54:我、実は危険生物?
やめれー、兎の首は360度回ったりしぬぇーっ!!?
声無き絶叫と共に跳ね起きた我の視界に映るのは鉄格子。
どこ、ここ? 今度は何が起きたし? と首を傾げる我を覗き込むように鉄格子の外から見やってくる一対の瞳。
「よく寝ていたわね、お腹は空いてない?」
そう問い掛けてくる視線の主……シェラさんのお顔をじーっ。
「? どうかしたの?」
どう見てもシェラさんですね。 匂い的にも間違いありませぬ、くんくん。
と、いう事はここはシェラさんのお部屋で、現在我は宛がわれた鳥篭の中。
うん、状況分析完了。 現況把握気味。
…は、いいんだけどもさっきまで我、謎空間にいたよね?
仮にあそこで気絶して送り返されたとかだったら洋服ダンスの上で大の字なんでないのん、我?
破廉恥痴幼女が気を利かせて……くれるようには見えなかったしルカが気絶した我を鳥篭に放り込んでくれたのかしら?
じーっと顔を見つめ、鼻を鳴らし匂いを嗅ぎだしたかと思えば今度は首を右に左に傾げながらの百面相。
こうして列挙してみると不審以外の何物でもありませぬな。
シェラさんもそう思ったのか、心配そうな顔でこちらを見ながら鳥篭の戸を開けて我に触れてくる。
「どうしたの? どこか具合でも悪いのかしら?」
いえいえ、大丈夫ですじょ?
我に触れるその手を両前足で掴み、こしこしと頭を擦りつけてナンデモナイヨ~アピール。
── 直後、両手で捕獲されて鳥篭から引っ張り出されて頬擦りされますた。
この人チョロ可愛いなぁ。 そして我ってば魔性のオ・ン・ナ♪
……そこ、鼻で笑うなし。
お夕飯、入浴、湯上がりのひと時といつもの流れから就寝。 いつも通り我はシェラさんに抱っこされた形でありまする。
我自身もう既になかば忘却の彼方だけど、本来我を拾ったのってあのちびっこ皇女でシェラさんはただ我の世話を頼まれてただけなんだよね~。
それが気付けば我すっかりシェラさんのペットである辺り、現実さんって気まぐれ激しいよね。
いやまぁあのちびっこ皇女に世話されたりしたら多分我死んじゃう未来しか無さそうだったし現状に不満はないんですけどもね?
…ゴメン、ちょっと嘘ついた。
ファザーとかマザーとか兄弟姉妹ズがいないの不満です、ってゆーか寂しいです。
むぅ、どうも我この体に引き摺られて精神年齢下がってるっぽい。 いや、以前の自分の年齢とか知らないけどもさ。
でも、少なくともママパパいないよー兄弟いないよー寂しいよー、なんて事はなかった……筈。
普段はナリを潜めてるけどふとした拍子にいきなり沸いて出るのよねー、この寂寥感。
で、精神年齢下がっちゃってるっぽい所為でそれをうまい事処理できなくて目からこう、ポロポロと、ね? 心の汗が零れちゃうわけですよ。
ちくせう、ルシェルめ。 ちゃんと感情面もフォローしとけよぅ。
シェラさんに抱っこされるがままに胸元に顔を埋めて人の温もり補給アンド心の汗を拭いながら愉快犯にタンスの角に小指をぶつける呪いを送り続ける事暫く。
ようやく心の汗も止まり、感情の波も治まって我、復・活っ!
元々お目々は赤いから心の汗が決壊しても目立たなくていいですね。
静かな室内には微かに聞こえるシェラさんの寝息、ほんとだったら我も一緒に寝息を立てている時間だけど今日の我は一味違う。
お昼寝してたお陰か本日襲いかかってきた睡魔さんはあんまり強くなかったとです。
さてさて、それではこの時間をどう使うべきか。
考えるまでもなく抱っこ状態で拘束されて消灯されたこの現状で読書は不可能。
部屋を抜け出すのももしシェラさんが目を覚ましたらピンチがやばいので却下。
…あ、そうだ。
前々からできるんじゃないかな? と思ってたアレ試してみよっと。
抱っこ状態から身動ぎし180度回転、シェラさんの胸元に顔でなく背中を預ける。
左前足を握り締め、心の中で転移、と強く念じる。
ただしいつものように移動するイメージではなく、目標に目掛けて一直線に走るイメージで。
脳内に目標と左前足を繋ぐ道筋が浮かぶと同時に左前足を突き出しながら心の中で叫ぶ。 ラビブロー、と。
ペチンッ!
