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47:我、まだ蚊帳の外…?


 床に倒れ、鳩尾を押さえビクビクと痙攣するラヴェルナ。

 ゴミでも見るような目でそれを見下し、次いでウシュムへと目を向け、しばし見詰め合った(のち)

 諦めるように小さく溜息をつき、ラヴェルナの首根っこを掴み引きずりながらシェラは玉座の後方へと移動する。


 「ちょ、ま、苦ひぃ…」 「らめぇ、リバースしちゃうのぉ…」 「熱っ! 熱い、ほんと熱いから、摩擦熱で熱く焦げてるからっ!?」


 …うん、俺には何も聞こえてない。

 そっと心に蓋をし、ウシュムは再度ミラへと視線を戻す。

 そこにあるのは、困惑の表情。

 呆れた瞳で、人差し指で頬を掻きながら、どうしたものかと思案顔のミラ。


 「ん、んん゛っ」


 わざとらしく咳払いをしてみせるとハッとし、軽く(かぶり)を振る。


 「…あ~、うん。 まぁ、なんというか……あれね」


 そこで一度言葉を切り、コホンと咳払いを一つ。

 先程までの狂騒などなかったかのように思考を切り替えたミラの瞳がウシュムを捉え。


 「一端とはいえ、私の力を目の当たりにして。

  それでも尚、私達との戦争を望むのかしら。 ガオルーン皇」


 「手前ェの娘をはいどうぞと差し出すくらいなら死んだ方がマシだ」


 「それが、国を滅ぼし民を死に追いやるとしても?」


 「勝ちゃあいい、それだけだろ」


 なんの躊躇いもなくそう返すウシュムに、軽く小首を傾げ言葉を続けるミラに間髪入れずそう告げるウシュム。

 その姿に迷いはなく、己の発言に一切の疑念を持ち合わせていないであろうことは表情を見れば自ずと察せられ。


 「…本気で私に勝てるとでも?」


 「首切り落としても死なねぇってだけだろ? なら死ぬまで殺し続けるだけだ」


 事も無げにそう吐き出すウシュムにミラはきょとんとした表情を浮かべ、徐々にその顔に喜悦の笑みが浮かび上がり。

 やがて、狂ったかのように哄笑の声を上げる。


 「アハハハハハ。 いいわ、最高の返事よ。

  評価を改めるわ、ガオルーン皇。 あなたはただの素体じゃない、私が愛でるに値する実験材料(モルモット)だわっ!!」


 その身に宿した狂気を隠そうともせず高らかに哄笑をあげるその姿はあまりにもおぞましく。

 先程までの人間臭い仕草とのあまりの剥離に人とはここまで狂うことができるのか、とウシュムは例え様の無い畏怖を抱いた。

 今、己の目の前にいるこれ(・・)は、少なくとも人間などという生物の枠に収めていいモノではない。

 そして、同時に神などという上等な代物では決してありはしない。

 これ(・・)を表すに値する言葉は、やはり…───。


 「その自信の源は、禁呪の書かしら?」


 ウシュムの思考はその一言で打ち切られる。


 「…そりゃ、あれの存在を知っているならお見通しだわな」


 チッ、と小さく舌打ちをしつつ言葉を吐き出す。




 亡国の少女が持ち出し、この国にもたらした一冊の書籍。

 ふざけた題名のそれは、しかし内容はあまりにも世の(ことわり)を超えた代物であり。

 禁忌と呼ぶに相応しいおぞましい魔術からあるとちょっと便利な小技まで幅広く記されていたそれを当時の皇帝は危険と判断し処分する事を決定した。

 が、燃えず濡れず斬れず腐らぬそれを処分する事は適わなかった。

 挙句、水に沈めれば沈めた水が腐れ、土中に埋めれば周辺一帯から怪植物が生え奇声の大合唱。

 どうする事もできないと悟った彼の皇帝は、泣く泣く書庫の最奥、歴代皇帝のみが立ち入る事を許されたその部屋に仕舞い込んだ。


 長い歴史の中、皇国を襲った様々な受難。

 それらが起こった時、時の皇帝は書庫へと赴きこの書を紐解いた。

 旱害、冷害、蝗害、魔物の氾濫(スタンピード)……。

 あらゆる状況下に於いて、その書は効果を発揮しすべての災害を打ち砕いた。

 故に、その書を歴代皇帝は希望と絶望の詰まったものとして禍福の書と呼び、災厄が国を襲った時にのみ紐解くよう言い伝えてきた。


 ……決して正式な題名で呼びたくなかった訳ではない、と思われる。




 閑話休題…───。



 「確かに、あの書なら私をどうにかする方法が書かれている可能性はあるわね。

  本当に厄介な事をしてくれたわね、あの小娘」


 口でそう言いつつもミラの口元は歪み、その顔には抑え切れない歓喜の笑みが浮かび上がっていた。

 頬は朱を挿したかのように染まり、目はトロンと溶け、呼吸は乱れフーッ、フーッと荒い吐息が零れる。


 「嗚呼、本当に厄介だわ……。

