28:我、ちょっとだけ真面目に考える
お風呂あがり、椅子に腰掛け……れなかったので卓上にハンカチを敷いてもらって腰をおろし果実水をごくごく。 うん、すっぱ甘い。
サイズ的にシェラさんが支えてくれてるティースプーンをぴちゃぴちゃ舐めてるんですけどもね。
今生初のお風呂で汚れや気になる臭いも綺麗さっぱり、毛艶も良くなり我、絶好調!
シェラさんの推定風魔術+ブラッシングで毛並みももっふもふのふさふさに戻りました、纏わりつく薔薇の香りが邪魔だけど。 …あっちのベッドでゴロゴロして匂い移そうかしら。
全身綺麗に洗ってもらってお湯に浸かってリフレッシュ。
お風呂上がりに推定風魔術とブラッシング、さっぱりしたらよく冷えた果実水で喉を潤す。
これでご飯貰えて寝床の世話までして貰えて代価がちょっとちみっこの相手をするだけ、ペットって素敵過ぎない?
我、もうこのおうちの子にな……っちゃ駄目だよっ!?
ファザーは生きてるのか、あの後兄弟姉妹ズは無事逃げられたか。
もし万が一があった場合、巣穴で独り待つマザーは一体どうしているのか。
それを確かめる為にも近辺の地理を調べて我の巣穴の場所を割り出す。 出来れば併せてこの世界の知識も学んでおく、無理なら使えそうな書物をいくつか拝借。
あとついでにウーパーr……げふん水の上位精霊のミヅチさんに土下座 de 鱗を返却。
うん、大丈夫。
ちょっとばかり誘惑に流されかけてたけど目的を忘れてはいなかったっぽい。
「もういいのかしら?」
一兎百面相をしていたらシェラさんがティースプーンを軽く示しながらこちらへ問い掛けてくる。
あ、はいご馳走様です。
ぺこんと頭を下げてお辞儀でお礼。 ……したら抱き上げられて頬擦られました。
どうもこの人、可愛いものがお好きらしい。
最初会った時はアカン人だと思ったけどこうして接してみれば年相応の可愛いもの好きなふつーの女の子みたいですな。 いや、年齢知らないけど。
我とシェラさんだけの秘密的に考えてそれを表に出さずに生きてきたんだろう。
で、そんな禁欲的な日々の中ファザーすら魅了するっぽい美兎な我と遭遇、一目惚れ、即堕ちで今に至る、と。
ふふり、我ってば罪なおにゃのこ。
でもシェラさんや、我はそんなお安くないですよ?
お触りは有料なのですよ? 具体的に言うとおいしいもの下さい、できれば甘味系で。
え? さっきたらふくクッキーを食べただろうって?
寝てる間に消化完了しました、そしておにゃのこは甘味専用の胃袋を持つ生き物なのです。
まぁ無理して全部食べきらなくても軽く味見して気に入ったら駄女神に貰った空間魔法で収納しとけばいいんだけどね。
…って、そういえば試してなかったけど空間魔法って食べ物入れても大丈夫なんでせうか?
収納できるとして、しまってる間の時間の経過とかは? 取り出したら腐っちゃってました~、とか洒落にならんですよ?
うん、実験しとくの綺麗さっぱり忘れてました♪
強請って貰っておきながら忘失してた辺りスキル授与時の駄女神の呟きに相当怯えてたんだなぁ我。
いやまぁ現在進行形で怖いんですけどもね?
根っこゴーレム相手に散々転移使っておいて何を今更って気もするけど。
流石に人前で披露するのは自殺行為だから折を見て少しずつ実験しとこうそうしよう、今度は忘れないようにしっかり心のメモ帳に書き込んどこう。
と、現実逃避するのはこの辺で終了。
ファザーは我よりも圧倒的に強い。 が、根っこゴーレムことバイオプラントガーディアンはそんなファザーと比べても文字通り桁が違っていた。
明確に殺意を持ってではなくただ払い除けた程度の一撃ではあったが、体躯の差も相俟ってファザーにすれば相当に洒落にならないであろう攻撃。
それをまともに受けて地面に叩き付けられ、弾みで2~3跳ねて倒れ伏し、ピクリとも動かなかったファザー。
……改めて思い返してみれば普通に致命打なんじゃね?
