63:我、虐待される。
お、おぉう。 まさか現実に縦ロールを拝む事になるとわっ!
髪の長さは首筋が隠れるくらい? で、肝心のドリr…コロn…縦ロール様は頭の横、左右にひとつずつ装着されている。
濡れたらどうなるん? とか毎朝セットに何時間かかってんの? と現実的な疑問が頭に浮かぶけどもそれはまとめて丸めてポイしちゃって。
あれですね、縦ロールとか浪漫デスヨネ? とりあえず拝んどこう、なもなも。
「…あら?」
そんな風に両前足を合わせてなんまいだ~していた我に気付いた縦ロールさんが我の部屋へと近寄ってきて───
ガッシ。
と、そんな擬音がしそうな乱暴な持ち方でマイルームを持ち上げる。 見た目はおぜう様っぽいのに結構ワイルドですね、縦ロールさん。
などと考えている我の思考など分かるはずもなく、顔の高さまで鳥籠を持ち上げた縦ロールさんはじろじろと無遠慮にこちらを観察している。
年の頃は十代半ば~、くらいかな? 気の強そうな顔立ちですね、例によって偉く端正なお顔ですねこんちくせう。
シミ、皺のしの字もない、水を弾きそうなぷりぷりした肌しやがってやがられますね、若さの特権かふぁっきん。
でも我だって負けてないもん、生後一月もたってないぴちぴちだもん、毛並みもとっても触り心地がいいってシェラさん褒めてくれたもんっ!
「…シェラの非常食かしら?」
ここに来てからちゃんとご飯も食べれてるし毎日運動もしてるから健康的だもん…──、って今なんて言ったこの縦ロールッ!!?
非常食!? 非常食と申したか我をっ!!?
「小さくて食べ応えがなさそうですわねぇ、毛艶も悪くはないけれど量が採れなさそうですし…。
あれかしら、育つのを待っているのかしら?」
両手でわっしと掴んでいた我入りの鳥籠を片手、というか人差し指一本で支えくるくると回しながらそんなことをほざきやがられる縦ロールさん。
ぱわふりゃーですねあーた、とかバランス感覚良いのね、とか器用ダネ~、とか浮かんでは消えるけどそれはさておき。
やめれ~、目が、目がぁ~! 動物…じゃない魔物虐待で訴えるぞ~っ!!
抗議団体? 知らんがな。 最悪シェラさんに泣きつけばきっとなんとかなる、筈。
てゆーかまじでやめて、本気でやめて、もう我のお目々ぐるんぐるん回ってるからっ、このままじゃまたマーライオンしちゃうからぁぁああぁぁあぁぁぁ~~~っ……。
「人の部屋に無断で押し入った挙句、ペット虐待とは随分と好き勝手な真似をして下さいますね」
意識が朦朧とし、ナニカが喉元までせり上がってきて脳内カウントダウンを開始した我の耳をくすぐる待ち望んでいた声音。
次いで一瞬の浮遊感、そしてすべすべとした柔らかな温もりのある何かにその身を包まれ、そっと抱き留められる。
ぐるんぐるんな視界に活を入れてそっと見やればそこにはシェラさんのご尊顔、そして我を優しく包み込むその掌の温もり。
嗚呼、我、助かったんだね……。 心の底から湧き上がる安堵感に目の端から乙女汁が溢れ出す。
ぷるぷると震える前足を必死に伸ばすとそれに気付いたシェラさんが柔らかな笑みを浮かべ、もう片方の手の人差し指と親指で前足をきゅっと優しくつまんでくれる。
今なら我、シェラさんを信仰する自信があります。
え? リアル神様?
信仰どころか拝んだ事すらござーませんが何か?
我の目の端に浮かぶ乙女汁に気付いたのかそっと指先で拭い取り、そのまま優しく我の頭を撫でながら。
まるで首から上だけ別の存在にでも変わったかの如く怒気と殺意を漲らせた視線を眼前の少女へと向けるシェラさん。
……にも関わらず相変わらず我を包み込む掌の感触は柔らかく優しいままで、頭を撫でる指の感触からも慈愛を感じる。
ここまで同時に別種の感情を使い分けれるって凄いね、シェラさん。
「流石ね、シェラ。 いつの間に部屋に入ってきたのか、まるで気が付きませんでしたわ」
そんなシェラさんの怒気もどこ吹く風と受け流し空の鳥籠を放り捨て笑みをたたえる少女と……って何しやがられますかこの縦ロールっ!?
「私の記憶が確かならファンギルの学院にいる筈ですが、何故ここにエンフェイナ様が?」
絶対零度の視線でそんな少女を射抜くシェラさん。 我、あの視線向けられたら多分ショック死シチャウヨ?
掌の感触と頭を撫でる指の温もりに癒されてるけどなんだか背筋に氷でも突っ込まれてる気分ですだよ?
「それは勿論、抜け出してきましたの。
ミラ法国との戦争だなんて素敵なイベント、この私が見過ごす筈がないでしょう?」
この眼光を前に笑顔を崩さないどころか堪えきれないとばかりにくすくす笑うとかあーた凄いのね縦ロールさん……。
てゆーか真剣勝負が素敵? なに、この縦ロールさん戦闘狂かなんか? いや、真剣勝負の内容が戦闘とは限らないけども。
けどあの縦ロールさん、なーんとなく肉食獣っぽいのよねぇ。 いやいや、印象だけで判断しちゃ駄目だね。 ちゃんと相手の事を知った上で判断しないと。
「…何故、エンフェイナ様がそれを?」
小さくぴくり、とシェラさんの眉が跳ねる。
はて、その真剣勝負とやらは縦ロールさんには内緒のイベントだったのかな?
などと小首を傾げていた我の甘い考えは、次の瞬間には粉微塵に打ち砕かれる訳で。
「知っていて当然でしょう? あれだけ声高に各国に喧伝しているんですもの。
曰く、 『神を忘れ邪悪に頭を垂れた悪逆非道なるガオルーン皇国の不義に鉄槌を』 だったかしら?
ここ以外のすべての国が知っていますわよ、ミラ法国がこの国に攻め入る、と」
……ゑ? はい?
攻め入る? 各国に喧伝?
もしかして、さっき言ってた真剣勝負って戦争……?
え、本気と書いてマジデ? 平穏さんがログアウト? こんにちは戦火の炎さん?




