19:我、やらかす
「~~~~~~~~~ッッ!!!」
轟音の様に響き渡り大気を揺るがす咆哮をBGMに我入水、ポチャン。
水音が我の矮躯さと軽さを表してやがられます。
生まれたばかりだし仕方ないよね、これからちゃんと成長するよね。
……するよね?
などと思考の現実逃避をすること数秒。
…追撃、来ませんですじょ?
本命根っこゴーレム、対抗我が激突した謎生物、大穴この湖に棲んでる生き物と想像してたのに何も襲ってきませぬ。
特に根っこゴーレム、あれだけ殺す気満々で追い回してくれやがられたのに水ポチャした程度で諦めてくれたのかしら?
それとも我が顔を出すのを待ってるとか?
ゆっくりと目を開け、上を見やる。
もし顔を出す機を狙われているのならこのまま浮上する訳にはいかんとです。
と、思ったのだけど。
目を開けた瞬間、我の思考はすべて吹き飛んだ。
湖に落ちたのだから当然周囲は水な訳なのだが、開けた視界を遮るものがない。
微塵の濁りもない、水中にいるにも関わらず水底まで見通せる程に透き通った透明な湖水。
綺麗過ぎて逆に怖いであります。
そしてそれ以上に裸眼なのに水中で普通に見えている我の目が怖すぎるであります。
やっぱり我、っていうかラビは腐っても魔物なんだねぇ。
しみじみと考えつつも、とりあえず目の前にあるピンク色の壁に張り付く。
浮力で湖面に出ちゃったらまずいかもだしね。
かといって呼吸の必要がある以上いつかは出なきゃいけない訳で。
一瞬顔を出して即呼吸、再度水ポチャ?
うん、まったくもって現実的でないね。
この湖に棲んでる生き物を囮に?
そもそも周囲を見渡しても生き物が一匹も見当たりませんですね、はい。
どうしたものかと張り付いたピンク色の壁をふにふにしつつ沈思黙考。
で、このピンクなに?
沈思黙考どこ行ったって? 知らんがな。
微妙にあったかい。 そして表面には柔らかい鱗(?)がびっしり生えている。 触感はぷにぷにというかもちもちというか……正直癖になりそう。
人をダメにするソファってこんな感じなのかしら?
ふにふにふにむにふにぷにふにふに…………。
……はっ。
いかんこんな事をしてる場合じゃなかった。
そろそろ呼吸もやばげになってきたしどうにか現状を打破しないと。
ところで、我がさぁ、と気を入れると狙い澄ましたかのように毎回何かしらイベントが発生する訳でして。
何故今そういう事を考えたかと言いますと、現状打破に向け思考を切り替えようとした瞬間にピンクが身じろぎしましてですね?
あ、やっぱりこれ生きてるんだなどと思うのとほぼ同時にもの凄い勢いで上昇を始めちゃったのですよ、勿論我を張り付けたまま。
で、気付けば水上。
正面には根っこゴーレム。
ジェットコースター兎生とかほんと勘弁して下さい、ノーサンキューですよ我?
って、あれ?
よく見たら根っこゴーレム、なんか所々抉れてない?
視線は相変わらず射殺さんばかりに鋭いけどもそれは我を捉えておらず。
さてそれじゃあ何を捉えているのかと目線を追ってみると。
……うん、何も見えない。
いや、正確には我が現在進行形で張り付いているピンクが遥か上まで続いてるんですけどね?
その先にどうも顔っぽいものがありそうではあるのだけども、距離が近過ぎて見上げてもまるで捉えきれませぬ。
とりあえず前足でむにむには継続しつつどうにか顔を見れないか首を伸ばしていると後方から異音。
振り返ると根っこゴーレムの体からギチギチと音を立てながら大量の根が伸び、一斉にこちら目掛けて突き出されてくる。
「ぎゃお~」
そして再度響く大気に染み渡り空気を震わせる咆哮……、ってさっきは認識できなかったけど何この気の抜ける声?
しかし、その間抜けな声の生む効果は絶大で。
薄い円盤状の水が数枚、迫り来る根を阻むように現れ、それら全てをいとも容易く防ぎ切ってのけた。
それと同時に今度は水の球が複数浮かび上がり…――――
「ぎゃお、ぎゃお~っ」
号令(?)一閃、一斉に根っこゴーレム目掛け水球が奔り。
その強靭な体を容易に抉り取り、しかしその速度を落とすことなく一直線に飛び続けあっという間に我の視界から消えた。
……え、何それ怖い。
我、もしかしなくてもとんでもない代物に張り付いてる?
ぶ、部分的に捉えてる状態でもいけるかな?
