49:我、籠の鳥。
あの後、首ねっこを摘ままれたままお部屋へと連行されまして。
床に正座(?)させられてシェラさんから延々お説教を受ける羽目になりました。
まだ周知されていないのに勝手に出歩いたら危険~、やちみっこい体躯の所為で気付かれずに踏まれたりしたら危ない~、等々。
ラヴェルナ様やティセリナお嬢様、その他可愛いもの好きのメイドや兵士に見つかって連れ去られたらどうするんだ~、等々。
私の癒しがなくなったら困るでしょ~、等々。
我フィルターがかかってるけど大体こんな感じの内容でお説教されますた。
「それにしても、一体どうやって部屋を抜け出したのかしら…?」
ぎくり。
まぁ万が一にも空間魔法を使っただなんて思い至る訳はないけども、それでもやっぱりその辺を追求されると色々とおかしいと勘繰られてしまう訳でして。
あざとさ130%増しで鼻をふすふす鳴らしながら我の前で同様に床に正座した体勢で説教をしているシェラさんの膝に両前足を乗せながら顔を見上げて、こう、小首をコテンと傾げて愛嬌を振りまいてみせますると。
「~~~~っ!?」
感極まったのかシェラさんに抱き上げられて頬擦りされました。 ふふり、チョロいもんですだよ。
はふぅ、とかほぅ…、とか口元から零れている辺り効果は抜群ですな。
ただし、ちょっとばかりクリーンヒットし過ぎたっぽい。
なんか時折我の耳をはみはみ甘噛みしてくるのはやめろくだしあ、くすぐったむず痒いであります。
あと我の身体を持つ手に力が入りすぎでありまするですだよ? 我のやわらかぼでーをそのパワーで抱き締められたらその内中身出ちゃうdeathよ?
あ、ちょ、ま、本気でくるしぃ、うぼぁ~。
ぐったりした我に気付いたシェラさんから解放されること暫く。
嗚呼、空気ってこんなに美味しかったんだなぁ……、とそっと心の涙を零す我。
なんかみしみし言ってたけど我の骨、折れたり罅ってたりしないよね?
動いても痛くないよね? 我、シェラさんを信じるよ?
恐る恐る右前足をぴくり。 うん、特に痛くない。
続いて左前足をぴくぴく。 うん、こっちも大丈夫気味。
でわでわ、両後ろ足に力を篭めて~。 うん、ちょっと怖かったけどだいじょぶ。
そのまま後ろ足だけでなく前足にも力を篭めて、ゆっくりと身体を起こす。
うん、刺すような痛みとかはないし身体を動かすのに不具合もないから骨に異常はないっぽい。
ちょっと抱き潰された時の影響で体中に鈍い痛みがあるけどそれだけ、我は無事気味である。
…だからシェラさんや、その土下座をやめてはくださいませんでしょうか?
手乗りサイズの毛玉にめがっさ美人さんなメイドさんが土下座してる図とか誰得デスヨ?
前足でぺしぺししたり頬や手の甲にすりすりする事十数分、どうにかシェラさん起き上がってくれました。
ぶっちゃけ今回の一連って発端は言う事聞かなかった我だし我絞殺事件にしたって我が可愛すぎるが故の悲劇な訳でして。
うん、言っててなんだけどシェラさんなんにも悪くないっていうか十割我が原因だわ。
そんな事を考えている我を再起動後テーブルの上に乗せて頭をなでなでしていたシェラさんだったんだけど、不意に懐から懐中時計を取り出して確認、一つ溜息を零して立ち上がる。
ああ、お外まだ太陽さん頑張ってるし我のお腹具合から見てお昼過ぎくらいですもんね。
時間的に今は休憩中とかでこれから午後のお仕事かな?
お仕事頑張ってきてくださいな、流石に我も午後はお部屋で大人しくしておきますですから。
……な~んて考えてた我の首根っこをシェラさん摘まんだ~、そして持ち上げて~?
そのままドアの前まで歩いて~、扉の脇に置かれた籠を我を摘まんだ手とは反対の手で持ち上げて~?
…って、籠?
