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幕間:神属 『ミラ=フォールン』

 ミラ法国の中央に聳える神の住まいし御所、大神殿。



 「あ゛、あぁっ!? あがぎぃぃぃィぃぃいぃぃぃぃぃィぃぃぃっ!!!??」


 その地下に響き渡るあまりにも凄惨な絶叫と、それに眉をひそめる一人の女性。


 肩口に切り揃えられた暗紅色の髪、そしてそれを更に濃厚にしたかのような深い色彩のどろりと濁った瞳。

 170程の身の丈を濃紺のローブで覆い、その手には朱に彩られた小刀。

 何かの拍子に顔にも飛び散ったのか、右目に被さる片目眼鏡(モノクル)の端にも一点の朱が貼り付いている。


 「やれやれ、また失敗か。 素材としては優秀だけれど癖が強過ぎて素体を選ぶのがこれの難点ね」


 そう零し、ちらりと天井から吊るされているものを睨めつける。

 次いで目の前にある石造りの頑強な寝台と、その上に横たわるものへと目をやり溜息を吐く。


 「次の材料が手に入るまで一旦お預けね」


 「でしたら、丁度良いお話があります」


 誰にともなく呟いたその独白に被せるように、声。

 女がチラリと目をやれば華美な法衣に身を包んだ老人が膝をつき、頭を垂れている。


 「シュタットルム、私の研究所(ラボ)に許可なく足を踏み入れる事は禁じていた筈よ?」


 「火急の儀なれば無礼には後程改めまして謝罪をば」


 ぬけぬけとそう言ってのけ、眼前に立つ主の許可を求める事もなく(おもて)を上げにやりと笑みを浮かべる老人。

 彼こそはこのミラ法国の教皇にして(ミラ)の寵愛により寿命という名の楔より解き放たれ、400年にも近しい時を生きる魔人、シュタットルムである。


 「で?」


 「素体発見の報告がありました、それも聖魔術を宿した娘です」


 「へぇ」


 シュタットルムの言葉に女の眉が僅かにあがり、その表情にも微かな笑みが浮かんだ。


 「ですが、一つ問題が」


 その微かな笑みは続くその一言で消え、冷たい(まなこ)と無言の圧力がシュタットルムを襲う。


 「どうやらその娘はガオルーン皇国の皇女のようでして、素直に引き渡しに応じるとは思えないとの事です」


 「つまり?」


 「使者を派遣しましたが、恐らくは決裂するかと」


 シュタットルムの言葉に女の顔に笑みが浮かぶ。

 ただしそれは間違っても笑顔などと呼べる代物ではない、おぞましいまでの凶相である。


 「そう、それは素敵(・・)ね」


 「ええ、まったくです」


 女が嗤い、次いでシュタットルムも嗤う。

 その瞳に狂気を宿し、(いびつ)に歪んだ笑みが彼らの異常を更に彩る。


 「実験体も切れかけていた所だし丁度いいわ。

  新しい子たちの性能も試せるしいい事尽くめね」


 「神の意に背く邪教の徒はその身を以って神の()を世に知らしめる事でしょう。

  彼らの殉教に心より感謝せねばなりませぬな」




 ミラ法国の王にして教団の主である神属、ミラ=フォールン。

 (ミラ)に魅入られ、己が代弁者として使役される人の生を捨てし魔人、シュタットルム=ベールム。


 二つの邪悪は、連れ立って愉しそうに嗤い合いながら地下室を後にする。



 扉が閉まり、静寂を取り戻した研究所(ラボ)


 そこに残るは石造りの寝台に枷で縛り付けられ、身を裂かれ、または千切られ見るも無残な有様のかつてヒトであった肉片と。


 天井より聖銀(ミスリル)の鎖で吊るされた、物言わぬ巨大な鳥の骸が残されていた。


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