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109:大乱-⑮


 「そう、では避難民と皇都住人は既にここを発っているのね」


 「ええ、三百の兵とゼスが護衛について鉱人(ドワーフ)の集落を目指している筈よ」


 ミラ法国から皇都への道中にある避難の間に合った街の住人と皇都の住人、総勢八万強。 その護衛が三百の兵とガオルーン皇国家令ゼス=フォキオのみというのは些か以上に少ない、というよりどう考えても心許ない。

 だが、例え一兵であろうと無駄にできない現状に於いて三百の兵と家令の放出はガオルーンにとって手痛い所では済まない戦力の分散である。


 で、あるが故に(・・・・・・・)、その一手が相手に及ぼす影響は決して少なくない。

 八万強の難民とはいえ、この非常時に護衛の為に兵力を割く。 ミラ法国から見れば愚行以外の何物でもないその選択に、こちら(ガオルーン)の思惑を絡めて考えれみれば一つの答えが見えてくる。

 即ち、大量の難民に紛れての第三皇女ティセリナ=ガオルーンの皇都脱出。


 「あの性根の腐り切った女の事だ、こっちを嘲笑う為に別働隊を出して皇城攻め程度はむしろ嬉々としてするだろうよ」


 ウシュムはそう読んだ。 そして、ルールゥもまったくの同感であった。

 だからこそ、本来であれば守るべき民を囮にミラ法国の別働隊を釣り出す事でティセリナの身の安全を確保するこの策をとった。

 無論、民を犠牲にするつもりなど毛頭ない。 ガオルーン皇国の家令であるゼスと、三百の近衛隊すべてを護衛として派遣したのがその証拠である。

 とはいえ、それはウシュムとルールゥ他数名の考えであり。


 (知らぬ間に囮にされた民とこのお姫様は激昂するでしょうけれど)


 そう胸中で零しつつも一切表に現す事無くエンフェイナと言葉を交わしながら、二人は城内の一室を目指して歩を進めていった。




 「おねえさまっ!」


 普段とはうってかわって静まり返り、人気(ひとけ)の途絶えた城内を歩くこと暫く。

 人の気配のするその部屋の扉に手をかけ押し開いたエンフェイナを出迎えたのは涙化粧の末妹であった。


 「おちび、抱きついてくるなとは言いませんがせめて涙くらい拭ってからにしなさい。 (わたくし)のドレスが濡れてしまうでしょうが」


 思わずそう叱りつけるも返ってくるのは嗚咽とこちらの体に伝わってくる小さな震えのみで謝罪の言葉も無ければ離れる気配すらなく。

 天を仰ぎ溜息をつき、仕方なくエンフェイナはその頭に手を乗せぽん、ぽんとあやすように軽く叩いた。

 やがて、嗚咽の声が小さくなり、されど体の震えは収まる気配を見せぬまま強く、強くその手に掴んだエンフェイナのドレスを握り締め。


 「…おねえさま。 このせんそう、わたしがげんいんなんだよね」


 震える小さな声で、そう問うてくる。

 エンフェイナは手を止め、一瞬考えるように目を閉じ、しばしの間を置き。


 「そうですわね、そこに至るまでの経緯がどうであれ切っ掛けはおちびですわ」


 慰めでも、擁護でもなく、ただ事実のみを紡ぐ。

 その言葉にティセリナの小さな身体がびくりと跳ね、ドレスを掴む手に更に力が籠められ、その顔ごとエンフェイナのドレスに埋め込まんばかりにきつく抱きついてくる。


 (このドレス、もう着れないかもしれませんわね…)


 強く、きつく、抱きつかれ握り締められ皺が刻み込まれ、涙とおそらく鼻水に塗れたであろう今現在己の身を包むドレスの末路に心で涙するエンフェイナの耳朶を、嗚咽混じりの蚊の鳴く様な声が打つ。


 「わた、し…うまれて、こないほがっ、よがったの゛っ……?」


 搾り出すように、蚊の鳴く様な声量でやっとそれだけの言の葉を紡ぎながら。

 しゃくりあげ、身を震わせる幼い妹をじっと見やり。

 ふ、と苦笑めいた笑みを浮かべながらエンフェイナはその小さな頭にそっと手を添え。


 「このお馬鹿」


 直後、添えられた手が跳ね上がり拳を作り上げ。

 ごつん、とティセリナの小さな頭に拳骨が落とされた。


 「ふぎゅっ!?」


 その一撃に、ティセリナの目から火花が飛び。


 「~~~っ!!?」


 次いで襲い来る激痛にエンフェイナのドレスを握り締めていた手を離し頭頂部を押さえ、声にならない悲鳴をあげながらティセリナは床を転げまわる。

 室内にいた数名の侍女と兵士はその様子に咄嗟に手を伸ばしかけ、されど皇女であるエンフェイナを諌める言葉が出てこずおろおろと視線と中途半端に伸ばした腕を彷徨わせ。

 ルールゥは「時間の余裕はないのだけど…」と溜息を零しながら腕を組み扉に背を預け、我関さずと趨勢を見守る。


 「貴女が生まれた時、お父様はシェラに物理的に黙らされるまで狂喜乱舞して奇声をあげながら寝室を跳ね回り。 お兄様は見た事もない位にだらしない、緩みきった顔で恍惚の眼差しを向けて。 あのお姉様ですら目に涙を浮かべながら腫れ物に触るように恐る恐る貴女の頬に触れて、その指を貴女の手が掴んだ瞬間腰砕けになって無様に尻餅をつきましたのよ?

  それ程に祝福されて生まれてきた貴女が生まれてこない方が良かったなどと、冗談でももう一度口にしてみなさい。 次は本気で殴りますわよっ!?」


 涙目で頭を押さえながら床を転げまわるティセリナを睨み付け、怒気を孕んだ声音で叱り付けるエンフェイナ。

 その唇が、腰にあてた手が、怒りかはたまた悲しみからか震えているのを見て見ぬふりをする程度には(なさけ)を持ち合わせたルールゥはそっと視線をそらす。


 「…おね、さまも?」


 先程までの嗚咽の名残か、頭頂を襲う鈍痛からか。

 涙混じりの震えた声で、それでもティセリナはエンフェイナへと問い掛ける。


 「おねーさまも、わたしがうまれてきてうれしかったの…?」


 怯えるような、縋るような目で見上げながらそう問い尋ねてくる(最愛の)妹の姿に。

 処置無しとばかりに盛大に溜息を吐きながらエンフェイナはしゃがみ込み、その小さな体を抱き潰さんばかりに全力で抱き締めた。


 「当たり前でしょうがっ! (わたくし)はおちびの姉ですのよ!?」


 怒鳴りつけられ、苦しいほどに抱き締められ。

 己の体を縛り付ける姉の腕が震えている事に気付き。

 不意に首筋を襲った暖かな液体がなんであるのかを察した瞬間。


 「ごめっ、ごめんなざっ! おねーざま、ごめんなざいぃぃ~~~っ!!」


 ティセリナの感情の堤防は、容易く決壊した。



 先週末から、現在進行形でインフルさん家のエンザさんに殺されかけています。

 人生初インフル、本気で死にそうです。 もう二度とごめんです。


 …ところで、お医者先生曰く5~7日で熱は下がるとの事だったんですが。

 十日たっても健在な辺りこのインフルさんしぶとすぎません?

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