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20:我、お詫びメールを受け取る?

 揺り篭にゆられるような優しいまどろみの中で、夢を見ていた。



 周囲を見渡せば一面血、血、血。

 床、壁、窓とペンキをぶちまけたかのように真紅に染まる、生命の気配の途絶えたその空間に()は一人佇む。

 両手に感じる感触に目をやれば左右の手にはそれぞれ朱に濡れたナイフ。

 呆、と無感情にそれを見つめたのち、床に散らばるかつて人間であったものたちを踏みつけながらゆっくりと歩を進め、隣室へと繋がる扉のノブに手を掛ける。

 そのまま力を篭め扉を押し開けば


 ダンッ!!


 銃声、そしてつい先程まで(・・・・・・)私の頭があった(・・・・・・・)空間を駆ける一発の弾丸。

 軽く傾げた首を戻し室内に目をやれば、応接用のテーブルとソファ、そしてその奥には重厚な机と対になった椅子に腰を下ろしこちらを見据える美しい女性が一人。

 恐怖を秘めたその瞳で、だが健気にも硝煙を吐き出す銃を構えこちらを睨むその愛らしい姿に笑みを浮かべ気負いない所作で歩み寄れば


 「…この、化け物が」


 そう呟き、彼女は構えていた銃を力無く卓上に放りやった。

 そんな彼女の姿に堪えきれなくなった私は、互いの身体を遮る無粋な机を蹴り飛ばし(・・・・・)彼女へと肉薄する。



    嗚 呼 、 モ ウ 我 慢 デ キ ナ イ ・ ・ ・ ・ 。



 両手に持ったナイフを逆手に持ち替え、両腕を交差させ彼女の首を挟み込み


 「地獄に堕ちろ」


 端正な作りの顔を歪め怨嗟の言葉を吐き出す彼女に更に笑みを深めながら、両の(かいな)を左右に引く。

 柔らかい、極上の肉を引き裂く感触。

 シャワーのように降り注ぐ暖かな鮮血。

 噎せ返る程に濃密な死の匂い。

 急速に薄れていく、彼女の生の気配。

 それら全てを一身に受け、私は至福の中で絶頂の嬌声を高らかに歌い上げた。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 お目々ぱっちり、我起床。

 …………………で、なんぞ今の夢?


 まさかと思うけどあれが我の前世の記憶とかないよね?

 "我" じゃなく "私" って言ってたしきっと映画か何かの記憶だよね?

 あんな狂気が人の皮かぶったような代物が我だったなんて認めません。

 首刈って悦に浸ってたから今生で首刈り兎になったんじゃなかろうかなんて考えもしませんですじょ?

 あれは夢、あれは夢、あれは夢~……。

 …でも、鉄砲の弾を避ける素敵技術とか社長室とかに置いてそうなお高げで重そうな机を蹴り飛ばす頭おかしい脚力とかはちょっとだけ欲しいかも。


 っていやいやいや、何を考えてるんだ我。

 あんなキチガイを羨ましがるとか(ひと)として終わりだからね。

 混乱する頭を落ち着けるべく手の中のものをふにふにしつつ深呼吸、すーはー……。

 ところで我なに抱えてんの?

 視線を下げれば両腕でしっかと抱きかかえているのは薄いピンク色の鱗。

 適度にぬくくて柔らかい、表面はつるつるでざらつきの無い抱き枕に最適そうな逸品ですな。


 うん、これどう考えてもミヅチ(ウーパールーパー)さんの鱗ですね。

 しかも最後に触った他と比べて更に柔らかなあの鱗だね。



 {上位水霊の逆鱗:

  水を司る上位精霊、個体名:ウパルーヴァの逆鱗。

  魔力の制御を司る器官である。}



 われしってるよ、これあかんやつだって。

 ミヅチさん、魔力4,800とかいう頭おかしい数字だったのにそれを制御する器官がなくなったらどうなるのさ。

 てゆーかそんな重要なものがあっさり取れちゃ駄目でしょーにっ。

 すぐに生えるものなのかしら、これ?

 もし生えないとかだったりしたら早く返して土下座しなきゃだよねぇ。

 ……頭からばりぼり齧られたりしないよね?


 考えても仕方なし、とりあえずミヅチさんの所に~、ってそういえば此処何処?

 周囲をきょろきょろと見回す。

 四方が木壁が覆われてるでありますね、高さはそれほどでもないけど。

 で、足元というか我の下にはなんかやたら肌触りのよろしい綺麗な布。

 とりあえず身を起こして壁に張り付いてみる。

 あ、これ全力で背伸びすれば目線が壁を越えれそう。

 ではでは、壁の縁に手をかけてうにょ~ん、と。



 ……なんか、目が合いました。

 一対のまんまるお目々とご対面。 とりあえず目礼してみましょう、こんにちわ。

 顔の下半分、っていうかぎりぎり目までしか壁を越えてないから頭下げても通じなさそうだけども。

 ご対面したお相手はまんまるお目々を更にまんまるくしてこっちを見ている。

 可愛らしいお顔をしたヒト種のちみっこいおぜうさんですね。

 まんまるお目々をめいっぱい見開いてこっちを見ること数秒、なんだか興奮した様子で後ろを振り返って何事か喋り始めました。

 けど、それ何語?


 「★◎▲○◇◆▽●■□▼☆∂∞≧っ!」


 なんだか喜色めいた声音ですね、表情もにぱーっという擬音がつきそうな位の極上の笑顔だし。

 うむ、ちみっこは笑顔が一番ですな。

 …じゃ、なくて。

 美人さんやミヅチさんが特殊だっただけでもしかして我、この世界の言語理解不可とかですか?

 だとしたらこの先色々と困……るのかな?

 よく考えたら普通に生きていく分には別に理解できなくても困らない気がしないでもない?


 むむむ~、と頭を悩ませているとポーン、という音が脳内に響く。

 それと同時に謎ボードさんの色違いが宙空に現れた。

 普段の謎ボードさんは透明、なのにこのボードは薄紫色。

 なんぞこの亜種ボード、と首を傾げているとなんだか表面に文字が浮かび上がってきた。

 え~と、何々……




 『お詫び:転生者(mod)様が知的生命種以外に宿るケースを想定していなかった為、言語の理解把握に問題が発生する不具合を確認しました。

  再発防止措置と影響範囲の特定が完了しましたので、ご報告のメールを送信させていただきました。

  今回の障害により、転生者(mod)様には、ご迷惑とご心配をおかけいたしましたことを深くお詫び申し上げます。

  また、当該ユーザー様にはお詫びといたしましてエクストラスキル:言語自動翻訳の付与と黄金桃(スキルガチャチケット)を送付させていただきました。


  このたびは転生者(mod)様のご信頼に応えることができず、大変申し訳ございませんでした。 重ねてお詫び申し上げます。

  今後このようなことが発生しないよう、管理体制の改善に努めて参ります。

  よろしくお願いいたします。



                      箱庭管理システム(ルシェル=ルュスト)

                                   』




 ……今度会ったら絶対蹴っ倒してやる、あの駄女神(ゆかいはん)

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