エピローグ
気持ちのいい朝だった。ベッドから身を起こして背伸びする。今日も一日良い日になるに違いと確信させるには十分な爽やかさだった。
顔を洗い、歯を磨くと、すぐに朝食の時間だ。少し味気ない気がするメニューだが、特に文句を言うほどの不満を感じるわけでもない。なんでも美味しくいただき恵みに感謝する。
食事を終えて食器を片付けてぼーっとしていると、いつものように先生がやってくる。
「体の調子はどうかね」
病室にやって来て尋ねる医者に対して、彼女は快活に答える。
「ええ、もうすっかり良くなりました。先生のおかげです」
そう言って元気そうに体を動かして見せる。
「そうかそうか。正直驚いているよ、君の回復力には。あれだけの怪我だったのに……若さのおかげかな?」
そう言って医者は朗らかに笑った。それに合わせて彼女も笑った。
「きっともうすぐ退院できるだろうから、それまで大人しくしているんだよ」
「はい、分かりました」
去っていく医者に見送り、彼女は手を振って応えた。
往診の時間が終わり暇になった彼女は、静かに本を読み始めた。身体はすこぶる元気なのだが、入院している手前、外出したり暴れまわったりと言うわけにも行くまい。暇な時間があれば専ら、本を読んでいるか勉強をしているかのどちらかだった。
漏れ出るあくびを噛み殺す。本の内容が退屈なわけではないが、こう穏やかな陽気だとついつい眠気が襲って来る。
くしゃくしゃと短い髪を揉んで眠気を飛ばす。ついこの前、読書の度に煩わしかったのでお願いして看護師の人にばっさり切ってもらったのだった。すっきりとして割と気に入っている。
再び読書に戻ろうとすると、不意に病室の扉がノックされた。
「どうぞ」
彼女が促すと、扉を開いていつもの男の子が病室の中に入って来た。
その男の子は彼女と同じくらいの年齢であるようだった。もしかしたら同級生なのかも知れない。だが彼女はその男の子のことをどうしても思い出せずにいた。
度々訪ねてきてくれるのできっと親しい間柄だったのだろう。彼以外に友達が尋ねて来るということはなかったので、きっと親友だったに違いない。が、それでも思い出せず、彼女は申し訳ない気持ちになっていた。
かと言ってその男の子とは多くを語るわけでもなかった。隣人との世間話と同じような他愛もない話題しか出してこない。もしかしたら、自分が記憶喪失だから気を使っているのかもしれないと思うと彼女はさらに申し訳ない気持ちになった。
本当は気を遣い合うのが気まずいからあまり来て欲しくないんだよな、とは言えず。彼女はいつものように適当に言葉を交わして、いつものように気まずい雰囲気のまま別れたのだった。
入れ替わるようにして、老人が入って来た。年の割に体と髪がしっかりした人だ。杖を突いて病室に入ってくる。
どうやらこの老人、親族であるらしかった。男の子と同様、度々彼女の部屋を訪ねて来る。彼以外の親族とは会ったことが無い。他に訪ねてくるものも居ない。
老人の話では、彼女の両親は既にこの世には居ないと言うことだった。どういうことかと聞くのは気まずく詳しく尋ねなかったが、不思議と不安も失意もなかった。そのうち語ることもあるかも知れないと、彼女はただそう楽観的に考えていた。
自分にはこの体がある。ご飯があって、本も読める。それだけで十分だった。記憶なんてなくてもきっと何とかなる。
窓の外を眺める。何故か彼女の心は晴れやかだった。晴れ渡る空に輝く太陽に希望を感じて、彼女は今日も一日を生きていく。
とりあえずこれで終了です。
久しぶりに小説書くので練習にと思って書いた作品でした。
今後、矛盾点を直したりとか完成度上げるために加筆修正したりとかはあるかも知れません。
せっかくだからネット小説大賞とやらに応募してみようかな。
では、最期まで読んでくださって、本当に、本当にありがとうございました!