第2話
「ここ……どこ?」
誰に尋ねる訳でもなく呟いた言葉だったが、もちろん答えをくれる者はここには存在しない。
こういう場合の鉄則として、まずは事態の確認を試みる。
『親父の妄言』→『気を失うような感覚』→『現在』
結論。『全く意味がわからない』
見渡す限りの草原はまるで、アルプスに住んでいる、赤い服を着た少女が、どこから伸びているのかわからない程に長いブランコに乗っている国民的アニメを連想させる。
「呼んだらトライさん来てくれるかな?場所もわかって、さらに勉強もできて一石二鳥なんだけど…」
蓮は現実逃避をしてみたが、状況が変わるハズもない。
『荷物の中の手紙に書いてある』
はっきりとは聞き取れなかったが、父はそんなようなことを言っていた。
蓮はすぐにリュックサックを開けると手紙の他に、何に使えばいいのかわからないようなものが多数入っていた。
ひとまず手紙を取り出し、祈るような気持ちで封を切る。
『蓮。まずはお前に大きな苦労をかけてしまうことを謝りたい』
「気持ちが悪い」
あの父がまともな言葉を並べていることに戦慄さえ覚えたようだ。
とりあえず前半に重要なこと(謝罪等も含めて)は書かれていないようなので飛ばす。
『さぁ~て。ここからは、お待ちかねの玉の輿講座だよ♪』
「これが親父だ」
家族として恥ずかしいのは確かだが、こちらの方が安心できるのも事実だ。
『蓮は今、父さんの転移魔法により大きな屋敷の前にいることだろう』
「(んっ?屋敷?)」
改めて周りを見渡すが、建物はおろか何もない。
『そこで同封されいる書類を見せるように』
確かに書類が同封されている。
「誰に見せろと!!屋敷はどうした!!」
よく見返すと『※注・屋敷以外に転移してしまった場合』と書かれた部分を発見する。
未だに転移という言葉には胡散臭さを感じるが、それにツッコミを入れている余裕はない。
今は家に帰る為に注意書きを読み進める。
『「ミュランサ家のお屋敷はどこですか?」と尋ねながら屋敷を目指す』
「やれるんだったらっやっとるわーー!!!!!!子供のおつかいじゃねーんだぞ(怒)」
全文を読み返してみるが、今の状況に役立ちそうな文面は見当たらない。
「親父め…どうしろっていうんだ…!!」
改めて周りを見渡すと、先ほどまではなかった一筋の煙が見えた。
「もしかして家があるんじゃ!?」
そう思うといてもだってもいられず、蓮は煙の方角へと走り出した。
だが、それは大きな間違いだった。
突然、変な場所へと送り込まれた蓮は冷静さを失っていて気づかなかった。
それが家庭生活で出るものを遥かに超えた量の煙であることに。
どれだけの距離を歩いただろうか?
蓮は煙がどんどん巨大になっていることを気にする余裕もなく、その方向へと向かった。
「なんだよ…ここ…」
たどり着いた場所は確かに『集落』だった。
いや『元・集落』と言った方が正しいだろう。
建物は倒壊し、残骸は未だに燃え続けている。
蓮の目の前に広がっているのは、そんな映画の世界でしか観たことのないものだった。
「ひっ…!?」
通りには異臭が立ち込め、蓮は顔をしかめる。
辺りの様子を探っていた蓮が見たのは、真っ黒に焼け焦げた人の形をしたものや、辺り一面に血が飛び散らせてバラバラになっている人体のパーツだった。
「も…もしかして戦争地帯って訳じゃないよな…いや、でもこれって……」
バラバラに散らばった部分は、攻撃を受けたというよりは食いちぎられたという方が正しく見える。
「でも、こんな大きな口をした動物なんて…」
-バサッバサッ-
何かが羽ばたくような音に蓮は視線を空に向けた。
「おいおい…マジかよ…」
そこにいたのは空想の中のものとばかり思っていた生物。
大きな翼をはためかせ、体は見るからに固そうな鱗に覆われている。
空飛ぶトカゲのようではあるが、口から覗く牙はそんな生易しいものではないことを物語っている。
「ドラゴン…コイツがここの人達を…!?」
蓮が呆気に取られていると、まだ満足いく食事量を得られていないのか、ドラゴンは一直線に蓮の元へと向かってきた。
「くそっ!!」
身の危険に遭い、ようやく走り出した蓮だったが、追跡者は空を飛んでいる上に、歩きづめで疲労している状態では捕らえられるのも時間の問題。
ドラゴンは早くもすぐ後ろまで迫って大きく口を開けている。
「はぁ…はぁ…このっ!!」
蓮はそれを避ける為に咄嗟に右へと跳んだ。
口からは逃れることの出来た蓮だが、ドラゴンが通過する風圧により地面を転げ回り廃墟の壁に背中から打ち付けられた。
「がはっ…!!くぅっ……」
蓮はその痛みからうずまってしまい、逆にドラゴンはこれをチャンスと見たのか、再び蓮へと向かってくる。
「こんなんで終わりかよ……」
遠のいていく意識の中で蓮が目を閉じようとした時、うっすらとこちらに近づいてくる人影が見えた。
大柄でガッチリした体は大きなローブに覆われ、顔はフードを被っている為、判別することはできない。
そして、遂に意識が途切れる前、蓮が最後に見たものは
「(メイド服…?)」
ローブの隙間から見えたのは確かにメイド服だった。




