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62:我、ルカと会話する。


 ところで満面の笑みを浮かべて木箱に頬ずりしているルカさんや?


 「なんでしょう?」


 改名のやり方を教えてくだちぃ。


 「ありません」


 …ぱーどぅん?

 白目で首を傾げる我をルカがひょいと持ち上げ、自分の膝の上に乗せながら言葉を紡ぐ。


 「名乗らなければいい、もしくは偽名をでっち上げて名乗ればいいのでは、と私は判断しますが。

  マスターの場合そういった誤魔化しでなくステータスとして表記されている名前の変更を希望しているのですよね?」


 いえす。

 まさか兎耳っ娘に呼ばれただけで名付けになっちゃうとかお釈迦様でも気付くまい。


 「ヒト種やその類型と違って魔物は基本的に個体識別名称など必要としませんからね。

  結果、誰かからそう呼ばれればその呼称がそのまま名称として定着してしまいます」


 もっと早く教えてほしかったとです。

 て、ゆーかそれって酷くない? 拒否権とかそーゆーのってないの?


 「命名が成立するのは基本的に上位存在から下位存在に対してです、無論個体識別名称を持つ者は対象外ですが」


 上位存在とか下位存在ってなに?

 少なくとも上位存在ってゆーのの一等上にルシェルとかがいるのは予想がつくけども。


 「そのまま、その存在の格が上か下かですよ?

  基本的にその辺りにいるひと山いくらレベルの魔物であればヒト種より下位に位置します」


 はい、我下位存在確定ですねこんちくせう。

 その辺りにいるひと山いくらレベルはごぶごぶとか毛虫とかスライムとか六本足の烏とかのラビのご飯勢?


 「そうなりますね、ただそれらの中でもラビは最下位ですが」


 ご飯勢より下っ!?

 この世界のラビってどんだけハードモードなのさ。


 「ゴブリンは元々ヒト種の子供程度の知能はありますので脅威性は高いですし、イエローワームは成長するとシャインピューパ、そこから更に成長すればマギクスモスという凶悪な魔物になります。

  スライムはあれで元は精霊種ですのでその補正で、と言いますかどのような環境にも完全に適応して自己進化する上に成長速度も速いですから基本危険な魔物という認識ですね。 まかり間違っても最序盤の雑魚敵、などと思ってはいけません。

  最後にシナスタークロウですが、あれは別名腐肉喰らいとも呼ばれる魔物でして疫病や悪菌のキャリアーとして恐れられています。

  シナスタークロウの群れを撃退した都市が謎の疫病で滅んだ、という笑えない話もありますよ?」


 …我、というかラビのご飯勢がどれも洒落にならない代物だった件。

 ってゆーかですね、六本足烏さん食べて大丈夫なんラビ?


 「駄目だったら今頃絶滅しているかと。

  そも、病原性のウィルスや菌を体内に取り入れたシナスタークロウは通常種と比べて凶暴性や身体能力が増しますからラビ程度では勝ち目がありません?」


 ご飯にするんじゃなくてされる側に変わる、と。

 あれ、でもファザーなら勝てたりするんじゃないの? なんか見た感じ結構強かったけども。


 「勝てるでしょうけどわざわざ強い個体に挑むよりは他の獲物を狙うかと。

  マスターの父上にしてもわざわざ空を飛ぶ相手を狙うよりその方が楽でしょうし」


 ご尤もである、よくよく思い出してみればあれが食卓? に並ぶのってそんなに多くなかった気がするし。

 大体いくらファザーがそれなりに強いっぽいって言ってもあっちから襲い掛かってくる空を飛ぶ魔物とまともに遣り合おうとはしないよね、普通。

 そうでなくともマザーや兄弟姉妹ズのご飯調達しなきゃなんだから仮に六本足烏がおいしかったとしても質より量を選ぶだろう。


 「マスターも理解できたようなので話を戻しますが。

  下位存在と上位存在の違い、存在の格が上か下かを決めるのはそれらの持つ魂に左右されます。 分かり易い目安としては自我、自意識の有無などですね。

  単純な実力の大小だけでなく一個の生命として確立されているものほど上位の存在である、と世界(システム)からは認識されます」


 つまりラビはその点に於いてもごぶごぶやスライム、毛虫や六本足烏以下、と。

 切な過ぎて涙も出ねぇでございますですよ、ぐすん。


 「マスターのような例外どころかバグレベルの代物や異常な進化を遂げたラビを除けば基本ラビは生きた素材ですので。

  システムもそう認識して格付けを行っているんだと思います?」


 ちくせう、ラビだって精一杯生きてるんだぞーーーっ!!

