたぜ? ジョロキアスネークをやっつけて
くれたんだなっ!!」
「あれっ? 何で知ってんだよ?」
「坊や。」
声のする方を振り向くと__
「飴屋の婆ちゃん………。」
「ごめんよぉ、昨日アタシが話した事を
気に掛けてくれたんだろ? 今朝早くに坊や達
が東の森に向かって行くのが見えてねぇ。
急いで町の人達を集めたんだけど……。」
「ジョロキアスネークには、俺達漁師でも
歯が立たねぇ……、様子を見に行くので精一杯
でなぁ…、けど驚いたぜっ! 全く物怖じせずに
ヘビの群れに突っ込んで行くからよ。
見た目によらず勇敢じゃねえか、それによ…」
「聞いたよ坊や。アタシ達の為に怒って
闘ってくれたんだってねぇ。嬉しかったよ…。
本当に嬉しかった。でも…、その……、悪いんだ
けど、アタシ達みんなのお金を集めても…
たったこれだけしか無くてねぇ……。」
飴屋の婆ちゃんはそう言うと、袋からお金を
取り出す。
本来ギルドから依頼を受ければ、この5倍は
報酬が出ただろう。
「あー……、その…なんだ。恩人にこれっぽっちの
金しか払えないのは心苦しいんだが……。」
「そんなっ! 貰えないよこんなの!!
私達が勝手にやっただけだし……、ね、ソラ?」
レピィが恐る恐る聞いてくる。
というか何だよその目は。俺が全く足りないとか
言うとでも思ってんのか。
「婆ちゃんさ、悪いんだけど…、俺はすでに
婆ちゃんから報酬は貰ってるから、
この金は受け取れないんだよ。
だから、この金はルビータウンの
温泉旅行にでも使ってくれ。」
「報酬って……アタシは坊やに何も……。」
「くれたじゃん。ほらこれっ。」
俺は袋から「それ」を取り出し、口の中へ放る。
「飴玉。3つもオマケしてもらったしな。
充分すぎる報酬だ。」
「坊や……、アンタって子は……。
ありがとうねぇ………っ!」
婆ちゃんの優しさと、飴の甘さにアテられた
だけだよ。
ただそれだけだ。
その日は町人全員からお礼を言われ、小さな宴が
催された。
そして翌日___
「滝?」
昨夜の宴の後、宿屋の主人に一番良い部屋に
タダで1泊させてもらった。
そして今は みんなで一緒に朝食を摂っている。
するとカヤが、お茶を飲みながら話し始めた。
「ああ、水の精霊なら やはり水場に居るんじゃ
ないかと思ってね。昨日の宴の時に、町の人に
それっぽい場所が無いか聞いて回ったんだ。
そしたら この町の西にある、川の頂上に
大層立派な滝があるみたいだと聞いてね。
どうせ他にアテも無いんだし、そこに行って
みないかい?」
「まあそうだな……、そうするか。
よしっ! 善は急げだ。行くぞお前らっ!!」
テーブルにあったリンゴをシャリッと齧り
声を張り上げる。
「アタシのデザートッ!!」
____
_________
_______________
「ここか………。」
宿屋を出た後、軽く準備を整えた俺達は、
西の川を登り、荘厳な滝の下まで
来ていた。
「あ〜、空気美味い。マイナスイオンってヤツ
かな? 身体がすっげぇ爽やかなんだが。」
「いや……、これは魔力だね。ここら一帯の水質
に微量の魔素が混じってる…。
どうやらアタリのようだよ、ソラ。」
「でもあのコ、どこにも居ないわよ?
というか、ここまで来といてなんだけど、実は
アタシあんまりあの子に会いたくないって
いうか………。」
「うっ………、やっぱりシルフィーもかい?
まあ僕も彼女は苦手なんだけど……、でもそうも
言ってられないだろう? 火の精霊を相手する
には彼女の水の力が……。」
「何ごちゃごちゃ言ってんだよ?
そんなヤバいヤツなのか水の精霊ってのは?」
「アンタはたぶん大丈夫よ……。」
「そうだね……。」
? なんだろう………イケメンに弱いタイプなの
だろうか……?
