43:我、遭遇する。
〔 けだまの しん らび・そばっと。
かいしんのいちげき。 書籍A.B.Dを たおした。 〕
怒りと共に繰り出した真ラビ・ソバットが三冊の本を薙ぎ払い吹き飛ばす。
右後ろ足でソバット、振り抜くその勢いを味方にした上で上下でなく前へ目掛けて軸足で宙を蹴る。
回旋の力とその勢いを軸足である左前足に籠めてソバットを追い対象へと襲い掛かる蹴撃、それが真ラビ・ソバット。
…対ルシェル用に編み出したこの技を本相手に打ち込むとかなに考えてんだろ、我。
けどこれ絶対我は悪くない、悪いのはむしろこの本……というかその執筆者たちである。
我が今蹴り飛ばした本。
一冊目はタイトルも表紙絵も何もない真っ白な装丁の本。
なんだろー? と思い収納後本棚の上に飛び乗り取り出したそれに暫く目を通したの、だが。
謎ボードさん情報によると無限にページの増えるマジックアイテムらしいそれの内容は、歴代のこの国の皇帝の日記帳だった。
それだけなら歴史的な価値も高いし情報の宝庫なんじゃあるまいか、と最初は胸がどきどきだったんですよ。 ……最初だけは。
ぺらぺらとページをめくり内容に目を通していく内にどんどん頭痛がしてきて、気がついたらそっと閉じてました。
…うん、確かに日記帳なんだけどね?
それこそ初代皇帝からず~~~っと続く歴代皇帝'sが定期的に書き記しているんだけどね?
内容、ほぼ愚痴一色ってどういう事さ?
どの皇帝も皇帝のお目付け役? らしい侍女の愚痴ばっかり書いてるんだけど、どうもその侍女は代々その地位を与えられている一族っぽい。
フォーンとかいう名前のその一族は皇帝の代替わりに合わせて自身も次代に座を譲って代替わりするらしいんだけど。
どーも歴代皇帝にとって絶対に頭の上がらない存在らしく、口に出せない鬱憤を書き殴ったのがこの本のご様子。
『あのアマ、いつかヒーヒー言わせちゃる』
『俺、皇帝だよな? なんで玉座に座るあの女に土下座させられてんの?』
『…なんか、一周回ってあの冷たい視線が快感になってきたかもしれん』 etc....。
…なんていうかね、もう、見ててどんどん申し訳ない気持ちになるっていうか頭痛がいたいっていうかね、うん。
どの皇帝もああだこうだと愚痴りながらノロケっぽいというかなんだかんだでフォーン一族の事が好きで心から信頼してるんだなぁと思わせる書き込みばっかりでもう、ね。
結論、我は何も見ていない、おーけー?
で、頭痛を堪えながら開いたこれまた真っ白な装丁の本。
二冊目のそれもまた謎ボードさん曰くマジックアイテムで、白紙のページに触れた者がその目で見たものを記憶から転写できる本らしいんだけども。
……歴代皇帝によるフォーン一族写真集でした、モウヤダコノ国。
素の立ち姿、柳眉を吊り上げて怒りを露にした姿、偶然撮れたっぽいハプニングショットなどなど……。
ちなみに一番新しいページにはシェラさんの後ろ姿、それも臀部を中心に据えた一枚が写し出されていた。
これ、シェラさんに見せたりしたら筋肉さんコマ切れにされるんじゃなかろうかしら。
もうね、この時点で割と精神的な疲労とか苦痛のゲージがぐんぐん溜まってたんだけど。
本はあと三冊ある訳なのですよ。
三冊目はちゃんと表紙もあるし題名もある本でした。
タイトルは 『 ラビでもわかる優しい禁呪入門 』 。 …はい、この時点でもうアカン気配しかしませんね。
て、ゆーか題名待て、ラビを馬鹿にしてんのかこんちくせう。
誰だこれ書いた輩は……と表紙に目を走らせたら下のほうに著者名が書いてあったんだけど。
『 作:るしぇる・るゅすと♪ 』
…はい、軽くフリーズしました。
同姓同名の別人の可能性? そんなもの考える余地ござーません。
アレを知っている我だからこそ分かる、これを書いたのは間違いなく駄女神だ。
しかしそうなるとこれって一応神器とかそーゆー代物になる……の?