仮に生き延びたとしても二度と再起不能臭くない?
いかん、思考が暗い方向にばかり走ってる。
我の常識で考えるから悪いんだ、ファザーは魔物という謎生物。
つまり我の知っているような生態は一切あてにならない訳で、致死ダメージでも死ななかったり生きてさえいればあちこち壊れていても勝手に直るものなのかもしれない。
もしくは死んだとしてもそこからラビゴーストとかボーンラビ、ラビゾンビだとかにクラスチェンジしている可能性だってあるかもしれない。
いや、骨とかゾンビとか存在するのか知らないけどね。
ってまたネガティブな思考に流れてるな我。
大丈夫、信じろ。 ファザーは強い、きっとまだ生きてる。
そしてファザーが生きていれば必ず兄弟姉妹ズやマザーを守り抜く筈だ、根拠もないただの願いだけどそうであって欲しい。
共に過ごして半月と経っていないが紛れもなく今生における我の肉親である、頼むから無事であってほしい。
てゆーか無事でなかったら我が死ぬ思いで根っこゴーレムと追いかけっこした意味がないし。
む~、どうも真面目にあれこれ考えてても気付くと思考が妙な方向に流れていってるなぁ。
前世の我はシリアスさんとは無縁なギャグ体質だったのかしら。
まぁ高速で移動して空中を駆ける事もできる手のひらサイズの毛玉とか存在そのものがシリアスさんに喧嘩売ってるけど。
おまけになんだかんだで結局こっちも試してないままだったけど神様ですら一撃で首ちょんぱ可能なとんでもスキルまで持ってるし。
今更ながら我って存在自体がギャグな生物だよね~……って。
うん、駄目だ。
本気で真面目な思考ができないっぽい、ちょっと油断するとあっちこっちに迷子になってる。
体格相応に脳も縮んじゃって難しい思考ができなくなってるのかしら。
…うん、ないね。
ってゆーか分かってるんだけどね本当は。
単純に我、現実と向き合うのを怖がっているだけである。
小型犬並のサイズのファザーが10m近い巨人の一撃をまともに喰らって数メートルを落下、2~3跳ねる程の勢いで地面に叩き付けられて。
生きていられる筈がない。 もし仮に即死しなかったとしても骨格や臓器が無事な訳もなく、結果無駄に苦しんだ挙句息絶えるだろう。
兄弟姉妹ズにしても仮にパニックから立ち直ったとして、あのステータスでは巣穴に無事逃げ帰られるかどうかすら怪しい。
それこそゴブリンと遭遇しただけで容易く皆殺しにされるのは想像に難くない。
食事を獲ってくるファザーの死後、兄弟姉妹ズと大差ない程度のステータスしかないマザーがどうなるのかなど語るまでもないだろう。
あ~やだやだ、現実さんなんて大っ嫌いだ。
向き合ったって碌な頃なんてありゃしない、そりゃみんな逃避しようとする訳だよ。 よって我が思考を迷子にして現実さんからとんずらするのは当然の帰結なのです。
そもそも我の住んでた場所を探すのもひと苦労だしね、ヒントが何もないし。
成竜にすら有効な麻痺毒を持つ実の成る木が近くに生えていて、我の足で十数分駆けた先に上位水精霊の棲む巨大な湖がある。
これで見つけられるものならやってみろってレベルである、求む予知能力持ちの名探偵。
どうでもいいけど探偵物の作品に出てくる名探偵ってどう考えても予知とか過去視レベルのとんでも推理能力持ってるよね。 あと存在するだけで常に周囲で殺人事件が起きる程度の能力。
関わればもれなく犠牲者か容疑者、キャラが立てば以後も事件に巻き込まれる権利をゲットです。
もし現実に存在したらきっとぼっちです、間違いない。
うん、思考の迷子は絶好調。
巣穴に帰って現実と向き合うまではこのまま迷走を続けてもらおう。
そんな事を考えながら我もシェラさんの柔らかほっぺにすりすり。
なんとな~く他者の温もりが恋しくてしょうがないからね、仕方ないね。




