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57:我、誰かさんと間違われる。


 あ、ありのまま今起こった事を話す。


 『井戸を見つけて周囲を見回してみたら都合よく水の張られた(たらい)があったんでわーいらっき~♪ と飛び込んで体をごしごししてたらなんか兎耳っ娘とご対面した。』


 催眠術だとか超スピードだとかそんな代物じゃあ断じてない、我の野生の本能の無さと警戒心さんのログアウトの影響を感じたZE……。


 …はい、ぶっちゃけ体洗うのに全力投球で周囲への警戒が御留守だっただけとです。

 やっぱりさぁ、これ設計ミスだってルシェルぅ~…。

 小動物なんだから気配察知とかそんな感じのスキルくらい頂戴よ、ほんとに。

 ただでさえ我達ラビって生きた優良資源扱いで基本見つかったら狩られるがデフォっぽいんだからさー。


 などとぐちぐち脳内で文句をぶーたれていた我をいつの間にかしゃがみ込んでいた兎耳っ娘がじーっと見つめてきて。

 我が気付かないとでも思ったかそーっと手を伸ばしてくる。

 まぁ気付いてるんですけどね。 そして我はそんなにお安くない、ただでお触りはお断りです。

 と、ゆー訳で近寄ってきた兎耳っ娘のお手手を耳ではたく。

 首を振るって遠心力のままに弧を描いたそれは兎耳っ娘の手を払い除け、ついでに多大なダメージを我に与えた。

 …うん、これ以後封印。 冬場の冷え切った耳が如き激痛に加えて耳の中がすっごいキーンってする。


 暫く己の耳を両前足で押さえ激痛に悶える毛玉とおろおろとその様子を見守る兎耳っ娘という間の抜けた光景が繰り広げられ…───


 「い、痛いの痛いの飛んでいけ~…?」


 結局お触りどころかナデナデまで許してしまった不甲斐ない我でしたとさ、ぐすん。




 「痒いところはございませんか~?」


 にこやかな笑顔で我の身体をワシャワシャと洗いながら兎耳っ娘。

 特にないので耳をぴこぴこ揺らして否定の意を示すと汲んでくれたのか兎耳っ娘の手が違う箇所へと動き再度ワシャワシャ。

 あれです、はっそーのてんかんであります。

 断じてお触りを許した訳じゃござんせん、これはただ単に身の回りの世話をさせているだけなんです。 …だけなんですっ。

 正直我一兎(ひとり)でごしごしするより他の手を借りた方が綺麗になるしね、仕方ないね。

 幸いというかこの兎耳っ娘、我の体の汚れを血糊とは気付かなかったのか鼻歌交じりで楽しそうにぼでーうぉっしんぐしてくれてるし。

 苦しうないぞ、存分に我にごほーしするが良いわフゥーハハハー、という気分で身を任せておりまする。


 …ぶっちゃけ普段シェラさんにされてるのとあんまり変わらないですな、この状況。

 違うところがあるとすればこの兎耳っ娘の洗い方?

 同じ耳と尻尾を持つ者の差なのかシェラさんよりこの子の方が洗い方が上手かつ気持ちいい。

 耳周りとか尻尾の付け根の洗い方とか心得ておりますね、この子やりおる。


 「でもラビさん、どこから入ってきたの? ここは人間さんのおうちだから勝手に入ったら怒られちゃうんだよ?」


 この兎耳っ娘、どうやら我を野良ラビと思ってるっぽい?

 いやまぁラビの生態的に人間に飼われてます、日々楽しく過ごしてますとかふつー有り得ないから仕方ないっちゃ仕方ないのかもだけど。

 基本は資源として問答無用に狩られるし。

 仮に友好的に接されても性根は臆病なので他生物に寄られたら気絶、そのままお持ち帰りされてペット可愛がりされたとしても腐ってもカテゴリ魔物分類の端っこに申し訳なさげに居座っている身、懐くことなどありえませぬ。

 ただし、外見だけのラビモドキな我はそんなの関係ない。

 生きるためなら媚だって売るし愛嬌くらいいくらでも振り撒きまする。

 そりゃ可愛いもの好きは篭絡されて当然ですね、存在として有り得ない "人懐っこいラビ" だもん。


 と、ちょっと思考が逸れたけどこの子が我を野良と思ってるのは当然といえば当然な訳で。

 むしろ最近できたシェラさんのオプションとして認識されてたらなんでここにいるのかってお話になっちゃうから我的には渡りに船である。

 全身で我シェラさんと無関係ダヨ~、ただの野良ラビダヨ~オーラを醸し出しておく。 いや、どんなオーラなのよってツッコミはなしで。

 兎耳っ娘もそれ以降ツッコミもなくワシャワシャしてくれてるしきっと醸し出されてるんだと思う、多分きっとおそらくめいびー。


 「お水流すね」


 な~んてお馬鹿な事を考えていたら声、次いで頭上から水。

 ちゃんと耳を手でカバーしてちょろちょろ程度の少量の水を流してくれてる辺り気遣いが光りますな。

 水で濯がれたまいぼでーに赤い染みは既になく、生臭い匂いも……ちょっとはしてるけど言われないと多分気付かないレベルだよね?

 鼻をくんくん鳴らしている我の体が不意に(たらい)から引き上げられ、そのまま白い布の上にぽふんと置かれて。

 もう一枚布を持ち出した兎耳っ娘によってわしゃわしゃと水気を拭われる。 …のはいいんだけども兎耳っ娘さんや、君今その布どこから出した? もしかして脇に置いてる洗濯物っぽいものが詰まった籠から出しませんでしたか? だとしたらこの布使用済みの代物じゃござーませんでしょうか?

 まぁ野良認定の毛玉相手にそこまで気を使えとか新品の布を即用意しろとか無茶ぶりもいいところだし仕方ないと思うんだけどもさ。

 それでも、その、なんだ……なんかもにょる?


 「さっぱりした?」


 そんな我の気持ちなど露知らず、ぺかーっという擬音が付きそうな笑顔でこちらに問い掛けてくる兎耳っ娘に不満げな態度を見せる訳にもいかず。

 実際使用済み、の部分が気になりはすれどさっぱりしたのは事実なので素直に頷くと。


 「…さっきからもしかしたら、って思ってたんだけど。

  もしかしてラビさん、私の言ってる事が理解できてる…?」


 oh....。

 以前シェラさん相手にもやらかしたのに懲りずにまたコレである。

 ほんと学習しないね、我。

 い、いやでもまぁきっとあの時のシェラさんみたくラビ種なら仕方ない~、で流してくれる筈っ。 などと都合の良い未来を夢見ていたが為に。


 「…まさかラビさん、兎神様の御使い?」



 …………はい?


 故に、次いで紡がれた言葉はあまりにも予想とはかけ離れた言葉であり。

 真剣な顔でこちらを見つめてくる兎耳っ娘に、我は疑問符を浮かべることしかできなかった。


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