17:我vs根っこゴーレム
それは混乱し、驚愕し、恐れ、そして最後には怒気と殺意に思考を支配されていた。
名の示す通り、己が身は主であり母であるバイオプラントの盾であり、授かった堅牢な巨躯は母を害そうとするあらゆる暴威を容易く弾いた。
現に母の産まれた地でも、その後広がっていった支配圏にあっても、己に傷を負わせる者など数える程しかおらず、またその傷も致命打とは程遠いものであった。
その地のヌシやそれに準ずる類の強力な個体であり、敵と認識するに値する存在であっても盾である己を打ち破れはしなかったのだ。
しかし、今己に傷を負わせた相手はそのいずれでもない。
本来なら視野に入れる必要性すらない、敵性以前に存在を認識する必要すらないような小物。
つい先程払った羽虫と同種の、だがあれより遥かに劣る体躯の虫けら。
にも関わらず、その虫けらは己の目でも捉えきれぬ動きで懐の内に入り込み、あろうことか傷を負わせてみせた。
それも己の身で最硬度を誇る核に、である。
傷と呼ぶにも烏滸がましい、一瞬の内に癒える程度の代物。
だが、そんなものは言い訳に過ぎない。
この虫けらは、母より授かった己が身体とプライドに傷を負わせたのだ。
母を護る盾である此の身を、敵と認識するに値せぬそれが傷つけるという屈辱。
何よりも、己の目にも留まらぬ速度で動き最硬度を誇る核に傷を負わせたというその事実。
それはこの虫けらの一撃が己だけにあらず、母を守る同胞の目すら欺き母に牙を突き立てる可能性を示している。
この虫けらは己を敵性と認識している。
ならば母に牙を剥かない道理などなかろう。
己と同胞により護られし母は、弱い。
ただ産み、育み、大地を満たす事しか知らない母。
もしもそんな母に、己の核に傷を負わせるほどの一撃が叩き込まれようものなら…――――。
不意に己を襲った痛みに対する混乱。
己の身とプライドに傷を負わされた事に対する驚愕。
それを為した者により母の身に災厄が降りかかるやも知れぬ恐怖。
その一切を飲み込み、それは虫けらを "敵" と認識する。
己の全霊を以って滅ぼすという漆黒の殺意と、母より賜った身体を穢された怒りをその身に宿し。
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さて、とりあえず怒り任せにラビ・ソバットを叩き込んではみたものの。
これからどうすればいいのやら、誰か我に教えろください。
ぶっちゃけこのウェイト差で1ダメージ与えた程度で我にヘイトを集めるなんて無理だろうし。
でもこっちに目を向けさせないと兄弟姉妹ズが煎餅にクラスチェンジしちゃうしっ。
ってゆーかファザー、生きてるのかしら……ってうひゃうっ!?
根っこゴーレムの手が我の頭上すれすれを轟音をたてて通り過ぎる。
風圧と風切り音で耳がー、耳が~……って戻ってきたっ!?
しかも今度は顔面直撃コースだよ?!
おまけに今の一撃の風圧で思いっきり我の身体が前方に押し出されてるから体感速度二倍だよ?!!
おにょれ、舐・め・る・な・ぁ~~~~~っ!!
頭ごと上体を極限まで反らしぎりぎりでその一撃をやり過ごす。
うお~、まとり~っくす。
いや、エアジャンプからの風圧コンボの影響で宙空を滑空状態だしイナバウアー?
あれ、正確にはレイバック・イナバウアーだっけ?
まぁいいや、あれです。
兎がイナバウアー、なんちゃって。
……はい、ごめんなさい。
ちょっと現実逃避がしたかっただけなんです。
あれですよね、最初の一撃で起こった風圧で思いっきり前方に押し出されている状態で、今度は後ろへ押し出される風圧を叩き付けられた訳で。
おまけにめっさ不安定な体勢で。
で、言うまでもなく我は兎さんなので空なんて飛べない訳で。
一応跳ぶ事ならできるけども、それはまともな状態ならのお話なのね?
前後からの強烈な風圧で宙空で絶賛シェイクされている現状で。
上も下も右も左も分からない状態で。
根っこゴーレムが次に何を仕掛けてくるのかも分からない見えない今。
どこにどう跳べばいいのかなんて我には分からんとですよ。
うん、我dieぴ~んち。
ざんねん!!われの ぼうけんは これで おわってしまった!!
とか言いませんよ? ってゆーか諦めませんよ?
この状況を打破できるかもしれない手段、我持ってるもん。
美人さん、言ってたよね?
『ちなみに空間魔法の方ね。 使いこなせれば転移とかもできるようになるよ』
って。
そう、転移を使いこなせれば助かるのだよ。
今まで一回も空間魔法試したことないけどなんとかなるよねっ!
…なるよね? なって下さいお願いします。
うおぉおぉ、てれぽーと~~~っ!!
…できました、ただし根っこゴーレムの核っぽいのにへばりつく形で。
逃げるどころか零距離。
どう考えても転移失敗です本当に勘弁して下さい。
ってゆーかよく考えたら転移とかって普通は場所を指定しなきゃ駄目なんじゃないの?
今、我、根っこゴーレムから離れる離れる~しか考えてなかったよね?
その所為で根っこゴーレムが転移先の対象になっちゃいましたー、とか?
離れるどこ行ったし、いや我の勝手な想像だから実際はどうか知らないけどさ。
ん? でもこれって灯台下暗し的に考えたら災い転じてなんとやら?
相手は10メートル近い根っこゴーレム、こっちは10センチ弱の兎。
身体に張り付かれても普通気付かないよね、サイズ的に。
つまり、今の我は一息つける一時的な安全地帯にいる事にっ。
と、思った我とおっきなお目々がコンニチワ。
核っぽい球根さん、あなたお目々生やせるのね?
と、頭の中の冷静な我が分析をしつつ。
それ以外の絶賛パニック中な我はその巨大お目々めがけて全力で前足ストレートを繰り出して。
古木の軋む音を何十倍にもしたような絶叫? をあげながら。
根っこゴーレムの巨躯が傾ぎ、大地へと倒れ伏していった。
……核っぽい球根に我を貼り付けたまま。




