29:我、スキル検証する
暫くすりすりして温もりチャージ完了っ! …したんだけどシェラさんが離してくれませぬ。
両前足で突っ張ってシェラさんの頬を突き放そうと試みるもその感触で更にお顔が緩くなった挙句片手で我の前足を掴んでふにふに揉み始める。
ええい、せくはらで訴えるぞっ。
しばし揉みしだいた後、微妙に満足してるんだかしてないんだか判断し辛い表情で我の前足を手放す。
ああ、なるほど理解した。
残念ながら兎に肉球はありませぬ、だからそんなじろじろ我の前足を見たり再度掴んで表にしたり裏返したりしながら首を傾げるのはやめなさい。
我もマザーや兄弟姉妹ズの肉球を堪能しようとして絶望した身だから気持ちは分かるけども。
て、ゆーかいい加減前足だけでなく我本体を解放しやがられなさい、頬擦りし過ぎで我のふろーらるな香りがほっぺたに移ってやがられますですよ。
更に力を込めて頬を突き放すもまるで解放される気がしない。 むぅ、完璧に我を愛玩動物扱いしてるな。
だがしかしその考えは甘い、甘すぎるっ!
我はただ可愛いだけの愛玩動物ではない、野生という名の爪牙を持つ立派な魔物なのですよ。
…こらそこ、首を傾げたり鼻で笑ったりしない。
シェラさん、貴女の敗因はただ一つ、我を侮ったことだ。
両前足を握り込み、構え、気合を篭める。
唸れ豪腕、喰らえ必殺ラビブロー。 その綺麗なお顔を吹っ飛ばしてやる。
もふっ、むにゅっ。
…………おや?
我の渾身の力を篭めた筈のワン・ツー、なんだか妙な擬音と手応えデスネ?
右前足ジャブで頬を突き放し、左前足のストレートでその綺麗なお顔を吹っ飛ばす予定だったのですけども?
ぢっと前足を見つめ首を傾げる、とりあえずもういっぺんジャブってみませう。
もにゅ。
変わらぬ擬音、突き放す所か前足があたっている部分が微妙にへっこんでいるだけのシェラさんの頬。
くそう、つるつるすべすべで弾力のある素敵お肌じゃないか。
しかしこれはもしかしてあれですか、「くっ!パワーが足りない!」 ってヤツですか。
うにょれ、ならば手数で勝負だ。
たとえ1ダメージでも与え続ければいずれは……。
…うん、言ってて気付いた。
たとえば人差し指でほっぺたをむにーと突かれたとする。
爪が刺さったー、とか指突とかでもない限り普通は痛いとか感じないよね?
で、我が気合と共に放った渾身の力を篭めたワン・ツーの擬音はもふっ、むにゅっ、もにゅ、である。
どう考えても攻撃になってません、手数で勝負とかそれ以前にゼロに何をかけても所詮ゼロです。
ならばどうするか、決まっている。
必殺(笑)なラビブローでなくスキルとして確立しているラビ・ソバットを叩き込めばいいのである。
これなら流石にシェラさんの綺麗なお顔を吹っ飛ばすこと…も……。
はい、突然ですがここで我の現状を見返してみましょう。
両手でがっちり胴体を掴まれてシェラさんがほっぺですりすりしている状態ですね。
Q:胴体をしっかりキャッチされたこの状況下でソバットを繰り出す方法。
A:諦めろ、試合終了だ。
ざんねん!! われの ぼうけんは これで おわってしまった!!
あれから一体どれだけの時間が流れたか。
シェラさんは我の肢体を好き勝手こねくりまわしてくれて満足したのか足取り軽くお仕事に戻っていった。
我? 完全に力尽きて卓上に敷かれたハンカチの上に突っ伏していますが何か?
すりすりされ過ぎて微妙に逆毛ってる体毛を直す余裕すらありませぬ、ぐったりです。
しかも我が抵抗できないのをいい事に終いにはお腹に顔をうずめてもふもふしてきやがりましたし、シェラさん。
まぁサイズ的にお腹におでこをぐりぐりだったんですけどね。
しかし力尽くで押さえつけられお腹に顔をうずめてくるとか、我がヒトガタだったら通報待ったなしの絵面ですな。
体は毛玉、心は乙女な我には少々どころかめっさしょっくでしたよ? 虚ろな目で 「汚されちゃった……」 とか呟く位に。 そこ、案外余裕あるじゃんとかいうツッコミはやめたまい。
もし我に次の生があるとしたら動物を愛でる時は相手の人格を慮った上で行動しよう、そう心に誓いまする。
そしてなんか以前にも言った気がしなくもないけど、もう我お嫁に行けません。
ファンシーな毛玉生命体を婿に娶る予定は皆無だけど。
うん、阿呆な事考える程度に余裕はでてきたし早速行動することにしよう。 現状周囲には誰もいない、スキルを試すには絶好の機会である。
勿論試すのは人に見られたらヤバげなスキルナンバーワン、時空魔法さんである。
駄女神が使っているのを見てほしくておねだりしたらアッサリくれたこの厄スキル、根っこゴーレム相手に転移で多様してたけど本来求めた理由は収納である。
体長10センチ足らずの毛玉じゃ物なんて碌に持てないからね、倉庫的な謎空間に収納ができるなら問題解決です。
実は使用者のサイズに合わせて容量も変わりま~す、とかだったら訴訟も辞さないけど。
と、いう訳で早速試すとしましょう。 上位水霊の逆鱗、常時持ち歩くとか厳しいしね。 ってゆーか存在がバレたら没収されると思うです、明らかに厄い代物だもん。
おじ様が鑑定が通らないとか相当に珍しいとか言ってたからなんなのか理解できる人は少ないかもしれないけども、それならそれで謎の珍しい物品としての研究価値だとかでロックオンされそうだし。
そもそも人間に獲られちゃいました、てへぺろとか言ったらミヅチさんにコロコロされますね確実に。
大事な抱き枕がなくなったら我も困るし。 あったかくて適度に柔っこくてすっごい使い勝手いいのよねコレ。
で、肝心のスキルの発動ですが。
転移の時と同様に気合でどうにかなるんでないかな?
な~んて思いながら収納収納と念じてたらなんだか急に意識が…遠……く…………。
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気付くとそこは白い空間でした。
うん、言ってて我もワケワカランです。 誰か説明ぷりーず。
なに、また駄女神にでも招かれたの? だとしたら我また死んだの? 死因:スキル発動しようとしてとか意味不明ですよ?
ん~、でもよく見たら周辺なにもない真っ白い空間だしベツモノ? 薔薇のばの字もないし。
前方、何もない真っ白な空間。
右方、同様。
左方、右に同じく。
後方、同上。 一面の真っ白い空間に薄紅色の和服、紺色の袴、白い足袋に草履履きの女性が一人いるだけである。
って後方!?
慌てて視線を戻すと鉄紺色の肩下まである長い髪を後ろで結わえた七三分けの外撥ね前髪のおぜうさんが一人。
こちらの視線に気付いたのか笑顔を浮かべ歩み寄ってくる。
そのまま自然な動作でしゃがみ、我を両手で捕獲し、立ち上がり、我を持ち上げて目線をあわせ。
「自分からねだっておいてここまで放置するとか馬鹿ですか? 阿呆ですか? いっぺん死にますか?」
満面の笑みを浮かべたままこんなことを仰って下さいました。
やだ、この子可愛い顔して毒舌デスヨ?




