81:我、ちょっとこの世界のお勉強中。
~『兎人』~
ラビの特性を持つ獣人種。 オスは存在せずメスのみの種族であり、非常に整った顔立ちとスタイルを持つ。 繁殖は他種との交わりによって行われる。
ラビの特徴である長く大きな耳と健脚、そして身軽な身体能力を誇るが性質は非常に好戦的であり、基本的に欲望に忠実。
成人と共に発情期が訪れるのだが兎人種の発情期は常時である為、本来の性質と相俟って成人後はヒト種、亜人種を問わず彼女らにとって異性とは獲物である。
異性との肉体的な関わりのない個体は生来の好戦的な性質と欲求不満とが合わさり闘争行為により昂ぶりを鎮める為、基本的に兎人は獣人種の中でも上位に君臨する武威を誇る。
ただし、それはあくまで通常の場合の話であり、幼少の頃よりしっかりと教育を施し理性や秩序を学ばせれば成人し発情期が訪れても欲望に流される事の無い淑女となる。
とはいえ、種の性質を完全に抑えられる訳ではない為、昼は淑女、夜は娼婦という正に世の雄の理想を体現する存在となる。
その為、幼い兎人を侍女として雇い入れ己の好みに育て上げる行為は上流貴族や豪商にとってステータスのようなものとなっている。 …尤も、大半は育成失敗で昼は娼婦、夜は野獣と化すがそれはそれで本望らしい。
その性質があまりにも魔人種の淫魔と似通っている為か兎人などと表現される事も多い。
尤も本来の淫魔と違い魔術の才覚は非常に拙いが、異性を見れば襲い掛かるその性質を考えると寧ろ体術が得手であり健脚である分本来の淫魔以上に厄介極まりなかったりもする。
『言う事聞かない悪い子は兎人に浚われるよ』
世の男性諸君は幼い頃にこの言葉を親より賜った事であろう。
だがこれは子供を躾ける為の脅し文句などではなく、心からの親心より生じる警告なのである。
彼女達は欲望に忠実、かつ行動してから考えるタイプの戦闘種族ではあるが決して無能でも無知でもない。
人の忠告や指示に従わず周囲から浮いた者と素直で人好きする性格の者、どちらを浚った場合の方がより抵抗や追撃が激しくなるか程度は本能的に理解しているし、時の兎人の長は夜毎に他国の王族を襲い己の肉体で篭絡し幾つもの国を裏から支配した記録すら存在するのだから。
最後に、この老骨の身より血気盛んな若い獣欲に突き動かされる青年諸氏に心から忠告をしよう。
血の滾った兎人の性欲は二日や三日程度で発散されるような生易しい代物ではない。
童女が如く泣き喚き男としての尊厳を粉微塵に打ち砕かれる事を恐れるのならば決して兎人の誘惑に乗ってはならない。
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……うわぁ。
正にそんな感想しか出てこない。
なんだかもういっぱいいっぱいになった我はそっとバインダーに封入された亜人図鑑から前足を離しメッセージプレートを消す。
数日前に会ったあのちみっこい兎耳っ娘もいずれ淫獣になるのかなぁ、とちょっと遠い目をしつつお腹に手を当ててみる。 うん、そろそろお昼時。
心底嫌だけども、そろそろ戻らないとなぁ。 ……と考えつつそっと振り返れば視界に映るのは件の悪趣味な鳥籠っぽい何か。
え? 転移を封じられているのになんであの物体から外に出て収納バインダーを使えてるかって?
話をしよう、あれは今から36万・・・ってこの前足じゃ指パッチンできにぃ!?
「あんまりいらない電波ばっかり受信しているとその首へし折りますよ?」
やめろくださいなさいまし。
我の首とかちょっと力籠めるだけでポッキリいきそうで洒落にならんとですよ。
「…冗談?」
やめて、そのマジトーンな声と真顔で首傾げる仕草すっごい怖いから。
あとその何かを掴んでそのままコキャッと折るジェスチャーもやめろやがられなさい、いやもうほんとに。
と、そんな感じで現在我は普段の声だけルカでなく目の前にいるルカに弄ばれている訳だけれども、まぁぶっちゃけその光景でさっきの疑問の回答は大体想像つくよね?
今までもルカは我の意思とは無関係に勝手に収納バインダーから出てきていた事があった訳で。
なら今回もそうしてもらえば外からこの鳥籠モドキ開けて貰えるんじゃ? と思い至ったのは悪夢に魘され跳ね置き、乾いた喉を潤そうと目をやった先にある水皿が空っぽだったのに気付いてどうにかならないかと脳をフル回転させていた時の事で。
試しに聞いてみたらできるとの事なのでお願いしつつ、それならなんで昨日は出してくれなかったのさ? と恨みがましい視線で問い詰めてみれば。
「聞かれませんでしたから」 というとっても素敵な回答が返ってきましたこんちくせう。
部下の融通の利かなさに頭を痛める我、私事ながら不憫極まりない。
oh...人事とかあったら迷わず駆け込むレベルですよ、ほんとにもう。
「そんなものが存在したら先ずこんな毛玉に仕える羽目に陥った私が駆け込んでいます?」
毒舌は今日も絶好調ですねふぁっきんっ!
笑顔で毒を吐くルカにいぢめられつつ、いつでも鳥籠モドキの中に放り込めるよう手中に収められ鳥籠モドキの扉の前方にスタンバイされる。
ん? けどこれルカがシェラさんの気配を察知してから鳥籠モドキにぽいすれば済むお話であって我を手中に収めてつついたり揉んだりつまんだりと弄びながら待機しとく必要なくない?
そこんとこどーなのさ、とルカに視線で問い尋ねてみれば。
「言われませんでしたので」
と、真顔で答えてくださいやがられました。 放しはせんぞ、とばかりに我を乗せる左手の親指を曲げて我のぼでーをロックしつつ。
ほんとにどっかにないものかしら、oh...人事。




