13:我、美人さんとばいばいする
「さて、それじゃこれからキミを送り返すわけだけど」
あれから数分、デコピンで迎撃された足の痛みが引いてきた所で美人さんが我の復活を提案してきました。
なんでもそろそろ魂を戻さないと繋がりが完全に途絶えて、肉体が死に向かうとかなんとか。
ええ、大事です。
間違っても 「あ、そういえば」 的に切り出していい内容じゃありませぬ。
「別に手遅れなら手遅れでゴーストとして第三の生を謳歌すればいいじゃない」
よくねぇでごぜーますですよ。
そもそもおばけの時点で第三の生違うやん、死んでるやん。
大体そんなホイホイ新種を作り出していいのかと問いたい。
「新種、って……ラビ・ゴーストは普通にいるよ?」
いんの!?
「キミに分かるように言えばこの世界のラビは某国民的RPGのスライムとか某MMOのポリン枠だから種類だけは豊富だよ」
だけ言うなし。
そして知りとうなかったそんな事実Part2。
「まぁゴーストになっても弱いんだけどね」
うん、知ってた。
どうせ下位の魔術一発で死ぬんでしょ?
「なんと幽体なのに物理攻撃が有効です」
……逆に凄いね、それ。
この世界はどこまでラビに厳しいんでしょうね、こんちくせう。
「ドラゴンより硬くてバ火力な個体とか、強いのはとことん強いんだけどねぇラビも。 ま、それはいいとして…―― 」
ちょっと待った、今の話詳しく。
ドラゴンより強いラビ!?
「これからキミの魂を送り返すわけだけど、その前にいくつか注意ね」
またスルーですかそうですか。
この神、きっと通知表に 「人の話はちゃんと聞きましょう」 とか書かれるタイプですね。
「さっき少し話した管理用ユニットを殺してシステム介入権限を奪い取った存在の話、覚えてる?」
うん、美人さん達の敵さんでしょ?
「そうだね、玩具だね(棒)」
今なんかおかしくなかった?
「キノセイダヨ? さておき、そいつらにもし遭ったりしたらすぐに逃げるように、今のキミじゃ逆立ちしても勝てないから」
言われなくてもすたこらさっさだけどさ、そもそもどうやって見分ければいいん?
なんか凄そげなオーラでも出してるの?
「鑑定すれば種族に "神属" ってあるからそれで分かるよ」
属? 族じゃないの?
「そんな上等な存在じゃないし」
うわ~おばっさり。
でもその連中、美人さん達の作った管理用ユニットを倒せる程に強いんでしょ?
「うん、管理用ユニットを倒せる程度には強いね」
ん?
「ん?」
なんだかニュアンスががが。
もしかして管理用ユニットさんとかその神属さんとか、実はそんな大したことない?
「キミ達箱庭の住人から見れば神って呼ぶのに十分な程度の力はあるよ? システムに干渉すれば天変地異から地殻変動までなんでもござれだし」
美人さん達から見たら?
「蟻の中に少し強い個体がいます、って言われてキミはいちいち気に留める?」
箱庭を管理させるユニットなのにそんな弱くていいのん?
「独力で箱庭を砕けるし十分じゃない? あんまり強くし過ぎても箱庭の魔力枯渇が早まるだけだし」
箱庭を砕くトンデモ生物も美人さん達から見たら蟻扱い、と。
うん、神様パねぇです。
「システムに干渉が可能になったから神に属するもの、っていう括りになっただけでボク達からすれば、ねぇ? まぁいい実験体だから放置してるけど」
……我、なんだか神属さんが哀れに思えてきた。
なんらかの目的があったのか状況に流されたのかはさておき神(代理)殺しを成し遂げて箱庭を手中に収めたと思ったら比べ物にならない上位存在がいて遊び相手にされるとか。
「即排除したりシステム介入権限取り上げないだけ温情だと思うよ?」
それ、単にそんなんじゃ面白くないとか別のアプローチからの箱庭観測とかそんな理由でしょ、我知ってるよ。
「ボクらと違って発想がユニークっていうか、地に足がついてる分見てて参考になるんだよねぇ。 あと欲望を曝け出す連中がすっごい滑稽」
道化に笑われる神属さん達、南無。
でもまぁ気持ちは分かるよ、神様になったーとか嬉しくてついはしゃいじゃうよねきっと。
「女以外生まれない、全ての女は自分のもの。 だなんて設定して住人全員から刺されて細切りにされてもぐもぐされちゃった奴とか皆でお腹を抱えて大爆笑したよ~」
…刺されて、細切りにされて、もぐもぐ?
「やんでれ&かにばりずむ?」
女の人って怖い、いや我も一応♀だけども。
てゆっか♀しか生まれないの時点で詰んでる気がするのは我だけ?
「そこに思い至るだけのおつむがあればあんな設定しないと思うよ?」
ご尤も。
「ま、そんな訳だから連中とは関わらないように。 あと、今度はあっさり死なないように?」
我だって好きで死んだんじゃないやい。
そもそもあんな果物トラップ反則だと思うです。
「世の中って案外理不尽なものなんだよ?」
我の前にも服を着て椅子に腰掛けた等身大の理不尽がいるしね。
「ラビ生が天国に思えるような来世をお望みかな?」
やめて下さい死んでしまいます。
「現在進行形でもう死んでるけどね」
ま、まだ生きてるもん。
「身体、硬化が始まってきてるけどね」
のんびり話してる場合じゃNEEEEEEEE!?
