第4話
「は…?」
突然のことに蓮は理解が追い付かないようだ。
「(『ツマ』ってあれか?刺身の横に付いてるヤツ。魔界にもあるんだな…)」
「レン様。どうかなさいましたか?」
「いや…ツマって聞いたら腹が減っちゃって…」
蓮の発言にアリスは少し驚いた表情を見せた後に笑みを見せた。
「今からわたくしの手料理を楽しみにしてくださっているのですか?まだ料理は練習中でして…御入り用でしたら我が家のシェフに作らせますが?」
「えっ…シェフ?」
「はい。ミュランサ家のシェフは一流ですのでご心配はいりません」
「あれ?ミュランサ?それって…」
そこでようやく蓮の中で全てが繋がった。
「(ミュランサ家って…オレが親父に『行け』と言われた選定戦の舞台じゃねーか!!)」
今までさんざん嫌がってきた選定戦。
まさか親父の言っていた相手とこんなところで出会うなんて思ってもいなかった。
「あの?確認いいかな?」
「はい。どうぞ」
「ここはミュランサ家の屋敷で、アリスはここのお嬢様ってことなんだよね?」
「そういうことになりますわね」
「で、アリスは選定戦で夫になる人物を探すと…」
「それで合っています」
しかし、蓮の問いにアリスは少し寂しそうな表情を見せる。
「アリス。始まる前からこんなことを言っては悪いんだけど、オレは選定戦に参加する気はないんだ」
「えぇ。そのこともリーサから聞いておりました」
アリスがリーサに目配せをし、リーサが詳しい説明を始める。
「こんな出会い方とはいえ、アリス様を妻にしようと考えている方を簡単に引き合わせる訳にはいきません。その点、レン様はその気がなかったようですので」
「まぁオレは日本に帰るのが目的ですから」
「私から見てもレン様は他の候補者とは違うようでしたのでアリス様の力になっていただければと思ったのです」
「力?オレがですか?」
蓮自身、考えてみても役に立てるようなことはないように思えた。
「わたくしは、この選定戦をどうにかして無効にしたいのです」
「理由を聞いてもいい?」
「わたくしは魔界の政権交代により、大統領の娘という立場になりました」
その話は蓮も知っていた。
なぜなら、それが原因で蓮は魔界に来ることとなったのだから。
「ですが、父は自身の権力を絶対にする為に今回の選定戦を開催したのです」
「どうしてそれが権力に繋がるんだ?」
権力が必要なら有力議員や優良血統との婚姻などで事足りるはずだ。
「魔界では結局のところ物理的な『力』が全てなのです。議会で何かを決定しても、力さえあればそれを覆せるのです」
「それはあんまりにも横暴じゃ…」
「横暴がまかり通る。それが魔界なのです。ですから父は選定戦によって候補者を戦わせ、より強い者を婿に迎えようと考えました」
確かに合理的ではある。
しかし蓮には納得できない部分があった。
「アリスの意思はそこにはないの?」
「わたくしが決定に口を出すことはできません…」
「そんな…」
望みもしない選定戦の賞品にされたアリスに、蓮は言葉を見つけられず、アリスも黙り込んでしまう。
それを見かねて、リーサが口を出した。
「だからこそのレン様なのです」
「???」
今の話を聞いたところで、先ほど同様、蓮は『どうすることも出来ない』と感じていた。
「アリス様がおっしゃった通り、魔界では決定よりも力が優劣を決めるものとなっています」
「それは理解していますけど…」
「ですからレン様には力によって決定を無効として頂きたいのです」
「へっ……?オレが?」
力とは無縁の生活をしてきた蓮にとってリーサの言葉は荒唐無稽にも聞こえた。
「どうか、アリス様に力を貸していただけませんでしょうか?」
「(よっぽどグレスさんが戦った方が勝算あると思うんだけど!!)」
見た目からして、蓮よりもリーサが強く見えるのは一目瞭然。
しかし、それでもアリスとリーサの考えは変わらないようだった。
ここまで申し訳なさそうに顔を伏せていたアリスだったが、今度は蓮を真っ直ぐに見据える。
「わたくしには、それを強制することは出来ません…これはわたくしの身勝手なのですから…」
アリスには助けてもらった恩もある。
蓮も何かしてやりたいとは考えていた。
しかし
「少し考えさせてください…」
蓮にはそう答えるのが精一杯だった。




