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5:我、ファザーを見直す

 兄弟姉妹にとって、今まで世界とはマザーがいて偶にファザーが戻ってくるあの巣穴だった。

 故に、この果てしなく広がる空の下は彼らにとってどれほどの衝撃だったのか。

 新しい世界に興奮し、ふんすふんすとしきりに鼻を鳴らすもの。

 ただ呆然と目の前の光景に瞳を奪われるもの。

 理解不能、許容値が限界を超えたのかぱたりと倒れるもの。

 ひたすらに怯え、ファザーの体毛に潜り込むかのようにして縮こまるもの。

 気持ち良さそうに目を細め、草原に吹く風に身を任せるもの。


 十兎十色、種々様々に新しい世界を体感しているようで何よりである。

 ぱたりと倒れたまま身動きしない一羽は少しばかり心配ではあるが。

 ファザーの意図は分からないが、この刺激は彼らの成長の糧となる事だろう。


 え、我? 目を皿のようにして食べられそうなものを探していますが何か?

 右を見れば我より大きい丸々と太った毛虫。

 左を見ればゼリー状の生命体。

 空を見上げれば六本足のカラス。

 ……うわぁ~い、(我以外にとっての)ごはんがいっぱいだー。


 泣きたい気持ちを堪えながら視線を地上に戻すと、その視線の先10メートル程の距離に何かがいた。

 緑色の肌をした醜悪な顔のヒトガタ。

 向こうもちょうど我と同じタイミングでこちらに気付いたのか、互いの視線がぶつかり合う。

 あ、謎ボードさん出た。



=====================================

名前:『  』

種族:ゴブリン

状態:正常

称号:なし


Lv  :3

HP  :42/42

MP  :3/3

筋力 :18

耐久 :15

敏捷 :8

魔力 :2

幸運 :3


【スキル】

 鋼の胃袋

 悪臭

=====================================



 うん、予想はしてたけどやっぱりゴブリンだったのね。

 マザーが貪ってたりファザーが死体を持って帰ってきたりで今までも目にしてはいたが、こうして生きているものを自分の目で見るとまた違って見えるものである。

 そもそも死体だと反応しないのか、どれだけ見つめても念じてみても謎ボードさんは出てこなかったし。

 と、そんな事を考えていると


 「ギュギィイイイッ!!!」


 草叢を掻き分け奇声を上げながらゴブリンが突撃してきた、我に目掛けて。

 口元には涎、振り上げた手にはボロボロの剣。

 あ、もしかして我、食材認定されてる?

 ラビがゴブリンを捕食するなら逆にゴブリンがラビを捕食する可能性も当然ありますよねー……、って洒落になってないし!?


 慌てて逃げようとする我の視界の端を何か黒い影が横切る。

 なんぞ? と思い咄嗟に目を向けた瞬間には既にその影はゴブリンへと肉薄し───


 ゴギンッ!!


 鈍い音をたてて影……ファザーの跳び蹴りがゴブリンの横っ面に突き刺さる。

 首があり得ない角度に折れ曲がり、吹き飛び、大地に倒れ伏し、ぴくりとも動かなくなるゴブリン。

 うん、どう見ても即死death。

 ゴブリンが弱いのか、ファザーが強いのか、それともその両方か。

 どれにせよ、我はここが一瞬の油断が命取りになり兼ねない危険な領域であると嫌が応にも理解させられてしまった。

 だからといって食糧探しを諦める気は微塵もないが。

 敵対生物の存在は確かに恐ろしい。 が、飢えの恐怖もそれに劣らぬものなのである。

 そう思いながら視線を巡らせた我だったが、その目はすぐに釘付けにされる。

 先程ゴブリンが掻き分けた草叢、その少し後方に生えた木には赤い実が成っていた。

 兄弟姉妹がファザーの蹴り殺したゴブリンに群がるのを尻目に、我は一目散にその木へと駆け寄る。

 そしてそのままの勢いを利用してジャンプ、木の幹へと張り付き……そのままずり落ちた。



 ふ、ふふふふふ。

 負けるものかぁっっっ!!!




 ダダダダダッ、ピョンッ!


 ビタンッ!!


 ズルズルズル、ベチャ。





 ……我、知ってるよ。 あの木の実は酸っぱくて不味いから食べられたものじゃないって。




 虚ろな瞳で木を見上げる我の傍にファザーが寄ってくる。

 我の視線の先に目をやり、そこに成る木の実を視界に収める。

 そしてもう一度我に視線をやり、おもむろにファザーはその場で軽く屈み込み……一気に跳ね飛んだ。

 慌てて上空に目をやるとファザーは遥か高い宙空に浮かんでいた。

 軽く見積もっても2メートル以上跳んでるんですが、一体どんなバネしてるんですかファザー?

 とはいえ、それだけの跳躍力を発揮しても木の実までは到底届かない訳で。

 まぁ、世の中そんなものだよね。 と我が溜息を吐くのとファザーが宙を蹴って更に跳ね飛ぶのはほぼ同時だった。

 その跳躍で木の実へと到達したファザーは前足を一閃、枝ごと木の実が宙を舞い重力に導かれるまま落下してくる。



 凄いぞファザー、見直したぞファザー。 ただ湿臭を押し付けてくる迷惑な存在じゃなかったんだな。

 我ながら酷い言い草ではあるがエサの恩恵の薄い我にとって今までのファザーの評価はこんなものだった。

 だが今回の一件で急上昇、迷惑親父から頼りになる親父殿に進化した。

 しかしそうか、さっきファザーが見せた宙空の機動がエアジャンプか。


 ……我も持ってるのに、綺麗さっぱり存在を忘れてたよ。。。。


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