71:我、vs書物。
……ハッ!! と気付いたら朝でした、まる。
っていやいや、おかしいおかしい。
確か我、収納バインダーさん召喚して読書開始した筈だよね?
なのになんで朝になってんの? 天狗か? 天狗の仕業なのかっ!?
(単に書の内容が理解できずに数行目を通した時点で力尽きただけですよね?)
ち、ちゃうねん。
きっとあれだよ、あの書には読んだ相手の意識を強制的に刈り取る的な呪いが掛かってたんだよ。
(戦わなきゃ、現実と)
だ、だってあんなに難しい内容だなんて思わなかったんだもんっ。
我悪くないもん、被害者だもんっ!
(まぁ、確かに『よいこのまじゅつずかん』が開幕から術理と世界法則についての説明から入るとはなかなか予想できるものではないでしょうけれど…)
でしょ、でしょっ!?
つまり悪いのはこの本を書いた人であって我は題名詐欺に引っ掛かっただけの哀れな犠牲者だもん。
(その1頁前の目次に『序文・読み飛ばし推奨』と書かれていますが?)
読み飛ばし推奨乗せるのが悪いと思うです。
きっぱりとそう言ってのける我に何故かルカは溜息をこぼす。
いや、これどう考えても悪いの我じゃなくてそんなものをわざわざ乗せた著者側だよね?
魔術のまの字も分からないからちゃんと全部に目を通さないとっ、と決意して挑んだ結果見事に撃沈しちゃったのは全部書いた人とこの本を作った人が悪いよね?
しかもそのページ飛ばしたら次のページからはファンシーなイラスト付きでちみっこでも理解できるよう分かりやすく簡単な文章で魔術の説明が始まってるとかもう明らかに悪意あって作ったとしか思えんとですよ。
あれです、コウメイノワナっていう奴なのです。
(言いたい事は分からなくもありませんが、とりあえず貴女は天狗と孔明に謝りましょうね?)
見た事も会った事もない相手に謝れとはこやつめハハハ、ぬかしおる。
(天狗、この世界には実在していますよ?)
ファッ!?
(ちなみに風の上位精霊ですのでマスターなど一瞬でミンチですね)
アイエエエ!? テング!? テングナンデ!?
しかも精霊!? それも上位!?
ミヅチさんの御同輩が天狗!? 真っ赤なお顔とのっぽなお鼻で決め台詞がこの鼻でお相手つかまつるっ!!?
(また電波を受信していますよ、マスター)
ピーガガー……ハッ、われは しょうきにもどった!
(落ち着きなさい)
そんな声と共に唐突に我の頭部に何かが直撃する。
声にならない絶叫をあげながら悶絶する我と、そんな我の頭頂部から転げ落ちる推定我の頭部を襲ったナニカ。
涙目でそちらに目をやると、そこには我の頭にジャストミートするミニサイズの金ダライ。 ……どうやって用意したし、こんなん。
(このツッコミはルシェル=ルュストの提供でお送りしました)
どやかましいわすかぽんたんっ。
声の限りに心の声を張り上げる我の眼前で、無駄に神々しい効果音と共に上空から光の筋が降りてきて舞い散る羽のエフェクトを発生させながら金ダライが空へと昇っていく。
そのまま天井に吸い込まれるように消えるタライをじっと見送った後、一つ深呼吸をしてゆっくりと瞼を閉じ、そして見開き……。
貴様この箱庭に直接干渉できないんじゃなかったんかいっっっっ!!!!
腹の奥底から搾り出した声なき魂の叫びが、虚しく室内に響き渡った。
「あら、起きていたのね」
あの後、頭部に残る鈍痛と叫び過ぎて酸欠を起こしクラクラする頭を鎮める為にベッドに突っ伏していた我だったのだが。
そんな状態でも我に意識があるとあっさり看破したシェラさんに首根っこをつままれそのまま準備完了した浴槽へと連行される事に。
はふぅ、お風呂のあったかさが我の心を鎮めて……くれるわきゃない、絶対にあの駄女神の顔面に我の足跡を刻み込んじゃる。
コ ノ ウ ラ ミ 、 ハ ラ サ デ オ ク ベ キ カ 。
駄女神の顔面に一撃叩き込むべくイメージトレーニングに熱中し過ぎた所為で、気付けば食堂の食卓の上でした。
あれ、我いつの間に身体洗われてお湯で濯がれてタオルで拭かれて推定風魔術&ブラッシングのコンボ喰らった挙句食堂まで運ばれたの?
ってゆーか目の前の食器が空っぽで我のぽんぽん一杯なんだけど、もしかしてもう食後?
(あそこまで無我で食事をできるのはある意味凄いと思いますよ?)
褒められてる気がせんとです。
(褒めてないですから)
あ、左様ですか。
シェラさんが我の前足と口元をナプキンで拭ってくれるのに身を任せつつ、いつものようにルカと掛け合い漫才。
嗚呼、平和って素敵ね。 人類皆兄弟、争いは何も生まんとですよ。
(つい先程まで脳内で延々暴威を振るっていませんでしたか?)
ルシェル=ルュストは人類チガウからいいのです。
え、我もヒト違う?
中身はヒトだったっぽいからいいんです。
胸を張ってそう断言する我に、再度ルカの口から溜息がこぼれるのであった。
解せぬ。




