表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女転生  作者: まーくん
15/19

14

 通りの表とは違って、ビルの裏側はほとんど人通りがなかった。車から降ろされた直人はただ男たちの指示に従って無抵抗に引きずられていた。車内で携帯も取り上げられてしまった。

「オラ、さっさと来い!」

 胸倉を掴まれて非常口のようなところから雑居ビルに放り込まれる。中は薄暗い階段がずっと上まで続いていた。

「最上階だ。上れ」

 薄闇の中、僅かに銀色の金属の光沢が閃く。その脅威にやはり無条件に従うしかない。

 直人は残された綾の事が気がかりだった。あの後、綾がどういった扱いを受けたのか、想像に難くはなかった。まさか殺されることはないだろうが、心身共に責め苛まれるのは間違いないだろう。それを分かっていて抵抗せずただ大人しく捕まってしまった自分は卑怯者だったのだろうか。直人は考えていた。

(俺は悪くない……)

 だってそうではないか。自分に何ができたと言うのだろう。自分は超人ではないし、少年漫画の熱血ヒーローでもない。ただの非力な男子高校生だ。逆らったからと言って何ができたというのだろう。隙を見て逃げ出して、なんとか警察に助けを求めるのだ。それが最善じゃないか。自分はただチャンスを待っているだけだ。そう胸中で呟く。

 だが今まで男たちには一部の隙もなかった。車中では両サイドから挟まれて飛び出すこともできなかった。これから先本当にチャンスは廻って来るのだろうか。逃げ足に自信があるわけでもないので、もし隙があったとしても本当に逃げ切れるのだろうか。不安が心を支配する。

 最上階についてしまった。男に促され廊下を進んでいくと、そこには事務所らしきものの入り口があった。入り口には、有限会社〇〇ファイナンスと書かれていた。

「入れ」

 促される。この中に入ってしまったら、もう逃げ道もクソもない。このまま男を振り切って逃げきってしまわなければ終わりだ。頭では分かっていたが足が言うことを聞いてくれない。恐怖で震える脚で直人は事務所の中へと入って行った。

 足を踏み入れると中は普通のオフィスといった様相だった。事務机やファイル、パソコンや電話や複合機など至って普通の仕事場のように見える。それほど広くない室内は簡素にまとめ上げられている。

 だが、奥へと通されると様相が一変した。部屋の中央には高級そうなソファーとテーブル。ソファーにはタバコを吹かすいかにも暴力的な男がデンと座っている。その男に負けないぐらいの強面たちが数人、その周りを取り囲んでいる。その男たちのさらに奥には社長の机と椅子、ショーケースの中には高そうな骨董品、そしてその上には日本刀が二振り。壁には社訓のように滅私奉公と書が掲げられている。

「さっさと入れコラ!」

 後ろから尻に一撃貰い、中へと蹴り入れられる。自然と土下座するような形で床に這いつくばった。

 ソファーに座っていた男がゆっくりと立ち上がる。顎で男たちに指示を出す。

「お前たち準備しとけ。残りの奴らは隣の部屋で待機しとけ」

 男たちは返事をすると部屋を出ていく。室内には直人と直人を連れて来た男とボスらしき男だけになった。

 ツカツカとボスの男が歩み寄ってくる。煙をまき散らしながら直人の顔を覗き込んでくる。

「ボウズが嬢ちゃんのオトコなんだってな」

 言って、ボスの男は側に立つ男に直人の携帯を寄こすように要求する。

「一応コイツ縛っとけ」

 ボスに指示された男が、どこから取り出したのかわからないが頑丈なロープで、慣れた手つきで直人を縛り上げていく。後ろ手に縛りあげられ、両足首も縛られて身体の自由を奪われる。もう自力で逃げ出す可能性は絶望的だった。体勢を起こすのも難しく、床に這いつくばるしかなかった。

 直人はなんとか上体を持ち上げボスの方を見ると、自分の携帯を弄る男の姿が目に入って来た。おそらく自分の身元や家族構成、交友関係を探っているのだろうと察し、直人はさらに絶望に沈んだ。

