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32:我、全力で地雷を踏み抜く

 拝啓、ファザー、マザー、兄弟姉妹ズ。

 おちこんだりもしたけれど、我はげんきです。 ……ぐすん。


 「はいはい、いつまでもいじけない」


 ぺちん、とおぜうさんが絶賛へこみ中の我の頭を(はた)く。

 もっと甘やかしてくれてもいいのよ? 我、優しくされると好感度上がるよ?


 「毛玉に好かれても?」


 こんにゃろう。

 こちとらファザー、ちみっこ皇女、クールビューティーなメイドさんと次々に誑しこんだ美兎なんだぞー。


 「マスターの功績でなく、単純にラビという生物の容姿に好感を持たれただけでは?」


 oh...言うてはならんことを。

 我も薄々感じてはいたけど口にしなかったのにっ!

 ファザーにしても実は我が兄弟姉妹ズと比べてちっこいから特に気にかけられてただけじゃね? とかちょっと考えたけど思考の端に追いやってたのに。


 「戦わなくちゃ、現実と」


 どやかましいわ。



 以下数分、我とおぜうさんの不毛な言い争い(まんざい)は続いた。

 正確には一方的に言い負かされただけだけどねっ、こんちくせう。





 ぜーはー、ぜーはー……。

 何故か頭の中で念じていただけなのに怒鳴り疲れたかのように息切れがするです。

 このおぜうさん、毒舌なだけでなくボケまでこなすのでついつい一々ツッコミをしてしまう。

 たま~になんだか割と天然で言ってるっぽかったりするけどそれもきっと計算ずくの演技なんだろう、多分、きっと、おそらく、めいびー。

 天然系腹黒毒舌ボケっ子とかどんだけ属性詰め込んでんのさって話だしね。


 「マスター、そのおぜうさんっていう呼び方どうにかなりませんか?

  なんだか馬鹿にされているようで不快です」


 腹黒だの毒舌だのボケっ子だのと考えたのがまずかったのだろうか、我の頭を親指と人差し指で(つま)み上げながらそんな事を仰るおぜるさん。

 らめぇ、そんなに指に力を篭められたら中身溢れちゃうのぉっ!?

 そもそも、どうにかなるならない以前に我おぜうさんの名前知らな……あっ、あっ、頭を(つま)んだまま逆の手の人差し指で頭頂部ノックしちゃらめえぇぇっ?!


 「私はマスターのサポートの為に道化神(ルシェル=ルュスト)に創造されたんです。

  なら主であるマスターが名付けるのは当然でしょう?」


 それなら産みの親に言えば……って。 あ゛~っ、我の頭が鳴っちゃいけない音たててるぅ~っ!


 「あのド阿呆でしたら『サポ子か名無しの権兵衛、かな…』と真顔でほざいたのでシャイニングウィザードをぶちかましましたが何か?」


 あっ、はい。

 とりあえずこの話題はタブーだって頭でなく心で理解しました。


 「ちなみにもしマスターが付けた名前が気に入らなかった場合」


 …場合?


 「リアル因幡の白兎体験、してみます?」


 にっこり笑顔で洒落にならない言葉を紡ぎますね、おぜう……お嬢さん。

 でも、我のネーミングセンスってあれですよ?

 毛玉ファザー、毛玉マザーですよ?


 「皮剥ぎはピーラーでいいですか?」


 死ぬる!?


 「大丈夫ですよ、マスターがまともな名付けを行ってくだされば済む話です」


 その唯一条件が半端なく厳しい件。

 と、とりあえず名付けのヒント! ヒントぷりーずっ!


 「ヒント、と言われても何を言えと?」


 おぜ…お嬢さん結局何ができるのん?

 基本的にアドバイスや質問に応答するだけって言ってたけどもーちょっとこう、具体的には?


 「…思念入力式で気が向いた時にだけ応答したり極稀にアドバイスを出すヘルプ機能?

  使い勝手が劣悪で期待の持てないエクセルの右下にいるイルカ、程度の認識で構いませんよ」


 rァ『お前を消す方法』


 「マスターが死ねば少なくともマスターの世界からは消えますよ?」


 ネタにマジレスいくない。

 あと我の首の稼動域そんなに広くないから! 捻っても回らないからっ!!


 「やればできますよ」


 そうだね、()ればできるね我の死体が。 ほんと勘弁してください。

 そもそもお嬢がエクセルイルカなんてゆーから悪いんじゃないか、我の反応は至極当然だもんっ!


 「マスターの3ビットのおつむでも理解できるように分かりやすい例えを出しただけです」


 ラビ舐めんなし。

 おつむはちっちゃくてもCPUは小型で高性能なの積んでるし。


 「積んでいるだけで配線が繋がっていないんですね分かります」


 よし、その喧嘩買った。

 ついさっき思いついた新・必殺技でその綺麗なお顔を吹っ飛ばしてやんよ。


 「ラビ・ソバットを縦回転で、下方から顎を蹴り上げる一撃ですか。

  転移とエアジャンプを併用すれば奇襲性も高くマスターの体躯でも上手くすれば脳を揺らす程度は十分に狙える、と。

  確かにそれは必殺技と呼んでもいいかもしれませんね。 必ず殺す、でなく格闘ゲームなどにおける必殺技、ですが」


 やっぱり心を読めるの卑怯だインチキだズルっ子だーーーーっ!!!

 目の端に浮かぶ涙もそのままにやけくそで放ったラビ・ソバ改は、当然の如く迎撃されましたとさ。 ぐすん。







 「…ところで、私の名前は?」


 イル、ルカ、ヘル、ルプー、この中から勝手に好きなのを選んで名乗ればいーんでない?