  目的を果たすまでにどれだけ苦労すればいいのかしら…、どれだけの犠牲を強いられるのかしら……?」


 そこで一度言葉を切り、ビクッ、ビクッと小さく身体を痙攣させ。

 ほぅ、と甘い吐息を吐き出し恍惚の笑みを浮かべ蕩けた瞳でウシュムを見やり。


 「今、この場で、この瞬間に。 ミラ法国の主として、ガオルーン皇国の宣戦布告を受諾する。

  …期待しているわ、存分に抗って頂戴………」


 声高らかに、そう宣言する。

 最後に零した言葉には甘い色が篭もっていたが。


 「期待にゃ沿えねぇな、テメーが死んで仕舞いだ」


 「ええ、楽しみに待っておくわ」


 殺意の篭もったウシュムの言葉に艶笑で応え、ミラは背を向け扉へと歩み出す。

 が、本来なら追従(ついじゅう)するべき筈のマールは跪いたままぴくりとも動こうとしない。


 「おい……」


 不審に思ったウシュムがそう声をかけると、ミラがああ、そういえばといわんばかりの表情で振り返る。


 「それ(・・)ならもう壊れて動かないからあなたにあげるわ。

  ミラ法国からここへ私が来るための(ゲート)を開くのに魂を消耗し尽くしちゃってるから」


 これも禁呪の一つよ、便利でしょ? と続けてクスリと笑みを浮かべ、ミラは謁見の間と廊下を繋ぐ扉へと手をかけ、押し開き…。


 ゴッチィィ~~~~~ンッッッ!!!!


 鈍い音が響き、ミラの手を小さな衝撃が襲う。

 何事かと扉の向こうを見やったミラの目が、床に倒れ悶絶する小さな影を捉え。


 「…ラビ?」


 口の端から、そんな言の葉が零れ落ちた。




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 やばいです、ピンチdeath、へるぷみーです。

 お目々チカチカ、体ぷるぷる、身動き? 何それおいしいの?

 そんな状態の我の目の前にはルシェルから 「もし遭ったりしたらすぐに逃げるように、今のキミじゃ逆立ちしても勝てないから」 と忠告されてた神属さんががが。

 我、dieぴんちでごぜーます。


 どうにかこうにか逃げようと体に命令を出しても微妙にぴく、ぴくと末端が微かに痙攣する程度。

 うごうごと蠢く事しかできない我をじっと見ていた神属さんが不意にしゃがみ込み、我へ向けてゆっくりと手を伸ばしてくる。

 ざんねん!!われの ぼうけんは これで おわってしまった!?


 「…私のペットに、何か?」


 と、思ったら浮遊感。

 すべすべのお手々に掴まれ、そのままふにゅんとした感触のお胸様に押し付けられるように抱き留められ。

 ピンぼけの我の視界が捉えたのは我を抱き締めつつ片手で戦斧を構え神属さんの首筋に押し当てるシェラさんの雄姿でございました。

 キャ~シェラさん素敵~、抱いてっ!! と我が脳内で喝采を上げるのは至極当然の流れだと思うます、もう抱かれてるけど。


 「少し気になっただけよ。

  危害を加えるつもりはないから刃を収めてくれないかしら?」


 …首に戦斧を押し当てられても顔色一つ変わってませんね、この神属(ヒト)

 あれですか、絶対強者の余裕ってやつですか。

 正体がバレる事はないと思うけど万一にも目をつけられないようにしましょうそうしましょう。

 お目々をうるうるさせて、ぷるぷると震えつつ神属さんへと目線を向けて。

 ぷるぷる、我悪いラビじゃないよ?


 そんな演技が功を奏したのか、はたまた最初からアウトオブ眼中だったのか。

 シェラさんが戦斧を引くと同時にゆっくりと立ち上がった神属さんの視線は我ではなくシェラさんを射抜いており。


 「次に会う時が楽しみだわ。

  その綺麗な顔がどんな風に歪むのか、期待しているわね?」


 と、狂気めいた笑顔でのたまったその姿が青白い光に包まれ、次の瞬間には僅かな残光を残し掻き消えていた。

 え~っと、今のって我のとちょっと違うけど転移?

 どゆコト? 空間魔法って使えるの我だけじゃなかったのん?

 それともあれですか、今のは別系統のナニカだからノーカンとか?


 …まぁいっか、助かったっぽいし余計な事考えなくて。

 そんな風に考え安堵の溜息を零す我の首筋が不意に(つま)まれて。

 柔らかなお胸様から引き剥がされ、持ち上げられて、シェラさんとご対面。


 「…で? 私は確かおとなしく待っておくように言いつけたと記憶しているのですが。

  何故あなたはここにいるのですか?」


 その表情は穏やかで、ニッコリと笑みを浮かべている。

 ただし、その額には青筋。 こめかみはピクピクと動いている。


 …うん、我オワタ。


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