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85:我、目指すは食糧庫・・・・って、おや?


 昼下がりのガオルーン皇城、その廊下を人目を避けるようにこそこそと蠢く小さな影が一つ。

 言うまでもなく我です。

 抜き足差し足忍び足~、目指すは食糧庫でござる。


 (エアジャンプに忍び足も何もないのでは?)


 気分の問題ですっ。


 (…左様ですか)


 なんかめがっさ呆れた声音と口調で返事が返ってきたけど我は気にしませぬ、こーゆーのは雰囲気が大事なのですよ。

 その辺りの浪漫が分からないとはルカもまだまだおこちゃまぢゃのう、ふぇっふぇっふぇっ。


 (そういえば、第329023観測用箱庭に於いて兎の足は幸運のお守りとして珍重されていたとか。 …いえ、ふと思い出しただけですが)


 ……やめろし、やめて、やめよう、ね?

 ほら、我とか生まれてこのかためっさ不運続きだしさ。

 そんなんの足なんて持ち歩いても絶対幸運とか訪れないって、むしろ呪われる可能性の方が高いって。


 (確かマスター、ステータスの幸運値は7,725ですよね?)


 数字なんてあてにしちゃめっ、ですだよ。

 我を見るがよろし、今までに一度でもその桁外れの数字が適用されたようなラッキーな出来事があったかね?


 (バイオプラントガーディアンに襲われた際に上位水精霊の助力により一命を取り留める、その後上位水精霊に吹き飛ばされるも獣のエサにならず一国の皇女の庇護下に収まる、皇城内においてトップレベルの発言力と影響力を持つと思われる侍女に保護され身の保障を授かる。

  ……それ以外にも細々としたものは幾つもありますし、十分過ぎる程に恵まれていますよね?)


 あれ(ルシェル=ルュスト)に目を付けられるとかこれ以上ない不幸やん。


 (目を付けられなければそもそも今現在生きている訳がないですし、十分に幸運の範疇かと)


 ネーヨ、って言いたいとこだけど確かにそれがなかったらあの木の実を食べた時とかキャロットンガラを齧った時にヴァルハラに旅立ってるんよねぇ…。

 けど、それを差し引いたとしてもアレに目を付けられたのを幸運と呼ぶのはとてもじゃないけど我には無理。

 そしてちょっと話がそれたから軌道修正するけど、アレに目を付けられた我の足とか所持してたら絶対ロクな目に遭わんですよ?


 (別に所持せずとも、作るだけ作ってポイでもよろしいかと?)


 非常によろしくないです、ってーかヤメレ。

 タコじゃあるまいし切られた足が生えてきたりしないのだよ、我は。


 (一応腐ってもマスターは魔物なのですし切られても生えてくる可能性が絶対にないとは言い切れないのですから、一度試してみてから判断しても遅くはないかと)


 ぜってーイヤでごぜーます。

 そもそも万が一何かの間違いで生え変わったりしようものなら以前笑えない笑い話的に語ってたラビ牧畜が現実帯びてくるやん。

 ってゆーかさ?

 ルカ達サポートユニットってこの世界のシステム? に干渉して知識引き出せるのよね?

 なら可能性がどーこーとかじゃなくて、実際足ちょんぱした後どうなるか実は知ってる、もしくはいつでも知れるんじゃないのん?


 (はい、分かりますね)


 よーし歯ぁ食い縛れ。




 などと最早恒例の漫才を繰り広げつつ廊下をこそこそ移動すること暫く。

 今までこうやって我一匹(ひとり)で行動した回数はそんなに多くない、ただその数少ない経験プラスシェラさんに抱きかかえられて城内を移動していた際の記憶を振り返ってみるに、今のこの状況は些かおかしい。

