88:我、降りかかる火の粉どころか既に火中にあったと悟る。
シェラさんと金目美人さんの静かな闘争は続き、更にそこにごっついさんまで参戦しての三つ巴戦と相成りまして。
生きた心地がしない、とゆーかむしろいっそひと思いに逝かせて下さいと胸中で懇願する我の救いの主は、筋肉さんでも枯れじぃでもなく。
「皇后陛下もシェラも、いい加減になさい。 他国の王の前でガオルーンに恥をかかせるつもり?」
その声に、シェラさんとごっついさんがぐっと息を詰まらせる。
「カミラ陛下、貴女も戯れが過ぎます。 貴女はこの国に争う為にいらしたのですか?」
次いで告げられた言葉に金目美人さんも 「むっ…」 と小さく呟き気まずさげに視線をそらす。
「現状、そんなじゃれ合いに貴重な時間を割く程の余裕があるとでもお思いなのですか?」
大仰な身振りと共に言葉を失った三者を冷たい目で睥睨し、その視線はやがて王へと向き。
「…陛下、この場では貴方がすべての権限を握っているのです。
その貴方が場を収めようともせずただ呆然と立ち尽くすのは如何なものかと?」
「あっ、う…、むぅ………」
撃沈スコア更に加算、結局一人で言葉だけでこの場を収めてみせた我の救世主。
「さ、それじゃ気を取り直して会議を始めましょう?
その子は責任を持ってワタシが預かっておくわ」
フリルとレースがふんだんにあしらわれた、ハートマークの意匠のピンク色のエプロン。
それを身に纏うのは身の丈2メートルを超える緑色のアフロヘアの、顔中に大小様々な傷跡が刻まれた凶相の漢。
エプロンに包まれたその肉体は巌の如き鍛え上げられた剛体、二の腕はまるで丸太の様。
ただそこに佇むだけで周囲に放つ覇気はその人物が只者でないことを如実に語っている。
…そんなグリーンアフロの救世主が、暑苦しい笑顔を浮かべながら金目美人さんに摘ままれた我に優しく手を伸ばしてくる。
その光景を前に、我の脳内では先程まで以上の警鐘が鳴り響いていた。
「…すったもんだはあったがとりあえずそれは忘れてくれると嬉しい。
この度の助力、心から感謝する。 歓迎しよう、カミラ陛下」
あの後、なんともいえない空気をどうにかする為に筋肉さんが部屋の外に立つ兵士経由で侍女に指示を出し。
全員が卓に付き、その前に人数分のティーカップが並びやっと一息ついたところで筋肉さんが口火を切る。
どうもさっきのグリーンアフロクリーチャーと今の筋肉さんの発言から察するにあの金目美人さんはよその国のおーさまっぽい。
そんな人とメンチ切り合うとか流石に駄目でしょ、シェラさん。 そして咎めるどころか交じるなしごっついさん。
更に侍女さん待ちの間に耳に入った信じられない言葉。
「流石はヴォイド皇子…」
ハゲしく眩しい人の呟いたその言葉が、ばっちりと我の耳には届きました。
で、この場でこの状況下で感嘆される相手って誰よ? と言いますと……。
「…? あら、どうかしたのかしらラビちゃん?」
恐る恐る振り返って見上げれば視線に気付いたクリーチャーがいかつい笑みをこちらに向ける。
…そうか、コレこの国のおーじさまなんだ。
……ってゆーか、そもそもニンゲンだったんだ。
………なんでエプロン付けてんの?
そんな我の視線に気付かず、ニコニコ……ではなくギチッ、ミチッと筋肉が萎縮する音を立てそうな笑顔を浮かべたクリーチャー。
大丈夫だよね? 我の事覚えてないよね? ラビって呼んでたしネズミーと勘違いされてプチッ☆ と潰されたりしないよね?
「…いや、余の方こそ済まぬ。
歓迎感謝する、ウシュム陛下」
我が内心ガクブルしつつクリーチャーと第三種接近遭遇中にどうやら筋肉さんと金目さんの挨拶の言葉は無事交わされたっぽい。
正直王侯貴族とかの会話ってズバッと要点を言わずにまどろっこしい言葉を交わし合うイメージがあるんで会話に耳を傾ける気はあんまりござーませぬ。
ぶっちゃけこのクリーチャーの西瓜でも鷲掴みに出来そうな掌に抱きかかえられてる現状でそっちに意識振り分ける余裕がないってゆーのが本音だけども。
いつこれが閉じられて我がそのままプチッといくか分かったもんじゃないんだから仕方ないね。
シェラさんも会議の方に集中しているのか既にこちらに意識は向けられていない…っぽい。
とりあえず殺気が送られてくる事はないしきっと今は我の事は頭からすっぽ抜けている事でせう、できるならそのまま我がなんで鳥籠モドキから抜け出しているのかも頭からすっぽ抜けていってて欲しい。 ……無理だろうなぁ。
「それで、ミラ法国はいつ頃やってくると考えている?」
あ、この話題は聞き逃せんとです。
戦争が始まる前にさっさととんずらしないと命が危ない危険がピンチだからね、お耳を気持ちいつもの四割増しくらいでピクピク動かしながら音を拾う体勢に入る。
「…こちらの動きを知って行動を切り替えたのか、そちらに魔導通信で連絡を取った翌日から国内の被害が途絶えた。
が、連中が諦める道理はない。 それまでの侵攻速度、わざわざ都市や村を攻め滅ぼす手間がなくなった事などを考えると……最短で二日後だな」
…ぱーどん?
筋肉さんの発言に、脳が思考する事を拒否し。 それを無理矢理宥めすかして必死に噛み砕いて理解し、我は両前足で顔を覆い天を仰ぐ。
どうやら、この国に迫る魔手は我の考えていたよりもよっぽど長かったようです、まる。




