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68:我、シェラさんの胸元でへるぷみーを叫ぶ。


 う、前足(うで)が死ぬるぅ~……。

 シェラさんルームのベッドの上に突っ伏しぐったりする我の両前足は現在絶賛ぷるぷる中。

 握力? そもそも前足にまったく力が入らず自分の意思ではぴくりとも動かせませんが何か?

 我がこんな有様になっている理由は数時間前に遡る。




 「では、私はそろそろ仕事に戻りますので」


 我がルカにいぢめられている間にどうやら会話はある程度のキリを迎えていたらしく、シェラさんがそう口にする。 そいえばお昼ご飯食べてからそんな時間経ってないしまだ陽も高いんだから当然シェラさんはお仕事中だよね。

 この縦ロールさんの襲来で一旦職務を離れて戻ってきたのかしら?


 「あら、(わたくし)と遊んではくれないのかしら?」


 そんなシェラさんへと寂しげな声音で呟きながら唐突に接近してきて腕に抱きつき上目遣いになる縦ロールさん。 ってコラ、こっそり我に手を伸ばそうとすんなし。

 幸いというか当然というかそれはシェラさんから察知され、手首を掴まれ捻り上げられそうになった縦ロールさんは素早く身を翻してシェラさんから距離をとる。


 「つれないですわねぇ、シェラ」


 「暇な時でしたら多少付き合う程度は構いません。 が、今は仕事の途中ですので。

  ああ、心配せずとも必ずお付き合いしますのでお気を落とさぬよう。 …この子に手を出そうとした報いは必ず受けていただきます」


 首だけ反らして頭上のシェラさんを見てた我のばかー。

 絶対零度の視線とそれに籠められた殺意とか怒気とかもろに見ちゃったじゃないのよさー、これ絶対夢に見て魘されるやつでござーますだよヤダ~!?

 …ねーねールカ、今晩我と一緒に寝て?


 (寝言は寝てどうぞ)


 ちくせう…。


 「ああ、それとエンフェイナ様?」


 「何かしら?」


 「この子の鳥籠、しっかりと弁償して下さいね?

  もし弁償していただけない場合、ヴォイド様にエンフェイナ様を説得(・・)して頂けるようお願いしないといけませんので」


 お?

 今まで常に余裕めいた微笑を浮かべていた縦ロールさんの顔が明らかに崩れた?

 どうやらこの縦ロールさん、ヴォイド様とやらが鬼門っぽい。


 「し、シェラ、話せば分かりますわ。

  代わりの鳥籠は明日必ず買ってきますから、だからどうかお兄様には内密に……」


 なんか真っ青なお顔でガクガクと震えながら懇願する縦ロールさん。 …なに、そんな怖いのヴォイド様って人。

 しかし明日、明日かぁ……。 つまり今日はお部屋無しかぁ……。


 (鳥籠でなく推定そのメイドに抱き締められた状態とはいえ堂々とベッドで眠れるのなら元・人間(マスター)としてはそちらの方がありがたいのでは?)


 …言われてみればそれもそーね。

 そっか、推定シェラさんの抱きぐるみ状態とはいえベッドで眠れるならどう考えても鳥籠よりいい待遇だよね。

 なんで我、鳥籠で寝られない事にしょんぼりしてたんだろ。


 (家畜の自覚でも芽生えたのでは?)


 そんなモノごみ箱ポイしちゃいなさい。

 きっとあれです、数日とはいえそれが当たり前だった&純粋に巣穴(おうち)より快適だったからとかそんななんですっ。


 (はいはい、ではそういう事にしておきますね)


 むきーっ!

 我は家畜でもなければ生きた素材でもなーーーいっ!!


 (そうですね、マスターは愛玩動物(ペット)ですし)


 むっきーーーーっ!!!



