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閑話:『ラヴェルナ=ガオルーン』


 「それじゃラビさんとあそんでくるねっ!」


 目をきらきらと輝かせ慌しく部屋を飛び出したティセリナを笑顔で見送った二人は、扉が閉まると同時にその様を豹変させた。

 ガオルーン皇国皇帝、ウシュム=ガオルーンは渋面を隠すことなく怒りに任せ卓上へ拳を叩き付け、皇后、ラヴェルナ=ガオルーンは絶望の吐息を漏らす。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 300余年前、宗教国家ミラ法国の建立よりこの世界には『神授の儀式』という儀式が誕生した。

 伝承や神話に語られる神ではない、実在する現世に降臨した神を奉るかの国が示してみせた神具『ステータスボード』。

 極稀に遺跡やダンジョンの奥から出土される触れた者のステータスやスキルを表すというまさに神の与えたもうたその神具を交渉のテーブルに叩き付けてみせる事で各国の王を捻じ伏せ、世界各地に神殿を建設しステータスボードと神官を派遣していった。


 曰く 「スキルとは神の与えたもうた加護であり、それを広く認知させる事は我ら信徒の勤めである」 との謳い文句の元推し進めたその政策は、各国の王にとって非常に魅力的なものであり諸手を挙げて歓迎された。

 結果、ミラの神殿と神官は爆発的な勢いで世界各地へとその翼を広げていき、それに伴いミラ教を国教に定める国も次々に現れていった。

 そうして支配の根を各地に広げたミラ法国の教皇、シュタットルムは次いで各国の王へと一つの提案を下した。



 「ミラ法国の建国以前、彼の地には不死鳥と呼ばれる邪神が存在した。

  我等が主により邪神は滅ぼされるも残された力を振り絞り大地へと呪いをかけた。

  その呪いは強力であり、主の力を以ってしても尚消し去る事は叶わず封印という形に留まっている。

  御身をその呪いを封じる楔とし、民に呪いが及ばぬ様尽力するも呪いの力は強力極まりなく完全に防ぐ事はできない。

  その為、時折呪いに侵された穢れしモノが生まれ出でる事がある。

  我ら信徒は身命を賭して世界の為穢れを祓うべく修練を積んでいるが、穢れの力は侮れず被害は広がっている。


  ……故に、強力な加護(スキル)を授かった者が現れた場合我が国へと招き入れ、世界の為にも共に信徒として力を揮ってほしい」 と。



 既にステータスボードの恩恵という毒が回った各国に拒絶するという選択肢は存在せず、結果この提案は絶対的な強制力を持つ "法" として世界に刻まれた。

 長い歴史を紐解けば法国に選ばれた者の中には他国の王族貴族の子の姿もあり、ミラ法国への引き渡しを拒否する者も当然存在した。

 それに対するミラ法国の返答は、神の率いる(・・・・・)軍勢による蹂躙であった。

 神具(アメ)神軍(ムチ)、その二つを以ってミラ法国は絶対の強者としてこの世界に君臨している。


 そんな背景の中、今回ガオルーン皇国第三皇女であるティセリナ=ガオルーンが授かったスキル "聖魔術" 。

 魔術の中でも希少な属性であり、破邪の力を持つこの魔術は穢れに対し絶大な効果を発揮すると言われている。

 それを知ったミラ法国が彼女の身柄を確保せしめんとするは自明の理であった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 「聖の属性はあの化け物が特に望むスキルの一つだ、神官はさぞや喜び勇んで報告したことだろうよ」


 ウシュムが忌々しげに吐き捨てる。

 国として、王として、ステータスボードによる恩恵は確かに大きい。

 だが、それを真に歓迎できるかと言われれば答えは否である。

 ミラ法国は神殿と神官の受け入れは各国王家の裁量による、と自由意思に任せる姿勢をとっている。 が、その実拒絶した国家は邪教の徒と見做され敵性認定を受け、要求を受け入れた他国すべてに手を回し国家間の縁を絶たせ孤立させていく。