題名は舐めとんのかって言いたくなるけど禁呪とか聞くからにヤバそげなんですけども?
いろんな意味で頭痛の種ですね、この本。
四冊目は真っ黒な装丁の本で、題名は 『 悪魔召喚書 』 。
うん、これはもう明らかに封印待ったなしの代物っぽいですね。
謎ボードさんにも呼び出す事ができるだけで制御はできないっていう警告文が記されてるし。
ガッチリ銀製の鎖で縦横縛られてるから開くことはできませぬ、仮に鎖なくても開く気ないけども。
で、最後の五冊目。
題名は 『 合成獣と禁獣 』 、ぱらぱらと流し見た限りだと内容もまともっぽい?
なんとなく心惹かれるものがあるしこれは貰っていこう、と思いつつ更にぺらぺらめくっていると何か挟まってました。
何々、 『 禁忌の錬金術師、ミラ=フォールンについて 』 ?
手書きの報告書っぽいけどなんでこんなのが挟まってるんだろ?
まぁいいや、この本となんか関係あるかもしれないし一緒にポッケないないしとこっと。
そんな訳で 『 合成獣と禁獣 』 と 『 ラビでもわかる 優しい禁呪入門 』 の二冊をゲットしました。
残った三冊? 真ラビ・ソバで蹴っ飛ばして本棚にシュート、超エキサイティン! しましたが何か?
頭の中で何かがそれを棚に戻すなんてとんでもない! と侍女写真集に手を伸ばしていた気がするけど我は知りませぬ。
シェラさんかごっついさん辺りに渡したら筋肉さんが素敵な有様になりそうだなー、とか美人さん揃いだから眺めてるだけで目の保養になりそうだなー、とかちょっと脳裏を掠めたけどきっと気のせいデス。
てゆーかぶっちゃけそんなんに思考を囚われてる場合じゃなかとですよ。
我、書庫に来てからどれくらい時間が経った?
日記帳と写真集眺めててどれだけ時間を浪費した?
答えは我のお腹が知っている!
そしてそんなお腹さんは我に訴えかけてくる訳ですよ、ごはんよこせって。
…ええ、超絶よろしくありませぬ。
腹時計的な意味で時間がぴんちでやばいであります、部屋抜け出したのバレたらシェラさんに怒られる事間違いないです。
冗談でもフラグとか言うんじゃなかった、何律儀に回収してんのさ我。
慌てて扉に張り付き耳を澄ますと鼾が聞こえてくる、おじいちゃま職務放棄して居眠りとはいただけませんですな。
いや、今は素直にありがたいことこの上ないけども。
鍵穴を覗き込んでなるべく見通しのよろしくない、本棚の陰になる場所に目をつけて転移発動っ!
目視地点に転移完了後素早く身を潜めつつおじいちゃまの方に目をやれば、卓上に広げた本に突っ伏し高鼾でござった。 …涎垂らさなきゃいいけど。
っと、いかんいかん。 今はおじいちゃまや本のことより自分の事だ。
書庫の扉の前へと移動し、鍵穴経由で廊下へと転移。 …したのはいいんだけど、ここで一つ問題です。
我が来た方向どっち?
