第5話
「いや、もう大丈夫だから…」
「いいえ!!レン様はまだ休んでいてくださいませ!!」
ひとまず問題は置いておいて食事をとることになったが、『自分から食べに行く』というレンと、『持ってくる』というアリスの意見で揉めていた。
「ほら。特にケガもしてないしさ…」
「今はそうですが、あの時の状況からすると少しでも休んでいただきませんと」
「レン様。アリス様はこうなると意見を曲げることはありません」
リーサの説明により、蓮もムダと知ったのかおとなしくベッドへと戻る。
「はぁ…わかったよ…でもいいの?お世話になってる訳だし、家族の人に挨拶とか」
「父は仕事で明日まで帰って来ません。母もそれに付いて行ってますので」
「そうなんだ。じゃあ明日にでも挨拶に行くよ」
魔界でもトップに立つ人物は忙しいようで、ゲームの魔王のように王座に座っているイメージではないようだ。
「ちょうど明日は選定戦前の祝賀会がありますので、どうなさるにしろレン様には出席していただかなければいけません」
「オレも?」
「はい。参加者は全員出席になってますし、辞退表明もそちらですることになってます」
そういうことなら出席するしかない。
それにアリスからの申し出に答えを決めかねている蓮にとっては決定の参考になるかもしれない。
「リーサ。わたくしもレン様とここで食べます。用意をお願いできますか?」
「かしこまりました」
アリスはリーサに食事を二人分用意させ、二人は一緒に夕飯を済ませた。
「ねぇアリス。オレが君に協力したとして、それから君はどうするつもりなの?」
「わたくしは魔界の制度を変えたいのです」
「制度?」
「レン様にも言った通り、魔界は力による実力主義。でもそれは言い方を変えれば野蛮だということです。ですから、わたくしは色々なものを見て魔界を変えるお手本としたいのです」
「アリスはすごいね……」
蓮はそう言いつつも、同時に別のことも考えていた。
「(聞かなければよかったかな…こんなの聞いたら何も出来ないくせに力を貸したくなるじゃないか…)」
その後、アリスは部屋へと戻って行った。
「さて…どうするかな?」
-コンコン-
蓮が明日のことを考えていると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
ドアが開くとリーサが入ってくる。
「失礼いたします。レン様にお客様が参っているようです」
「そうですか。ありがとうございますグレスさん」
魔界に知り合いなどいない蓮にとって、客などは見当もつかなかったが、呼ばれては向かうしかない。
「レン様。私のことはどうぞ気軽に『リーサたん』とお呼びください」
「『たん』ですか…?」
「はい。私が調べたところ。なんでもレン様の住まわれる人間界の日本では近しい人物には『たん』を付けるとか」
なぜ魔界に日本の偏った情報が伝わったのかは不明だが、女性とはいえゴツいリーサをそう呼ぶことに蓮はかなりの抵抗があった。
「それはちょっと使う場面が限られるので…とりあえず『リーサさん』でもいいですか?」
「レン様がそうおっしゃるならば…」
なぜかリーサの顔はとても残念そうだった。
リーサに先導され、蓮は屋敷内を進み玄関と言うには広すぎる、ホテルのエントランスのような場所へとやって来た。
「あっ!蓮!!こんなところで何してるのよ!!」
自分を呼ぶ声に蓮はその人物の方を向く。
「えっ…!未羽!?」
そこには魔界にいるはずのない幼なじみが怒った様子で立っていた。