「へー……直人くんに……綾ちゃんねぇ……」

 タバコを持つ手の指で顎をさすりながら、ボスの男は愉快そうに笑った。

「お前ら殺すから」

 唐突な言葉に直人はさっと血の気が引くのを感じた。何かヤキを入れられるぐらいは覚悟していたが。男は本気で言っているのだろうか。ただの脅しの言葉だと信じたかった。

「な……なん……で……?」

 恐怖で引きつる喉から何とか絞り出して直人は尋ねた。

 ボスが一度タバコを吹かすと、部下の男がさっとその傍らに立ち灰皿を差し出す。そこに灰を落とすとボスは表情をすっと硬くした。

「てめえのオンナがよ、俺のトコの商売潰してくれたわけよ」

 なんのことを言っているのかわからなかったが、男は構わずに続けて来た。

「その被害金額がさ、てめえらの人生数回繰り返しても稼げない額なワケよ。お前がケツ差し出そうが女が股開こうが解決する問題じゃねえのさ」

 男は差し出された灰皿でタバコをもみ消すと直人の髪を鷲掴みにした。頭を引き上げられ苦悶の声が漏れるが、男は構わずに続けた。

「俺って結構真面目なんだよ。こんな地方のチンピラども纏め上げてコツコツ働いてよ。少しずつ事業拡大して、上納金もタンマリと収めて、出世コースまっしぐら。んでこれからって時によォ……」

 ギリギリと手に力が籠められる。痛みに直人は声を上げた。

「ぼ、僕には関係ないじゃないですか……ッ!」

「そうだよ」

 男はあっさりと言った。

「俺たちだってそうだよ。なんの関係もない小娘に邪魔されて、俺の人生設計パァだぜ? 理不尽だろ? 許せないだろ?」

 一見平静に装っていたが、男の声には恨みの感情がにじみ出ていた。

「それに無関係かどうかなんてわかんねえだろ。誰の差し金かも知らんしな。お前も、小娘も、洗いざらい調べ上げる。楽しみにしとけ」

 そう言って男は直人の頬を張った。首が吹き飛びそうなその一撃に直人は一瞬意識が飛ぶ。頭の中の空白を追い払うと、自分が泣いているのを自覚した。

 なんで自分がこんな目に合わなければいけないのだろうか。自分は何も知らない。関係がない。綾が何をしたのかも分からないのに、何故こんな仕打ちを受けなければならないのか。自分は悪くないのに。

「お願いします……家に帰してください……何でもしますから……」

 嗚咽交じりに哀願するがボスは聞いた風もなく携帯を弄っている。怪しい履歴がないか確認しているのだろうか。

「オイ、オンナの方はまだ来ねえのか?」

 ボスが苛立たし気に部下に尋ねる。

「ええっと、それはその……」

 部下は言いにくそうに口を淀ませていたが、ボスの気迫に負けて正直に白状した。

「アニキはその……あの小娘と遊んでから連れて来るみたいッス」

 ボスの男はチッと舌打ちしたが、何となく予想していたのか不機嫌そうに顔を歪めただけだった。

「俺を待たせるとはいい度胸だな。あとでシメてやらにゃな」

 もう一度髪を掴まれて頭を持ち上げられる。涙に濡れる直人の顔を覗き込みながら怒りを露わにする。

「俺にこんなガキと遊んで待ってろってか?」

 今度は拳で殴られる。恐怖のせいか痛みは気にならない。ただただこの先の恐ろしい光景を想像して身が竦んだ。

 不意に、直人の携帯に着信があった。ちらりと覗き見える画面を盗み見ると、綾の携帯からの着信のようだった。軽快な着信音が鳴り響き続ける。

 不審げに画面を眺めるボスの男だったが、やや考えたあとその電話を取った。スピーカーモードにしたのか電話の向こう側の音声が聞こえて来る。

「今から行くから……」

「……あ?」

 ボスの男が返事をすると。

 唐突に隣の部屋からけたたましい音が響いてきた。ちょうど扉を蹴破るような音が。

「なんだテメェ!」

 男の怒声、にわかに色めき立つ雰囲気が伝わってくる。そして何か重い物を投げつけるような音、叩きつけられ色んなものが崩れる音。

 殺気立ってボスは振り仰いだ。曇った表情のまま隣の様子を確認するためにドアを開ける。

 最初に目に飛び込んできたのは、並べた事務机をなぎ倒して気絶しているフードを被ったホスト風の男。顔中痣だらけになってかつての男前な姿が見るも無残だった。そして事務所の入り口付近では男たちが殺到し、その中心には頭から一筋血を流した綾の姿があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