74:我、詰む。
話は、毛玉が鳥籠を破壊されムンクの『叫び』状態になっていた頃に遡る。
ミラ法国の中央に存在する、神の住まいし大聖堂。
その門前に集結するは白いローブで全身を覆い隠した集団と、そちらに比べれば圧倒的に数の少ない、純白の全身鎧を身につけた少数の集団。
そして、そんな彼らを率いるが如く背後に従えミラの前に立つ、2メートルにも達さん程の頑健長躯の男。
「主よ。 神兵二千、神徒三百、御前に」
そう言い、男が膝をつき頭を垂れれば背後に従う者達も皆一様に膝をつき、深く頭を垂れ恭順を示す。
その様と、眼前に広がる光景に満ミラは満足げに笑みを浮かべ頷いた。
「ガオルーンと、それに追従して参戦する国を滅ぼすならこれで事足りると私は思うのだけれど。
シュタットルム、貴方はどう思うかしら?」
その問い掛けに、シュタットルムと呼ばれた偉丈夫は頭を上げその目をミラへとやる。
まだ若い、壮年と呼んで差し支えないその男は、しかし眼前に立つミラ同様に底無し沼の如き濁り淀んだ眼をしていた。
「その半分でもまだ過剰である、と私は愚考致します。
されどあちらに禁呪という予測すらできぬ一手がある以上備えは必要であるかと」
「相手の奥の手が見えないのに、私を止めないのね?」
くすくすと笑いながらそう問い尋ねるミラに、シュタットルムはニタリと嗤い。
「矮小なる我が身が主の御身を案ずるなど、不敬極まりありませぬ故」
「私が死ねばこの国のすべてが自分のものになる、の間違いなんじゃないかな?」
「否定は致しませぬ」
平然とそう返すシュタットルムに、愉快極まりなしとミラは哄笑する。
狂ったように笑い続けるその様に、シュタットルムは笑みを深め己が主の狂気に浸り。
背後に控える者達は一連の言動を前にしてもピクリとも動かず、ただ彫像が如く膝をつき頭を垂れたままの姿勢を崩す事無く。
「それじゃ、私は存分に愉しんでくるから。
留守番はよろしくね?」
ピタリ、唐突に哄笑を止め、真顔に戻ったミラがそう言えば。
「土産は期待しております。
幸いこちらも遊び相手には事欠かぬでしょうから、主も存分にお愉しみ下さいませ」
嗤いの表情を消し、真顔に変わったシュタットルムはそう答え再度頭を深々と垂れる。
その日、世界に戦火という名の大炎が放たれた。
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時間は戻り、縦ロールさんことポンコツ皇女エンフェイナをシェラが部屋から蹴り出した後。
「それじゃあ私は仕事に行ってくるから。
今日中には新しいものを用意するからそれまではそれで我慢してね?」
そう言い、シェラさんは申し訳なさげに我を件の鳥籠へと仕舞い込む。
一応綺麗な布を沢山敷いてくれているから座り心地だけなら悪くないんだけど、単純に居心地が最悪極まりない。
豪華絢爛、金銀宝石で飾り立てるのが正義とでも言わんばかりの悪趣味貴族が作ったとしか思えないこの鳥籠。
ひと抱え程の大きさの円形のその鳥籠は、格子一本一本にまで無駄に凝った彫金が施され、所々に小さな宝石まで埋め込まれている。
結果、格子を触るとお手々が痛いという阿呆な仕様に。
更に扉は黄金の一枚板で、これもまた無駄に装飾が施されている上に扉を封じる鍵は紅玉を削りだして作られた逸品。
これを作った職人、絶対馬鹿でしょ。
「…やっぱり、見るからに不満そうね」
そんな我の感情を察してくれたのか、シェラさんが苦笑しつつそう尋ねてくる。
我に限らずそこらの野良毛玉でもこれはないわーと思うと思うですよ?