そんな小気味良い音と共に、花瓶に飾られた花の内の一つが軽く弾かれゆらゆらと揺れる。
我の左前足には確かな感触、そして僅かな花香と真っ白な毛並みを染める黄色い花粉。
その結果を以って我の目論見は正しかったと判明、ひゃっほう。
…抱っこ状態で小躍りした所為で抜け出そうと思われたのかシェラさんの抱き締める手に力が篭もりますた、ぐふっ。
相変わらず寝息は聞こえるからほぼ無意識なんだろうけどもそれ故に加減が、加減ぎゃ~っ!?
あの後、全力でじたばたしてたらシェラさんも目が覚めたみたいでどうにか今回はルシェルとご対面せずに済みますた。
シェラさんは我が寝惚けて暴れたと勘違いなさって 「めっ!」 というお叱りの言葉を貰いました、解せぬ。
でもよく考えたら我が小躍りしちゃったのがそもそもの原因じゃなかったっけ……? うん、解せた。
そんな我を再度抱っこし、シェラさんは横になり。 暫くすると可愛らしい寝息が聞こえてきました。
こんなすぐに寝入る位に疲れてるのね、シェラさん。 起こしちゃってごめんね?
と、まぁ反省と懺悔はさておくとして、も一度目線を自分の左前足へ。
そこに僅かに付着した花粉と微かに香る花の匂い。 その意味するものに我にっこり。
今試した事、それはずばり全身でなく部分的な転移。
ラビブロー中に前足の先っぽだけを目標地点に転移、インパクトと同時に転移を解除。
結果がベッドから離れた机の上に置いてある花瓶の中の揺れる一本の花と我の左前足についた花香と花粉。
つまり実験は成功、距離を無視して安全地帯から攻撃を繰り出す事は可能という素敵な現実。
転移さん万歳、空間魔法様ばんじゃ~いっ!
…けど、今更ながらこれってもし失敗してたりしたら我の前足なくなってたんじゃないかしら? とふと考えてしまった瞬間背筋が凍ったけどもね。
最後の最後に余計な事を考えてしまったお陰で絶賛がくぶる中な訳ですが、とりあえず成功は成功な訳で。
とりあえず今は使い勝手の良さそうな新技に素直に喜びませう。
ルシェルを始めとした心を読める相手への不意だまとして使えるかもしれないし、別に攻撃に限らず遠くのものを移動せずにとれたりとふつーに便利そうだしね。
バインダーさんの収納用魔法陣と組み合わせれば人目を気にせず気付かれることもなく遠くのものをポッケないないしたりもできそうだし、期待に胸がダンシングですな。
ん? そういえばバインダーさんの収納用魔法陣って容量とか一度に収められる質量の限界とか固体じゃなきゃ駄目とかあるのかしら?
もしないなら大岩とか収納して相手の頭上で解放とか、大量の水を一気に解放して土石流~、とかできるかも? できないかも?
ってゆーか仮にそんなんできたら危険生物ってレベルじゃなくね、我?
制限なかったりしたら簡単に国とか人とか滅ぼせちゃうんですけども………?
…うん、今の疑問は封印。 試すのも基本禁止の方向で。
もしどうしようもない状況に陥っちゃったりしたら解禁するかもしれないけども。
併せて、さっきふと思い浮かんだ転移って我以外も移動できるの? もお蔵入りで。
部分転移と組み合わせたら首ちょんぱとか普通にできるんじゃ、とかそもそも上空に転移したら後は勝手に死んじゃうよね、とか考えてません。 考えてませんったらっ!!
考えないようにしても次々に浮かんでくる疑問に段々と怖くなってきた我は、知らず人の温もりを求めシェラさんの胸元に潜り込みがくぶるしつつ睡魔さんを希う寝付けぬ夜を過ごすのであった。