ガシャンッ。
oh....。
「では、私は仕事に戻ります。
今度こそ大人しくしておくように?」
そう仰ってシェラさんお部屋を後にして、室内には鳥用っぽい籠に収められた我の姿が。
…いや、まぁ、うん、気持ちは良くわかりますじょ? ってゆーか正しい対応だとは思いますじょ?
けどさ、流石にこれは酷いと思うんだ。
まぁシェラさん我の事をラビとしてしか見てないからしょうがないんだけどね、がっでむ!
籠の入り口は閂で止めてるだけだからちょっと突けば問題なく開くんだろうけど……。
そう考えながら前足で忌々しいそれをぺしぺしと叩く。
南京錠は流石にどうしようもないでござる。 いや、籠から抜けるだけなら転移で済むんだけどさ。
ただ正直、出たからどうするんだって言われたらそこまでなんだよねぇ。
流石に反省して午後は大人しくこの部屋の中で過ごす気満々だったから籠の中でもそう問題ないし。
ってゆーか肌触りのいい布が敷いてるし水の入ったコップも一緒に入ってるから環境的には不満なさげ?
腐っても一応元人間っぽい我の身からしたら檻の中に拘束とかすんごいもにょもにょするっていうだけで。
…ま、ぶっちゃけそれ以外に問題ないから別にいいんだけどね。
元人間の矜持? プライド? 何それおいしいの?
そんなものよりシェラさんにバレて更に怒らせてご飯抜きの刑に処される方がよっぽど辛いです。
それにさ? 我が勝手に抜け出してふらふらしてた所為でシェラさん、神属の首に刃を押し当てて脅しかけた挙句なんだか目ぇつけられたっぽい訳だし?
我のやらかしとじゃ比べようがない位軽い罰だけど、反省してるんだからこの位の事は甘んじて受け入れないとだよね。
後はお仕事から帰ってきたら存分に愛嬌を振りまいて癒してさしあげませう、今日だけは愛玩動物の扱いを甘んじて受け入れましょうぞ。
などと考えながら敷かれた布の上にダイブ。 あ、これもふもふですっごい気持ちいい。
思わず上下の瞼さんが仲良し小好しになるのを必死に我慢。
いやいや、和んじゃ駄目でしょ我。
なんでか知らないけどこのお城に神属が出入りしてるんだからさっさと逃げないとですよ?
その為にもさっきポッケないないした本とか地図にしっかり目を通してこの世界の知識を学んで我の住処の場所を突き…止め……ない、と………。
数分後、昼下がりの木漏れ日差し込む室内には小さな寝息だけが静かに存在していた。
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同刻・ガオルーン皇城会議室内───。
「…は? 書庫から禁呪の書物とキメラについての文献、それにミラ=フォールンに関する資料が消えていた、だと!?」
床にひれ伏さんばかりの勢いの司書長レグ=ヴォーケンネンの報告にウシュムは眩暈を覚える。
神を自称する化け物と、その化け物の率いる国との戦争。
そんな未曾有の危機を回避する術の記されているかもしれない切り札と、化け物やその配下達の能力を知る為の、ともすればそれらの弱点なり欠陥を知る事もできたかもしれない書物。
それらが揃って消えた。
それも、化け物がこの国に現れて禁呪の書について言及をしたこのタイミングで。
「…クソが、何が 『期待しているわ、存分に抗って頂戴』 だ。
こっちの手札を奪って慌てる様を見て嗤おうってか、腐った根性しやがってっ!!!」
怒りと共に振り下ろされた拳は会議室の机を打ち、罅と陥没を齎す。
それでも尚収まらぬ怒りを必死に抑え込むべく荒い深呼吸を繰り返すウシュムのその瞳は、されど時と共に憎悪と憤怒の色をより濃く、深くにじませる。
「上等だよ、クソッタレの化け物風情が。
その愉悦のツラ、全力で踏み躙ってやる……っ!」
天に吼える凶獣は知らない。
それが濡れ衣だという事も、真の犯人が同じ屋根の下で暢気に寝息を立てている事にも……。