 と、いつものように我とルカが問答(まんざい)をしている間に話はついたらしく、すっかり借りてきたぬこ状態の心なしか左右のドリルも萎えてる気がする縦ロールさんを部屋の外へと放逐し。

 部屋の扉の戸締まりを終えたシェラさんは職務へと復帰したのであった。 ……我を胸元に突っ込んだまま。

 ええ、我もご一緒デス。 これから 『絶対に手を離したらいけないおぱーいスライダー24時、(手を離したら華麗に滑り落ちてエプロンドレスの隙間から)ポロリもあるYo☆』 の始まり始まりdeathヨ?


 ………ぼすけて。



 こつ、こつ、と靴音を響かせながら皇城の廊下を歩くシェラさん。

 まぁなんとなくは理解してたし、連れられて食堂に行く時とかに侍女長って呼ばれてたから偉いんだろうなーとは思ってたけども。

 兵士っぽいの、メイドさん、騎士ちっくな人、モヒカンヘアーで棘付きの黒塗りレザーアーマーを身につけた半裸な人……って待て、待って、最後のナニ?

 …シェラさんも普通にスルーしてたからアレ、別におかしな代物じゃないのかしら?

 ま、まぁいいや。 気を取り直しつつそんな感じでさっきから廊下でいろんな人とすれ違ってる訳なんだけども。

 シェラさんに気付いたらみんな会釈するのよね、それも軽い会釈でなくペコリ、と礼儀正しく深々と。

 兵士な人とかメイドな人とかなら分かるけども、騎士な人って普通それなりに立場あるものなんじゃないのん?

 それがあんな丁寧な会釈するって侍女長って我が想像してるよりもお偉い立場の人なのかしら?

 え? モヒカンレザー? あれは理解不能だからのーこめんと。


 会う人会う人みんながどこの誰子さん? 状態な筈もなく。

 時には食堂で見かけたシェラさんと仲の良いっぽいメイドさんとかとも会う訳なんですけども。

 この人たち、我の事を見知ってるからかどこかの誰子さん達と違って会釈の後顔を上げる際に我に気付いて頭上に "!?" を浮かべたりはせずに近寄ってくるんですよ。

 で、そのまま我に向かって手を伸ばしてくるのね?

 やめろし、我そんな簡単にお触りを許す程お安い女じゃないし。

 と、そんな意思を籠めて伸ばされた手を前足でペチる訳なんですけども。

 なんでかメイドさん達、お手々ペチられてんのにきゃーきゃー言いながら嬉しそうにしてんの、訳分からんとです。

 兎ハンドに肉球なんてないのにね、何が嬉しいんだろーね?


 ちなみに時折我に気付いてシェラさんの胸元に手を伸ばしてくる明らかに我目的じゃないよね、って分かる好色面した男もいたんだけども。

 漏れなく皆さん伸ばした手をシェラさんに掴まれて、そのままペキンッてされてます、指の骨を。

 あれかしら、我びはいんどゆーって言った方がいい? それとも嫌だね?

 縦ロールさんもあの時即座に身を翻して退避してなかったら指ペッキンされたんだろうなぁ……って。

 …おぅふ、今日もまたどこからともなく送られてくる謎電波は絶好調でござーますね。



 な~んて、余裕があったのはこの辺までのお話で。

 それから後はどんどんエプロンドレスの襟元を掴んでいる前足が悲鳴をあげてき始めまして。

 突撃! シェラさんのお仕事見学~、とかとてもじゃないけども言えやしない状況でござーました。

 で、前足はもう限界、我此レヨリ自由落下セリ、っていう脳内アナウンスが聞こえてきた辺りで不意に後ろ首を抓まれて胸元から引っ張り出されて。

 ベッドの上にぽてちょと置かれて今に至りまする。

 状況的にこれからおゆはんなんだろうけど、前足的な意味でご飯食べれる気がしないにゃあ。

 我の現状に気付いてシェラさんがご飯食べさせてくれる事を祈りませう、お腹空いてるし。


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