 迎撃され、無様に床に突っ伏した姿勢のまま不貞腐れる我の首根っこをお嬢がひょいと(つま)み上げ目線を合わせてくる。


 「そんなやさぐれないで下さい、意思の疎通の為なんですから仕方ないでしょうに。

  意思のやりとりがぐだぐだで 『オレサマ オマエ マルカジリ』 なんていう展開はマスターだって嫌でしょうに」


 それ、(ラビ)には洒落じゃ済まないんだけど、食材扱い的な意味で。

 いやまぁ流石に食用に適したラビ肉って言っても生を丸齧りはあり得ないだろうけど。


 「ラビ刺しという生で食べる調理法もありますけどね」


 しまいにゃ本気で泣くぞこんちくせう、この世界どこまでラビに厳しいんだよぅ。


 「ドラゴン種より強いラビや神として讃え祀られるラビ、神属を屠ったラビなんていうものも存在しますし。

  ピンとキリの差が激しいだけで別にラビ種に厳しい世界設定ではないと思いますよ?」


 何それ怖い、ドラゴンより硬くてバ火力のラビの存在は駄女神(ルシェル=ルュスト)から聞いてたけど神様扱いとか神属殺しとかどういうことなの…?

 て、ゆーかそんな代物が存在するのになんで資源扱いなんですかね、ラビ。


 「上を見ればキリがないように下を見てもキリがないからでは?」


 ぐうの音も出ぬぇ……。


 「と、言いますか。

  そもそも今のマスターに上を見たり下を見たりする余裕があるんですか?

  自分の実力も把握できていない、おまけに生まれて結構な日数が経ったにも関わらずレベル1の有様ですし。

  羨んだり蔑んだりするのは自身がある程度成長してからでも遅くはないのでは?」


 イル・ルカ・ヘル・ルプー(仮)……。


 「ラビ刺しは癖のない子兎の方が美味と聞きますし試してみましょうか」


 当方に土下座の構えあり、まぢで勘弁してくださいまし。


 「……まぁ、いいんですけどね。 それだけ馬鹿を言える程度には立ち直ったみたいですし。

  ただ眉根を寄せたりジト目になってばかりはどうかと、こうやって笑顔を浮かべていた方が周囲を魅了でき(欺け)ると思いますよ?」


 そう言いながら自身の左右の頬に人差し指を当てて笑顔を作ってみせるお嬢、こうして口を閉じてれば可愛いさんなんだけどもなぁ。

 しかし笑顔か。

 よくよく考えたら我、今生じゃ飢えて死んで妙なの(ルシェル=ルュスト)に絡まれて復活してまた飢えて根っこゴーレムに追い回されて精霊に吹っ飛ばされて~、で心からの笑顔浮かべたのってその後拾われてクッキー貰った所がお初なんじゃなかろかしら?

 ……改めて振り返ってみたらろくな兎生(じんせい)じゃないデスネ。


 うん、気持ちを切り替えよう。

 笑顔、実際、すごく、大事。

 にこにこ笑顔の美兎な我とか今以上に周囲を魅了しちゃうかもね、もてすぎちゃって困っちゃう☆

 …自分で言ってて鳥肌が立ったでござる。


 すーはー、すーはー……、よしっ。


  に ぱ ぁ ぁ ぁ っ 。


 背後に花よ咲き誇れとばかりに満面の笑みを浮かべる。

 どうよこの会心の笑み、惚れてもいいのよお嬢?


 「提案しておいて何ですが、兎の笑顔と素面(しらふ)の見分けがつきませんね」


 100点満点の笑みを浮かべた我に真顔で無常の一言。

 おーけーおーけー、お前は我を怒ら(おちょくられたのは)せた(理解した)

 おこですよ? 激おこですよ? 怒りがマッハで有頂天ですよ?

 お前ラビ・ソバでボコるわ…。


 たとえ思考を読まれても時既に時間切れ、把握できていても対応できない一撃を繰り出せばいい。

 つまり、今この体勢で蹴り(ラビ・ソバット)を放ち。

 遠心力の乗ったその蹴撃の威力が最高潮に高まるその瞬間に。

 目視で座標を確認、即転移。 と、同時に衝突(インパクト)ッ!!



 ふにゅっ。



 うな?

 なんかやわっこいものに顔が埋もれたですよ?

 ってゆーか我の足に手応えがまったくござーませんですのことよ?

 これは、あれですか。

 転移先の座標ミスですか。

 やっぱ思いつきのぶっつけ本番は駄目かぁ、蹴る位置が読めなければ対応できないと考えついた時はいけると思ったんだけどもなぁ。



 ふにふに。



 いや、でもきっと着眼点は間違ってないハズ。

 これを突き詰めて磨き上げていけばきっとあの駄女神(ルシェル=ルュスト)の顔だって蹴っ飛ばせる、……筈。



 ぷにゅぷにゅ。



 …ところで、さっきからなんとなく揉んでるけど今我が張り付いてるこの出っ張りって何ぞ?

 微妙に(ぬく)くてやわっこくて、かといってそう出っ張ってない(大きくない)から徐々~に我の体がずり落ちていく。


 「…マスター?」


 絞り出すような震える声に仰ぎ見れば顔を真っ赤に染め全身を小刻みに震わすお嬢の姿。


 …ふむ。

 お嬢の顔の位置、そして今我の張り付いている位置。

 以上の事から推察するに、今我の張り付いているものはどうやらお嬢のお胸様らしい。

 謎が解けたところで改めてもう一度揉んでみる。 ふにふに、ぷにゅぷにゅ。


 うん、シェラさんと比べて小振りで慎ましやかなちっぱいですね。


 そんな感想を抱いた瞬間全身を衝撃が襲い、我の意識はぷっつりと途絶えた。


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