 我が部屋を抜け出してから今まで、出会った…というか見かけた人影は二人連れのメイドさんだけ。

 しかもその二人も何か大慌てでばたばたと走っていた、もしシェラさんに見られてたらきっとあの二人は大目玉を喰らっていたことだろうと思われる。


 シェラさんの部屋は侍女や執事等、所謂使用人に割り当てられた一角の最奥にある。

 なので自然、シェラさんの部屋を出て廊下をえっちらおっちら歩けば時間帯を問わずそれなりの人数の使用人とすれ違ったりするものなのである。 …本来なら。

 にも関わらず今日は二人だけ、それもなんか偉い慌てたご様子で前しか見ていませんとばかりの見事な走りっぷり。

 そんなあり得ないエンカウント率で使用人用のフロアを抜け、その後は誰とも遭遇せずに今に至る。

 普通に考えて仮にも王族の住むお城でこの無人っぷりはおかしい、というか寧ろあっちゃいけませぬ…よね?


 我の胡乱な知識でもこういう重要な施設に人気(ひとけ)のない場所が存在しちゃ駄目なのは分かるよ?

 それが実は罠で不審者や侵入者の気を緩めさせるのが目的とかなら話は別かもだけど、シェラさんに抱きかかえられて移動してた際に所々に兵士が立っていたのは記憶している。

 けど、今はその場所も無人。

 実は魔法、じゃないや魔術で監視カメラ的な何かを仕掛けてるとか?

 思わず天井を見上げるがそれらしき物はなし、いやまぁ魔術でどーこーならそもそも視認できない可能性が高そうだけども。

 でも、もしそんなのあるなら普段兵士が立番をしていたのはいったいなんだったんだ、ってゆーお話な訳で。



 そんな風に思考の海にどぼーんしていた我だったのだが、些かのめり込み過ぎたっぽい。

 どうやらルカの警告の声も耳に届かない程に没頭したらしい。

 とはいえ、それに気付いた時には既に手遅れだった訳だけども。


 「…ガオルーンは、城内で魔物を飼っているのか?」


 そんな声と共に首根っこを摘ままれ、ひょいと持ち上げられる。

 急な事に吃驚しつつ慌ててじたばたともがく我を摘まんだ手ごと反転させ、声の主がその目で我を正面から見据える。


 「ラビの幼体か、もがきこそすれ怯える様子が見えぬ所を見るに人慣れしておるのか?」


 真っ直ぐ我を見つめるその瞳は金色、爬虫類のような縦長のそれを覆う本来なら白である筈の黒目。

 長い薄水色の髪と、気の強さを象徴するが如きつり上がった(まなこ)

 視線を下げていけばその身に纏う真紅の鎧と、腰の辺りから見える背に負うていると(おぼ)しき大剣の鞘。

 一通り眺めた視線を再度上に上げていけば自己主張の激しい胸部装甲。

 そこで改めて視線を顔にやれば、目がなんか変であるという点を除けば非常に整った顔立ちの美人さん。

 おにょれ、この世界の顔面偏差値どんだけ高いのさ、などとついぐぬぬと唸ってしまうのは前世の記憶かはたまたそれとも……。


 「姫、そんなものを摘まみあげてはばっちいですぞ。

  ポイしなさい、ポイ」


 なんだとこのやらう。

 我を摘まんでる美人さんの背後から聞こえてきたその声に思考を中断させ視線をやれば、そこには枯れ木っぽい爺様が一人。

 こやつが我をばっちいなどと言ったのか、許さんっ。

 我は毎日お風呂に入ってシェラさんからぼでーうぉっしんぐされてるから汚れなんてないわっ!!


 「いや、石鹸の香りがするところを見ると随分と愛玩されておるらしい。

  これと比べれば平素のじいの方が余程不衛生だな、見習え」


 すんすん、と我の毛に鼻をうずめた美人さんが枯れ木じぃじに言い放つ、いいぞもっとやれ。


 「人間、風呂なんぞ週に一度入ればいいのであります。

  そもそも我輩が石鹸の香りを身に纏うなぞ、我輩を知る者からすれば抱腹絶倒モノでありますな」


 そんな美人さんにしれっとした顔で言ってのける枯れ木じぃじ。

 うん、我断言するよ。

 我より枯れじぃの方が絶対にばっちいって。















 ………で、今更だけどこの二人どこのどなた様?


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