なら仲間にするのは非常に楽だろう。
でもその前に__
「大抵こういう滝には……よっと!」
俺は岩を跳び、滝の裏側を覗きこんだ。
すると___
「おっ、あったあった。やっぱり滝の裏にある
隠しステージは王道だよな。
お〜い、お前ら見つけたぞ!」
滝裏の洞窟を見つけた俺達は、様子見で
誰か1人洞窟に潜り込むという話になった。
ならば当然___
「俺が行く。」
「危険ですお兄ちゃん。レムも一緒に
付いて行きます。」
「大丈夫だよ。相手はイケメンに弱いんだろ?
じゃあ俺なら大丈夫じゃないか。」
「ちょっと何言ってるか分からないわね。
誰がイケメンで、誰がイケメンに弱いって?」
あれ? コイツ目と頭悪かったっけ?
いや、頭は悪かったか。
きっとさっき言った事も、もう忘れているの
だろう。
「ねえ、何かしら? その哀れみの目は?
とりあえず ひっぱたいていい?」
「ま、まあまあシルフィー。確かにこの場の
誰よりもソラは安全だよ。彼女もいきなり襲い
かかったりはしないよ。
じゃあソラ、一時間経っても戻って来なかった
ら、僕達も加勢に行くよ。それでいいかな?」
「ああ、それで頼む。」
「それと……これを渡しておくよ。」
するとカヤは、懐から錠剤がいくつか
入ったビンを取り出した。
「なんだコレ?」
「モンスターを人間にする薬………を作る過程で
生まれた失敗作だよ。」
失敗作?
「いや、どうせなら完成品くれよ。」
「ソラ、これは確かに失敗作だけど、これはこれで
使い道があるんだ。」
「使い道って……どんな?」
「例えばレピィ君に飲ませた完成品は、ハーピーと
人間の身体能力の違い、飛べない違和感、骨格などの
修正といった、別の種族になった時の様々な問題を
解決する物だ。」
「ほう……?」
「対してこの失敗作は、その問題点が「そのまま」
残っている。極端な話、四足動物に飲ませるだけでも
身体のバランスが取れなくなり、歩く事もできなく
なるんだ。」
「つまり………。」
「昨日のジョロキアスネークなんかの大群なら
まだしも、強力な個体なら これを飲ませるだけで
簡単に逃げられる。持っていて損は無いよ。」
なるほどな……。
これは確かに使える。
「まあ、普段は僕達が一緒に居るけど
一応ね。この洞窟にも、もしかしたら
そんな強い魔物がいるかもしれない。
危なくなったら、すぐに大声を出すんだよ?
駆けつけるからさ。」
「喘ぎ声が聴こえたら、すぐに引き返すんだぞ?
わかったな?」
「キミが手遅れなのは わかったよ。」
シルフィー達を外に残し、俺は1人洞窟を進む。
20分程歩いた辺りだろうか__
「ここは………入り江………か?」
一番奥まで進むと小さな湖が広がっていた。
ここに水の精霊が居るのか……?
俺は息を大きく吸い、声を上げた。
「おおーいっ!! 誰か居るかぁーっ!?
絶世の美男子が参上しましたよーーっ!?」
……返事が無い、ただの ぼっちのようだ。
こうなれば俺の美声で、水の精霊を喚ぶしか
あるまい。
「んっ、んんっ! ア………ア〜〜〜♪
よしっ、「西にボロンッ♪東にボロンッ♪
毎日毎日ボロンボロンッ♪北にボロンッ♪
南にボロンッ♪年がら年中ボロンボロンッ♪
東西南北ボロンボロ__」
「うるっさいっスよっ!!!
なんスかこの雑音!? いったいどこのどいつ
ッスか!!」
俺のマイフェイバリットソングを聞きつけ
現れたのは___水の精霊……なのか?
メネア・◯・ドッグ先生や天原◯国先生の
作品は何か普通に笑っちゃう。
どうも、オムラムライスです。
くっそ生意気な女の子って………いいよね。
堕とした時の興奮が五割増しですもの。
いいよねぇ………うん、いいなぁ………。
次の生け贄は決まった。
え? 腹パンはありますかって?
ハッハッハッ!
それは止めとこうか。




