116:我、安請け合いをする。
…ルカちゃん、今えるふって言った?
『言いましたが?』
えるふって、森とか自然の中で生きてて動物は狩らない肉は食べないの菜食主義で細身なイメージなんですけどもっ!
脳内で抗議しつつお顔と周囲に散らばるモノを視界に収めないよう気をつけながらチラ見した先にはボロボロのドレスの合間合間から垣間見えるガチムチの筋肉。
そもそもあのドレス自体筋肉でぱっつんぱっつんになってるし、どう見てもアレ、この身体は肉が作ったと言わんばかりじゃん。 細身どころか二の腕がシェラさんの腰回りと同じくらいあるんだよっ!?
『マスターの想像で原生生物を否定されても困ります?』
うぎゅぅ、納得はいかないけどそう言われるとぐぅの音も出せないでござる。
そうよね、エルフさんだってちゃんと生きてるんだもんね。 それを我の想像と違ったからって斬り捨てるなんて流石に…───。
『尤も、ああも極端な者は稀で基本的にはマスターの想像通りがエルフのスタンダードですが』
…ルカちゃん、ぜったい我で遊んでるよね?
涙混じりのジト目で睨め付けるもいつも通りの暖簾に腕押し状態、我の恨み言なんて知ったこっちゃないと言わんばかりの見事なスルーっぷりですねこんちくせう。
「…こんな、有様が…話し掛けてもっ、逃げず…襲わず……っ。 少なくとも、敵では…ない、みたいね……」
あっ、忘れてた。
そもそも我、あのごっついエルフさんに話し掛けられて部屋を覗き込んだんだっけ。
それにしてもあの有様で喋れるって凄いね、ふつーなら既にご臨終してそうなものなんだけども。
『…いえ、既に死んでいます』
ほえ?
いやだって生きてんじゃん? 動いて喋ってるじゃん?
『HPは0、状態は死亡、にも関わらず種族は不死族ではなく森人のまま。 …信じられませんが気合、もしくは根性で死に抗っているようですね』
やだ、なにそれ怖い。 気合と根性で死なないとかゾンビも真っ青じゃん。
…念のため聞くけどえるふがそういう気合と根性であれこれ乗り越えられるびっくり生命体っていうオチはないよね?
『一般的なエルフは殺せば普通に死にます、逸般的なエルフでも殺されれば素直に死にます』
じゃあアレは?
『エルフの皮をかぶったナニカでは?』
アレをエルフゆーたんルカちゃんでしょーがっ。
びしっと前足で突っ込みを入れるとルカが軽く握った拳をコツンと自分の頭に当て、片目を閉じてペロリと舌を出してみせる。
これはあれでせうか、所謂テヘペロというやつでせうか?
美人さんのルカがやると絵になるけどそれで誤魔化されてあげるほど我、チョロくないからね?
テヘペロのポーズのままもう片方の手に乗せたリンゴを我に向けて差し出しても懐柔されたりしませんですよ?
「お喋りに…付き合う気は、ないみたいね……」
あ、やばっ、また忘れてた。
正直聞いたら絶対後悔するというか聞かなきゃ良かったって思っちゃう系のお話としか思えないけど気合で生き延びてる人の末期の言葉を無視するのもなんだか、ねぇ?
『マスターのそのお人好しでちょろい性格は嫌いではありませんよ?』
あれれ~? 好意を向けられてる筈なのになぜかおちょくられてるというか馬鹿にされてる感がパないよ~?
まぁでもいつもの事だしスルー安定ですね。 ……あれ、もしかして我ってば無意識に調教されてる?
「お願い…ティセリナ様を、助けてあげて……」
…わ~お、聞きとうなかった名前が耳に飛び込んできましたですよ?
ルカちゃん、確かてぃせりなってちみっこ皇女の事よね?
で、そのちみっこ皇女はごちゃまぜモンスターの材料として神属さんに狙われてるんよね?
『はい』
つまり、それを助けるって事はさ?
神属さんに中指おっ立ててなんだバカヤロウこいよバカヤロウ俺はやるぞコノヤロウって言うようなものよね?
『要約すれば喧嘩を売るような行為だよね? と言っていると判断した上で回答するならイエスです』
アカンです案件ですね、間違いなく。
ちみっこ皇女助けて神属さんにこいやワレェとか叫んだら戦争に巻き込まれるの待ったなしですわ。
いくら恩義があるって言っても流石に国同士の争いに電撃参戦するとか洒落になってねーですだよ。
「おね、がいっ……、あの、子をっ………!」
…洒落になってないんですだよ?
だからそんな血を吐きながら搾り出すように懇願してきたって無駄なんですだよ?
末期の言葉を無視する気はないけど、でも聞いたからってそれを叶えてあげる義理なんてありゃしないんですだよ?
そんな、付け根から先のなくなった右腕と千切れかけて肘から先をぷらぷらさせてる左腕とを必死に伸ばしながら縋ってきても駄目なんですだよっ!?
「お、ね…がぃ……」
喉の奥から搾り出すような、嗚咽交じりの哀願の声。
それを聞いた瞬間我の脳裏をファザーとマザーの姿が過ぎった気がして。
あ~もうっ、やってやんよっ! と。
胸中で叫んだ我に、ごっついエルフさんの体がピクリと震え。
「あり、が…と……ぅ………」
蚊の鳴くような声でそう呟き、次の瞬間その体から一切の力が抜け落ちる。
その姿を最後まで視界に収めた後、我は両前足で頭を抱え床に蹲った。 今現在の心境を言葉にするなら 「やってもーたーーっ!?」 である。
なんでか分からないけどごっついエルフさん、我の心の叫びが聞こえたっぽい。
お礼の言葉を口にしてがくりと力尽きる寸前、なんか安堵したような気配あったもん。 ってゆーかお礼言ってきた時点でもうほぼ確定ですやん。
どうすんのさ我?
まさかもう死んじゃった人と生前交わした約束を所詮口約束だから~、で無かった事にする訳にもいかないし。
かといって神属さんにケンカ売ったところで勝てる自信もないしっ。
あ~もう、あ~もうっ、我のばかぁっ。 あ゛~~っ! あ゜~~~~っ!!
「別に、戦わずともティセリナ=ガオルーンを保護だけしてそのまま尻尾を巻いて逃げ出せば良いのでは?」
ごろごろと転げ回りながら悶える我に、不意にルカの投げかけてきた言葉。
それが耳に入り、言わんとしている事を理解した我は転げ回っていた体勢のままピタリと止まる。
……そっか、別に戦わなくても逃げればいいのか。
「…マスターは、本当にバ可愛いですねぇ」
やめろし、その生暖かい視線で我を見るなし。
微笑ましいものを見るような苦笑を我に向けるなしっ。
えぇい、臭いわグロいわからかわれるわでなんもいい事ありゃしない。
こんな所にいられるかっ、我はちみっこ皇女を追うぞっ。
そう宣言し、さっさとこの場を逃れるべく我は全力で地を蹴り宙を跳び…───。
「…ティセリナ=ガオルーンがどこにいるのかわかっているんですか?」
その一言で跳ね飛んだ勢いそのままにダイブし、床と熱烈な接吻を交わす羽目になりましたとさ。