壁一面が黄金で凝った彫金が施してあります、格子にも宝石を散りばめてゴッテゴテに装飾されてます。
そんな牢屋に入れられたら囚人はどう思うよ? ってお話でごんす。
寛げるー、とか居心地サイコー、とか言える感性の人とは正直関わりたくないであります。
「夜までには新しいものを用意しておくから、それまで辛抱していてね」
そんな心底申し訳無さそうな顔で我に辛抱を強いなくても、鳥籠無しでお部屋の中で自由にさせてくれてもいいんじゃよ?
(マスターの信用が底値を割っていますからその選択はありえません?)
どやかましいわでございます。
(それに、昨日のように胸元に突っ込まれるよりは現状の方がましだと思いますよ?)
あ、それは心の底から同意するです。
もうお手々が死んじゃうのは嫌でござる。
(なら我慢しましょうね?)
むぅ……、まぁシェラさんがお仕事に行ってる間外に出てればいいか。
(そのまま寝入って鳥籠の外に出ているのを見られちゃったー、という展開はいりませんよ?)
頼まれてもしないやいっ!! ……多分。
などと恒例の問答を繰り広げている間にシェラさんは仕事に出かけて暫く。
うん、そろそろ出ても大丈夫でせう。
でわでわ、転移~~……。
…しないね、転移?
(…この鳥籠、どうやら魔封じの効果があるようですね?)
なんで鳥籠にそんなもの付いてんのさっ!!?
(防犯か何かなのでは?
それにしても、本来であれば "魔法" を封じるなど不可能の筈なのですが。 …ああ、単純にマスターが魔力制御に慣れていない所為で効力が及んでしまっているようですね)
がっでむ。
ならその魔力制御とやらを教えろ下さい。
(無理です?)
なんでさっ。
(仮に魔力制御の方法を教えたとして、魔封じの効力下のここでどうやってそれを実践するんです?)
…まふーじって、魔力そのものを封じるの?
てゆーかさっきからそう認識してたけども、魔力ってステータスの魔力ってゆー項目の事でいいんだよね?
(この場合の魔力はマナ、つまりステータスの表記で言えばMPを指します。
そして魔封じは、効力下にいる者の体内のマナを掻き乱す事で魔術の発動を阻害するものです)
ほむほむ。
(まず、魔術の行使を計算だと考えて下さい。
そして、その計算を行う為に魔術師は体内に電卓を持っていると考えて下さい)
計算に、電卓……。 おけ、考えた。
(その電卓で計算をしている最中に外部から電波が送られてきてモニタに表示された数字が勝手に増えたり減ったり、押してもないのに足す、や引く、といった計算を行使してしまいました。
そうしたらどうなりますか?)
まともな計算ができませんっ。
(はい、よくできました。
それが今マスターの体内で起こっていることです)
ん~と、それじゃ魔力制御は暗算って考えればいいの?
(さっきまでの例に当て嵌めるとそうなりますね)
ならさ、やり方教えてくれればふつーにできるようになるもんなんじゃないのん?
(それには計算式を知っていれば、という注釈が入りますね。
そして、その計算式は言葉で教えられるものではありません)
何故に?
(数字の概念も知らない子に言葉だけで教えられますか?
仮に教えたとして、1~0という数字がどういう形なのかをマスターは一つ一つ言葉で説明できます?)
なんか書くものないと無理。
(その書くもの、が自分の脳みそでそこに書き込むための道具がマナです。
実際には色々と異なりますがそんな風に認識すれば現状が理解できるでしょう?)
つまりノートはある、ペンもある。 でもインクがないから勉強ができぬぇー、って事?
(そんな感じです)
…じゃあ、我ここから出れないの?
(シェラ=フォーンが戻ってくるまでは籠の鳥ならぬ籠の毛玉ですね)
……転移が駄目って事は、収納バインダーさんかもーんして本を読んだりも?
(できませんね)
おーまいごっど。
頭を抱え、絶望の表情を浮かべ、そのままぽてりと我は布の上に倒れ込んだ。
一瞬 「呼んだー?」 という幻聴が聞こえた気がしたがきっと気のせいだと思う。