謎ボードさんかも~ん。
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名前:ウパルーヴァ
種族:上位精霊・水
状態:寝惚け
称号:なし
Lv :220
HP :3,400/3,400
MP :6,200/6,200
筋力 :50
耐久 :100
敏捷 :320
魔力 :4,800
幸運 :600
【スキル】
操水
【固有技能】
同化・水
物理無効
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ピンクの謎生物、まさかの精霊でした。 しかも上位の。
へ~、精霊って触れるんだーあはは~……はい、もう現実を見つめるのが嫌になっちゃいました。
我の生息域周辺、トンデモ生物多すぎてもうね。
れべる、舐めとんかい。
えいちぴー、えむぴー、アホかとバカかと。
すてーたす、魔力さんまぢ自重。
総評・このピンクさん、根っこゴーレムですら可愛く見えるレベルの化け物でした。
おまけにこのステータスで物理無効とか。
…あれ?
物理無効なのになんで根っこゴーレムの攻撃防いだんだろ?
『だって、そうしないとアンタ串刺しだったじゃない』
あ、我を護ってくれたんだ?
『勘違いしないでよね、別にアンタを助けた訳じゃないんだから』
おお、つんでれ。
『つんでれ? …まぁいいわ。
アンタとは色々とお話しなきゃいけない事があるしね。
あれを片付けるまで待ってなさい、あとそこに張り付かないでもっと下に移動しなさい。
ついでに揉むな』
え~、触り心地いいのに……ってまた会話が通じてるのね。
美人さんといいトンデモ生物って兎の心読みすぎじゃない?
『美人さんっていうのが誰かは知らないけど思考を聴く位は精霊なら誰でもできるわよ』
精霊まじヤバい、超怖い。
物理無効だわ自属性の魔術なら無限に行使できるわ果てに思考を読めるわって。
『そのヤバくて怖い精霊の太腿を遠慮なく延々揉み倒してる毛玉が何を言ってんのよ』
……太腿?
『今アンタが張り付いてるそこ、私の太腿』
言われて視線を正面に、次いで上~、下~。
見事にドラム缶体型ですね、うん。
ここが太腿以前に上を見ても下を見てもまるで部分の区別がつきません。
そもそも足がないのに腿とは此れ如何に?
ってゆーか謎ボードさんから精霊って情報貰う前は水蛇か竜だと思ってました。
改めて姿を眺めて精霊という情報も含めてしばし考える。
…ああ、蛟か。
確かあれ、名前三文字にそれぞれ意味があるとかなんとか。
"チ" が蛇、もしくは精霊を指す語だった筈。
『ふ~ん……。 ミヅチ、か。
いいわねそれ、これからはそう名乗ることにするわ』
ほわっ?
え、名前ってそんな簡単に変えていいものなの?
『元々ウパルーヴァって名前、可愛くないから好きじゃなかったし』
あ、さいですか。
な~んて風にすっかり会話に意識を傾けたのがまずかった。
水面を叩くような音と共に我の傍を掠めピンクさん改めウパルーヴァさん改めミヅチさんに次々と突き立つ根っこ。
うん、ミヅチさんも我との会話に意識をやって根っこゴーレムへの応対がおざなりになってたくさい。
後ろ見たら水の円盤がさっきよりも薄くなって何本かの根が突き抜けてるし。
ってヤバい、また一本貫通してきた。 しかも我に直撃コースで。
慌てて前足に力を篭め、鱗を掴みながら必死で上へ上へと登りその一撃をどうにか回避する。
『ばっ、ばか。 どこ触ってんのよっ!?』
なんだか罵倒されてるけど今は耳を傾けてる余裕ないです。
文句があるならまず水の円盤復活させろください。
実際また何本か貫通してきてるし。
『ちょ、そこっ……!』
えっほえっほとミヅチさんぼでぃをよじ登っていた我の左前足がなんだか他に比べて更に柔らかい鱗に触れる。
当然さっきまでの鱗のように掴んでも握り込めずに前足が滑る訳で。
咄嗟に宙を蹴り、がっしとその鱗に抱きつく。
『~~~~~~~~~ッッ!!?!?!!』
声にならない悲鳴?
なんで声にならないのに聞こえるんだろ?
ってヤバッ、この鱗柔らかすぎて掴み所ががが。
冷静に考えればこの時、別にミヅチさんの体に張り付いたままでいる理由はなかった訳で。
適当にエアジャンプで跳んで避難すればそれで済んだ話ではあるのだが。
当時の我はそんな簡単な事にも気付かないままその柔らかい鱗……、逆鱗に全力で抱きついてしまいまして。
『このっ、変態! 変態ッ!! ド変態~ッ!!! 』
絶叫と共に湖の水が噴火、爆発し。
当然我はそれに巻き込まれるまま吹き飛ばされ。
視界の端を掠めたのっぺりとした顔、左右に伸びるふさふさのエラ、顔部分のすぐ下に生える一対の腕。
ウパルーヴァじゃなくてウーパールーパーじゃね、アレ? 等とぼんやりと考えながら。
我の意識はぷっつりと途絶えた。
ウパルーヴァ改めミヅチさんは後ろ足のないウーパールーパーを想像して貰えるとよろしいかと。