 結果、それら反抗した国は痩せ衰え、ミラ法国に縋りつき言われるがまま、されるがまますべてを受け入れ家畜以下の扱いを受ける惨めな奴隷国家へと成り果てる。

 逆にどれ程に枯れ果てようともミラ法国に牙を剥き続けた国家は神の軍勢により攻め滅ぼされその歴史を奪われる。

 望む、望まざるを問わず受け入れざるを得ず、ウシュムも王位継承後の初仕事としてミラ法国へと赴き国内での活動を認める旨の条約を結び誓約書を(したた)めた。

 その結果がこれである。


 「どうなさるおつもりですか?」


 「迷うまでもない。

  たとえ暗愚の謗りを受けようともあの化け物に(ティセリナ)を渡すものかよ」


 ラヴェルナの問いに迷い無く、はっきりと断言してのける。

 言うまでもなくこれは王としては最低の選択である。 娘一人の為に民に、兵に、死ねと命じるも同然なのだから。

 が、そうだとしてもウシュムはその選択を改めるつもりは毛頭なかった。


 ミラ法国の求めるスキルを顕現し、親元を離れミラ法国へと旅立っていった者たち。

 教皇の言い分では主である神の直属の兵として編成、運用されているとの事だがその実情を知る者は彼の国の外には一人としていない。

 ミラ法国へと連れられていった(のち)、彼ら彼女らが表に姿を見せることはなく、また一切の面会も許可されないからである。

 法国側は真なる神の徒となるべく俗世のしがらみに惑わされぬよう、などとのたまうが実際の所は分かったものではない。


 神を気取る化け物の脅しに膝を折り、子を奪われ、どういう目に遭わされるのか、否、そもそも生きているのかすら分からない。

 とてもではないが受け入れられよう筈のないその末路(ミライ)にティセリナを投げ出す。 それ(・・)は想像するだけで全身の血潮をマグマの如く煮え滾らせた。


 「くれてやるものかよ。 アレは俺の子だ、化け物のご機嫌取りの人形なんぞじゃねぇ。

  兵士共には頭を下げる、逃げてぇ奴は逃げりゃぁいい。

  たとえ残るのが俺一人だけだとしても結論は変わりゃしねぇよ」


 言葉を一つ溢す毎に、知らず腕に力が篭もっているのか敷かれた肘掛がみしみしと悲鳴を上げる。

 そんなウシュムの腕をぺちり、と(はた)きながら


 「一人では、ありません」


 と、ラヴェルナは微笑を浮かべ告げる。


 「アホか、テメーは連れていかねーぞ。

  ガキ共連れてどっかに逃げろ」


 「お断りします」


 「あ゛?」


 シッシッ、と獣を追い払うように手を振るうウシュムに対しラヴェルナは短く、しかし感情の篭もった強い声で答える。


 「我が子以上に手のかかる大きな子供が目の前にいますから。

  放り出して逃げる訳にもいきません」


 「……チッ、何言っても聞きゃしねぇってツラだな」


 苦虫をかみ殺したような顰め面のウシュムと対照的に笑顔へとその表情を変えていくラヴェルナ。

 見る者を魅了するその微笑が、しかして次の瞬間口の端を歪め笑みを浮かべた途端万人を恐怖に貶める壮絶なものへと変化する。


 「それに、そんな『神殺し(たのしそうなこと)』を独り占めしようだなんてずるいですよ?」


 「…ああ、そうだ。 テメーはそういう女だよな」


 ガシガシと頭を掻きながらウシュムは思い出す。

 供を伴わず、2メートルを遥かに超える巨大なトライデントを担いだ己の身一つで嫁いできた(・・・・・)この気狂いとの出会いを。

 開口一番『私より弱い者に組し抱かれるつもりはありません』と他国の王へと刃を振るうこの戦乙女(バトルジャンキー)が大人しく逃げるようなタマである筈がない。

 そう、誰よりも自分がそれを一番良く知っていた筈なのだ。


 (ここ最近気狂いの顔が為りを潜めて(ははおや)のツラをしてやがったから忘れてた、ってのは言い訳だな……)


 そう思い溜め息を吐きながら、それでもウシュムの顔には笑みが浮かんでいた。

 こいつとならなんでもできる、どんな相手にも勝てる。

 かつて感じていた、いつからか遠のいていたそんな全能感が心の底から湧き上がってくるのを感じる。


 (かかってきやがれ、神気取りの化け物が。

  その首を斬り落としてクソ神官共の手土産にしてやるよ!)


 先ほどまでの重苦しい空気はどこへやら、ガオルーン皇国皇城の一室からは不気味な二つの笑い声が漏れ聞こえ始めていた。

















 ………尚、勘を取り戻すべく愛用のハルバードを手に中庭へと赴いた皇后が歯形のついたキャロットンガラと白目を剥く毛玉を発見したのはその十数分後であった。


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