 素材扱いすんなし、ラビっていう括りで考えるなら異常進化したラビも含めて格付けしろしっ!!!


 「…もしそうなった場合、ラビが最上位存在の一角に躍り出る可能性は非常に高いですが。

  この格付け、マスターに分かり易い言葉で説明すると上位になるほど撃破時の取得経験値が高くなります」


 あ、なんか急にゲームっぽくなってきたってよく考えたらルシェル達がプレイヤーの箱庭ゲームでしたねここ。

 ってゆーか異常進化個体加えたらそこまで跳ね上がるとかピンキリの差が激しすぎやしませんかね、ラビ。


 「異常進化個体(それら)は説明をすると非常に長くなってしまいますので置いておくとして、現状ラビは先程言った通り生きた素材としてヒト種から、そしてその味からヒト種以外からも積極的に狙われ狩られています。

  更にそこに高い格による大量の経験値、という付加価値が生まれた場合どうなると思いますか?」


 …絶滅フラグ?


 「もしくは養兎場が作られて完全に管理されるか、かと」


 それはとっても素敵なディストピアデスネ。

 やっぱさっきの無し、格付け最下位でお願いするです。


 「そもそもマスターが言った程度で実施されるほど世界の理(システム)は安くありませんのでご安心を」


 そりゃそうだ、しかし結局収穫はなしか~。

 ちくせう、見た目が白いからってシロとかそんな安直な名前なんて大っキライだ。


 「ポチとかタマの方が良かったです?」


 御免蒙りまする。


 「では逆に、こういう名前がいいという希望などは?」


 まったくもって思いつかないであります。


 「ならもうシロでいいじゃないですか」


 やだい、やだい。

 見た目そのまんまな安直な名前なんてやだいっ。


 「人の膝の上で転げ回りながら面倒臭さ極まりない発言をしているところ申し訳ありませんが生きた素材(マスター)、この部屋に誰か接近してきていますよ?」


 ふぁっ!? まさかシェラさんもうお仕事終わったの?

 え、我そんな長いことルカとお喋りしてた?


 「視たところ、あのメイドとは違いますね。

  結構な速度でこちらに向かってきていますのでお部屋(とりかご)に戻しますね?」


 そう言って我の首筋を摘まみ上げ鳥籠へと放り込み


 「では、私はこれにて。 ……ああ、そういえば」


 軽く会釈をし、その姿が段々と薄れていく中でふと何かを思い出したかのように唇を開くルカ。

 なんぞ? と首を傾げた我へ視線をやり、にっこりと微笑んで……


 「空間魔法の収納バインダーですが、収納している書き物に目を通したい場合はそのカードに触れてそのまま暫く待てばメッセージプレート形式で内容が浮かび上がってきますからいちいち取り出して目を通す必要はありませんよ?」


 そう言い残し姿が掻き消え、僅かに残った残光が我の中へと吸い込まれていく。

 多分収納バインダーに戻ったのであろうと思われるがでも今は、そんな事はどうでもいいんだ。重要な事じゃない。


 そっと目を閉じ、深く深呼吸をひとつ。

 そして、万感の想いを籠めてお腹の底から声を張り上げ…───



   『もっと早く言え~~~~~~ッ!!!』



 そんな声鳴き我の叫びが轟く静寂の室内に突如鳴り響く乱暴に扉が開け放たれる音。

 あ、そういえば誰か接近中みたいな事言ってたっけ、とあまりのタイミングにビクついた己の心臓を宥めながら戸口へと目をやると。


 「シェラ、話は聞いたわょ………って、不在ですの?」


 金髪縦ロールの真っ赤なドレスを着た少女の姿がそこにはあった。


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