いや、一応あの時はメイドさんの跡追っかけて右からこの扉の前に来たから扉を背に立っている現状、左の廊下へ行けばいいのは分かる。
けど途中どこをどう曲がったかとか何箇所目の曲がり角を曲がったかとか確認してなかったでござる。
我、まさかの二日連続迷子の巻。
…うん、やヴぁい。 ひっじょ~~にやヴぁい。
シェラさんの部屋で大人しく待っておくように、という指示に敬礼で返事しといて即部屋抜け出して挙句迷子になっちゃいました、とか。
我がシェラさんだったらキレる、間違いなく。
で、シェラさんが激おこぷんぷん丸になった結果が昨晩筋肉さんを襲った惨劇な訳でして。
…ヤバイ、刈られる。
走る、走る、ただひたすらに疾走る。
1,740という一般的な成人男性の174倍の敏捷を全力で行使して城内をひたすらに駆け巡る。
行くべき先なんて分からない、今居る場所がどこなのかも分からない。
それでも走る、自分の記憶にある風景を求めてただひたすらに。
シェラさんの部屋に戻る、その一心で他に気を配る余裕なんてないからもしかしたら誰かに目撃されてるかもしれないけど知ったこっちゃありません。
そもそも今の我の状態なら仮に目視してもまず認識できないだろうし。
視界を駆け抜けるのは一瞬の出来事で目線を向けても既に我の姿を捉える事なんてできやしないのだ、目の錯覚か視界の端に埃が舞ったのを知覚した程度にしか認識されないだろう。
走っている我本人ですら一瞬の間に廊下を走破し角を曲がりいくつもの扉を置き去りにするその非常識な加速に心の底の冷静な部分……単純に現実から目を背けている心理なのかもしれない……が一体どうやってこの速度を制御して走り続けていられているのかと首を傾げていたりする。
普通こんな速度じゃ曲がれないと思うんだけどもなぁ、認識してから反応しても確実に間に合わないレベルだよね?
敏捷、のステータスは単純な速度だけじゃなくてその速度に合わせて体捌きとか反応速度とかにも影響するんでせうか?
聞きたいけどルカはスト中だから機嫌直してくれるまでお預けですね、ぐすん。
…なんて、いらぬ思考に気をとられていたのがまずかった。
気付いた時には進路上にある扉が既に半ばまで開かれているところだった。
慌てて足でブレーk…、ってあっつぅい!?
常識さんばいばいな速度を無理矢理押し留めようと足でブレーキ、したまではよかったんだけども。
急に止まれる筈もなく踏ん張った足が擦れて摩擦でこう、ね?
反射的に両足を床から離しちゃったものだからもうどうにもこうにもなりませぬ。
ゴッチィィ~~~~~ンッッッ!!!!
盛大な音と共に、我のド頭とやたらと装飾華美な扉とがごっつんこした。
目から火花が飛び出る。
スローモーションの如くゆっくりと後方へと倒れるように床へ落ちていく感覚、やがて後頭部が床とごっつんこ。
それでもぶつかった衝撃を殺しきれなかったのか、落下後ころころと後方へと転がり、やがて勢いが落ち着いた頃には我自身も力尽きうつ伏せの大の字で床に沈む。
…かなり怪しいけど、こうして一応意識があるっぽいっていう事は今回は我、生きてる?
確かめるべく体を起こそうと試みるもろくに動かず、辛うじて動いた左前足を数ミリ持ち上げた所で力尽きてぽてんと地に落ちる。
おうふ、暫く待たないと駄目だこりゃ。
「…ラビ?」
そんな我に向けられる、疑問符混じりの女性の声。
少なくとも我の聞いたことのない声だしこのお城のメイドさんか誰か?
…いや、違う。 これはなんぞ?
その声は、なぜか聞いただけで我の精神をかき乱し不安にさせる。
我でない我が叫んでいる、この声の主は敵だと。
衝突の衝撃で痺れて未だまともに動かない四肢、定まらない視界。
それを無理矢理総動員し強引に上体を反らしぼやける視界で強引に捉えた人影。
ドクン、ドクンと心臓が痛いほどに鼓動を打つ。
ピントの合わないその目でもスキル自体は発動するのか、いつものように姿を現す謎ボードさん。
凝視するその視界の中、少しずつピントが合ってきたのか多少のブレこそあれ辛うじて読み込めた文字列。
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名前:ミラ=フォールン
種族:神属
状態:正常
称号:神を喰らいしモノ
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そこには、決して関わるなと言われた存在の名が記されていた。




