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閑話:ルシェル=ルュスト

 「――…で?」


 子兎(ヴォーパルバニー)を見送ったルシェルが目を向ける先には剥きかけのリンゴを齧る水色の髪の少女。


 「ボクは招待した記憶も招き入れた覚えもないのに、どうしてウニがここにいるのかな?」


 「…なんとなく?」


 その一言にルシェルは脱力する。


 (この子はいつもそうだ。

  なんとなく、勘、そんな気がした。

  そういったあやふやな理由でこちらの企みを的確に嗅ぎ当ててくる。)


 「勘弁して欲しいよ、まったく……」


 「それより、今の子。 何?」


 「今の、って……ああ、子兎(ラビ)?」


 「システムを創ったのは私。 その私に、システムの内にあるモノの誤魔化しは効かない」


 「…あぁ、うん、そりゃそうだよね。 欺ク者もウニが相手じゃ効果は無いか」


 溜め息一つ、宙に手を翳し取り出したカップにティーポットから紅茶を注ぎ一口。

 そんなルシェルに向けて少女が彼女お気に入りのデフォルメ化されたかぎしっぽの黒猫が描かれたマグカップを突きつける。

 苦笑しつつルシェルがそのマグカップに紅茶を注ぐと、少女は大量の砂糖とミルクを入れて一口。

 幸せそうに閉じられた眦から察するに好みの味に仕上がったらしい。




 始祖神、ウーニー=ピキュロス。

 "システム" の構築、管理を行う神でありルシェルにとって唯一と言っていい天敵。

 かといって仲が悪い訳ではなく、こうしてルシェルの領域に自由に出入りできる程に親しい付き合いである。


 「だからと言って来客中に入ってくるとか、親しき仲にも礼儀ありって言葉を知らないの?」


 「だから邪魔にならないように静かにしてた」


 「そういう問題じゃないでしょ、まったく……」


 「細かい事は気にしない、それより今の子は?」


 「細かくはないと思うんだけど?」


 ルシェルがつっこむも少女、ウーニーはジト目を向けるだけで口を開こうとしない。

 どうやら誤魔化すのは不可能だと悟ったルシェルは溜め息をつき、両手を軽く挙げお手上げのポーズを示す。


 「ウニの予想通りだよ」


 「そんなに死にたいの?」


 「うん、死にたい。 というよりも道化神(ルシェル)を殺したい、かな?」


 そう答えたルシェルの顔から表情が抜け落ちる。

 同時に薔薇園の薔薇が一斉に枯れ朽ち、残った薔薇の茎は茨へと変化していく。


 「ボクは道化神(ボク)、私は始祖神(ボク)、俺は闘争神(ボク)、此方は豊穣神(ボク)、某は盟約神(ボク)、我輩は破壊神(ボク)、わーは運命神(ボク)…………」


 一つ、名乗る毎にルシェルの顔にポツ、ポツと闇が滲み、その顔を覆っていく。

 そして、その顔のすべてが闇に覆われると同時に一文字に裂け、三日月が嗤う。


 「……ボクは原初(ボク)、あるいは混沌(ボク)


 かつてルシェルだった何かを見、ウーニーは一つ溜め息をつく。


 「ルシェルはルシェル、それでいいと思う」


 「ボク(ルシェル)はそれでいいかもしれない、けどボクはそれじゃ納得できない」


 「頑固者」


 「ボクはただ知りたいだけだよ、自分がなんなのかを」






 ボクは、ただ在った。 けど、ある時ボクの中にボク以外の何かが在る事に気付いた。 気付けば次々に現れるそれに問い掛けて、ボクはそれらが自分の同種だと悟った


 ボクはそれらとコンタクトを取り、少しずつ情報を集めていった。 けど、それらの知っている事とボクの感じるものは大差なかった


 だからボクは箱庭を創り、観測を始めた


 ただの思い付きだったそれは予想外の知識をボクに与えてくれた。 だけど、それでもボクが一体なんなのかは分からなかった


 そんな時だった、あのヒト型が生まれたのは


 他の粘土生命体と比べたら力も弱いし早く動けないし安定性もない、ただ小賢しい知恵を持つだけだと思っていたそれがボクらを変えた


 名前、そして司るもの。 言葉を得たヒト型がそういったものを創り出して捧げる毎にボクの中から一人ずつ、神が生まれていった


 けれど、たった一人だけ。 道化神(ルシェル)だけはボクの中に在り続けている


 彼女は、ボクを封じる蓋。 彼女は、ボクを演じる道化。 彼女が在る限り、ボクはボクにはなれない


 そう悟ってからボクは手を尽くした、その結果はウニも知っての通りさ。 自分で自分を殺す事はできない、故にボクはボク(ルシェル)を殺せない


 万策尽きたボクに箱庭が見せた一つの可能性、神属の存在。 それが示すのは箱庭で生まれたものはボクを殺し得るという事実


 ボクらの分霊である管理用ユニットを殺す事ができるのなら、理屈の上ではボクを殺すことも十分に可能な筈。 その為に必要なのはボクに届き得る刃


 故に、ボクは皆の目を欺きウニにも悟られないようにシステムにプログラムを組み込んだ。 (ボク)を殺すに至る刃を持つものを


 結果は芳しくなかった、システムの隙を抜き生まれた三体はどれも呆気なく死んでしまった。 かといってあまりに目立つ存在や著しく本質を変える存在を創ってしまえば気取られる可能性がある


 焦れても打つ手はなし、そんな中で偶然あの子が生まれた


 それを知ったとき、ボクは小躍りしたよ。 それまでの三体と違って知恵と理性を持ち、ボクに届き得る刃を持つ転生者(mod)。 ボクが待ち焦がれた可能性の誕生だ






 「――…尤も、こうしてあっさりばれちゃった訳だけどね。 それで、ウニはどうする?」


 「あ、独り言(ポエム)終わった?」


 「ちょっ!?」


 「正直どうでもいいし、死にたいなら勝手にすればいい」


 心底興味の無さそうな感情のない瞳で、欠伸混じりにウーニーは言葉を続ける。


 「なんなら手を貸してもいい、寧ろ手を貸すからさっさと終わらせてあの子を私にちょうだい」


 「…はい?」


 「もふもふで可愛い、他のと違って会話できるのも好感。 気に入った、だからちょうだい?」


 「い、いや。 あの子はボクの目的の為に必要で……」


 「だから手を貸すと言った、さっさと自殺でもなんでもして目的を果たせばいい。 そうすればあの子は必要でなくなる筈」


 「え~……」


 「それに、どうせ無駄。 あなたの企みは失敗に終わるし、ルシェルはルシェルのまま」


 「…それは、ウニの勘?」


 「うん」


 迷いの無いウーニーの言葉に、ルシェルだった何かの顔を覆う闇に罅が入る。

 やがて亀裂に耐え切れず砕け散ったその下から現れたルシェルは溜め息を一つ、空を仰ぐ。


 「……ほんと、敵わないわね。 ウニには」


 茨が枯れ、色とりどりの薔薇が芽を出し花を咲かせる中。

 ルシェルの溜め息混じりのその呟きは風に溶けて消えていった。


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