「大丈夫、いざとなったらラビ・ゴーストとして生きればいいんだから」
さっきも言ったけどよくねぇでごぜーますですよ。
どう考えてもラビよりろくでもない生物っぽいもん、それ。
「はいはい、それじゃ手遅れにならないようにさっさと送り返すとしようか」
そう言って美人さんがまたどこかから鏡を取り出した。
もしかしてあれ、アイテムボックスとかそういう素敵な代物なのかしら?
何もない宙から出してるし空間魔術とかの可能性も?
だとしたらすっごい欲しいです、我。
「欲しければあげるけど?」
マジデ!?
「ちなみに空間魔法の方ね。 使いこなせれば転移とかもできるようになるよ」
わっほい、夢が広がりまする。
「あの世界だと文献なんかもほとんど残ってない古代の遺失技術っていう扱いだからもし使ってるのを見られたらモルモット待ったなしだけどね」
ちょ、待っ。
「はい、授与完了」
凄くいい笑顔で言うなし。
我の制止気付いてたよね?
てゆーかその説明、普通は授与する前に教えてくれるよね!?
貴女、実は道化神じゃなくて愉悦神でしょこんちくせうっ!!
「はいはい、それじゃ時間もないしさっさとこの鏡に触って?」
兎の話を聞けし。
いや時間がピンチなのは分かってるけどもさ。
うー、まぁいいや。 見られないように気をつければ便利なのは間違いないし。
我、鑑定効かないしね。
んでは鏡に前足をぺたっとな。
…おや、何も起こらない?
ぺた、ぺた、ぺたぺたぺたぺた……。
「あ、ごめん。 それ違うアイテムだった」
おいィ!?
時間がないっていうのに何ふざけてるワケ!?
「ごめんごめん、それじゃ改めてこっちね」
そう言いながら美人さんが新しく取り出した鏡はさっきまで我の触っていた鏡の倍以上あるサイズで、おまけに四角でなく丸型。
どう考えてもうっかりでなく故意です、本当にこんちくせういつかその綺麗な顔を蹴っ飛ばしてやる。
「うん、期待して待ってるよ」
その余裕の表情がひっじょ~~~~にむかつくです。
必ずやその顔を苦痛と驚愕に歪めさせてやんよ、と我は誓いを立てる。
その為にも先ずは復活、そして目指せLv UP。
鼻息荒く前足で鏡をぺちぺち叩くとそこを中心に鏡面に波紋が広がっていく。
え、鏡だよねコレ?
慌てて前足を離し観察すると、波紋の広がる鏡面に何かが映し出されてきた。
草原っぽい緑の絨毯の生い茂る中で蠢く白い毛玉の群れ。
ひとつだけ他より大きな毛玉がいて、それが地に伏せぴくりとも動かない小さな毛玉にしがみ付いている?
他の小さな毛玉達も不安そうだったり悲しげに鼻を鳴らしたりしている。
……うん、どうやらこの鏡に映っているのはファザーと兄弟姉妹ズ+我の抜け殻っぽい。
改めて見てみると、我って他の兄弟姉妹ズより微妙にちっちゃくない?
もしかして我、末妹?
あとファザー、涙までは我慢するけど鼻から出ている粘液と口元から毀れている液体はあかんですよ。
その色々とヤバげな顔を我の抜け殻に擦り付けるなぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!?!?!?!?
嗚呼。
我、また汚れちゃった……。
「嘆いている所悪いけど時間が押してるからさっさと戻ろうね」
戻るって、どうやって?
あと、戻る前に我の抜け殻から謎液体&謎粘液をどうにかして欲しいです。
「贅沢言うなら数分待つ? 戻る身体がなければ汚れも気にならないだろうし」
ごめんなさい我がワガママでした許してください。
「はいはい、それじゃこれからこの鏡をキミの身体と繋げるから飛び込んでね」
飛び込む、って鏡に?
鏡面でごっつんこするだけじゃないの?
「さっきから普通に触ってるから自覚ないみたいだけど、今のキミは一応幽体だからね?」
ああ、そういえば。
あれ?
でも我さっきリンゴとか謎桃とか食べてたよね?
「あれはどっちも実体じゃなくて魔力で造った模造品だよ」
…まさかして、我が身体に戻った場合。
お腹、膨れない?
「うん」
おーまいがっど。
しょんぼりしつついつの間にか直立に立っていた鏡に向かう。
とりあえず左前足でちょん。
うん、鏡にぶつかる感触はない。
むしろ鏡の中に前足が入っていってるねこれ、なんか変な感じ。
前足を一旦引き抜き、美人さんへと向き直る。
とりあえず蘇らせてくれてありがとう、リンゴと謎桃ごちでした。
でもいつか蹴る。
「期待してるよ」
先刻以上の極上の笑顔で答える美人さん。
その余裕たっぷりの態度が気に食わぬぜこんちくせう。
とはいえ今の我ではお話にならないのは既に理解できている訳で。
我は強くなる、そしてもう一度ここに来てみせる。
それまで首を洗って待っているがいいわ美人さんめ。
あいるびーばーっく。
心中で叫んで我は鏡にどぼーんした。
……って、ちょっと待ったー。
お腹が膨れなくてもせめて、せめてもう一口だけリンゴをっ。
飛び込んだ勢いで鏡内に向かう身体を執念で無理矢理制御しつつリンゴに目をやれば。
ショリショリショリ。
12~3歳くらいの肩口までの水色の髪のちみっこがおいしそうに齧っていた。
「……?」
我の視線に気付いたのかこちらを向いたちみっこと目が合う。
あ、手を振ってきた。
とりあえずお辞儀、ってあかん、体勢が崩れたっ!?
せめて最後に我の甘味を奪ったあのちみっこの正体だけでも~……――――。
我の意識は、そこで途絶えた。




