103:大乱-⑨
先週、朝一で職場から呼び出しがかかった為執筆の時間がとれず投下できなかった事、心よりお詫び申し上げます。
なお、朝一の呼び出しで帰宅が午前様にも関わらず自主的な行動によるサービス出勤扱いとされた模様。 モウワラウシカナイネ。
「はぁ!? 暇乞い?」
あまりにも予想外のその提案に思わず声をあげるガオルだったが、続く言葉はびしりと突きつけられたサルースの指により遮られた。
「そもそも現状が既に分不相応なんっスよ、俺っちの場合。 たまたま生まれたのが早かったってだけで俺っちの完全上位互換な弟がいるんっスよ?
じゃけんこんな重っ苦しい肩書きは弟にポイーで気ままに雌漁りしましょうね~」
「おいコラエテ公、おう」
「伊達や酔狂で兎人の雄ver.だなんて呼ばれてないっスよ、猿人は」
そう言い切っていい笑顔でサムズアップをしたサルースの腹部にガオルの拳が突き刺さったのは残念ながら当然の帰結であった。
「で、マジであれをどうにかできんのか?」
「できます、やれます、マジ頑張りますんでその足をのけて俺っちの頭を大地から解放してくださいこのままじゃ鼻だけじゃなく口にも土ボッファッ!!?」
「おーさまにこーとーぶぐりぐりされて地面にうめこまれながら喋ったらそーなるよね?」
地面に自分の顔面の拓を掘り込むサルース、その後頭部を踏み躙るガオル、サルースの横にしゃがみ込み踏み躙られる後頭部を横からちょんちょんと突つくリーン、遥か後方で雄叫びを上げ暴れ回る巨大合成獣。
死地とは思えぬなんともぐだぐだした空気が周囲を覆っていた。
「で?」
ようやく足を離し後頭部を解放され、口から砂利を吐き出すサルースに再度ガオルは問い掛ける。
それに答えようと口を開き、砂利が喉に流れ盛大に咽るサルースにリーンが水の入った杯を手渡し、嗽の後ひと呼吸を終え。
「どんだけ無茶苦茶な代物でもアレが所詮合成獣でしかないなら大丈夫の筈っス。
つーかそもそも勝算がなかったら兄貴に提案したりしてねっス、シバかれたくないし」
「ふむ……」
サルースの言葉を呑み込み、一瞬の黙考の後、遠方で暴れ回る巨大合成獣へと目線を送る。
「…信じて、いいんだな?」
「俺っちが今までに兄貴の信頼を裏切った事が一度でもあったっスか?」
ニヤリ、と不敵に笑うその顔には絶対の自信。 それを見て再度、ガオルは黙考する。
サルース=モネラ。
お調子者で、態度が軽く、ノリと勢いで生きる憎めないバカ。
アラケルの住人にとって、サルースという存在はそういう認識である。
が、ガオルは知っている。 その仮面の裏でサルースがどれだけ努力を積み重ねてきたかも。
親の跡を継ぎ八歳という若さで族長の座を継いで後、今に至るまでにどれだけの苦難があったのかも。
お調子者の仮面に隠した素顔でどれだけの涙を流し、数多の苦境を前にどれだけ知恵を振り絞り血を吐く思いで勝ち進んできたのかも。
そのサルースが、自身の信頼を裏切らぬと断言する。
ガオルにとってそれは、何にも勝る絶対の忠義であった。
「分かった、全部お前に任せる」
「なら口約束で構わないんでさっきの俺っちの話、認めてくんないっスか?」
「さっきの話?」
「猿人の族長っつー重っ苦しい肩書きを弟にポイーする許可っス」
「…お前、アレ本気で言ってたのか?」
「いや、だってどう考えても俺っちより弟の方が相応しいっスよ?
イケメンだし頭の回転も早いし俺っちなんかより圧倒的に強いし。 ……きっとあいつ、俺っちの才能全部吸いやがったんっスよ」
最後の最後で本音という名の闇を吐露したのが多少気にならなくもないが。
少なくともサルースとその弟の兄弟仲は円満、を通り越して弟馬鹿なこのブラコン猿がなんの考えもなしに弟に責務を丸投げする要素などある筈もなく。
「わーったよ、首尾よくあのバケモンをどうにかできた暁にゃあ。
サルース=モネラの族長引退とグラム=モネラへの族長権の委譲、俺の名において認める」
「へへっ、さっすが兄貴太っ腹」
「で、どうにかするって具体的には……」
「ボスー、ひと通り集めてきやしたぜ~!」
ガオルの言葉を受け満面の笑みを浮かべサムズアップしたサルースに詳しい話を聞こうとしたその言葉を遮るように。
幾つもの襤褸布を結び無理矢理一枚に纏め上げたような人間大に膨らんだ風呂敷を、三人の猿人がえっちらおっちらと運びながらこちらへと駆け寄ってくる。
「おっ、予想以上に量があったっスね」
部下達が地面に下ろした巨大な風呂敷包みをぽんぽんと叩きながら喜ぶサルースに、部下達はそれぞれサイド・チェスト、フロント・ダブル・バイセップス、モスト・マスキュラーのポーズに満面の笑みで応える。
「俺らが死体漁ったり瓦礫を撤去までして探し回った成果でさぁ。
これ以上はもうどこにもねーって胸を張って言えやすぜ」
「おっけおっけ、こんだけありゃ成功間違いなしっスよ。
任務ご苦労さんっス」
「ヘッヘッヘ、俺ら猿人が普段お高く留まってる狐人や偉そうな虎人、徹底した実力主義でこっちを見下してた熊人や猪人ですら歯が立たなかったバケモノを退治できるならこんなん苦労の内にも入りゃしねーっすよ」
そう言って悪い顔で笑い合うサルースと部下三人を、リーンはジト目で凝視し。
言葉を遮られた挙句ガン無視されたガオルは、ごほんと一つ咳払いを溢す。
「あー、だな。 サルース、具体的にはどう……」
「じゃ、兄貴。 準備も完了したんでこれからいっちょやってくるっス。
姐さんはあの教皇をよろしく頼むっス。 流石にこれ以上伏せ札はないと思うんでアレがやられたら本気でこっちを殲滅しに動きかねないっスから」
「おい、サル……」
「んじゃ兄貴、後は頼んだっス」
そう言い捨て、部下の運んできた風呂敷包みを背に担ぎ、三人の部下を従えて。
止める間もなく、サルースは駆け去っていった。
「…あんのクソエテ公、人の話聞きゃしねーとかいい度胸してんな。
帰ってきたら久し振りに全力でシバき倒してどっちが上か……」
「んー、多分それはむりじゃない?」
歯軋りし、地団駄を踏むガオルに放たれたリーンの一言。
普段と変わらない口調は、だが普段のリーンの声音とは思えない程に冷たく。
「…どういう事だ?」
その冷気は、茹だったガオルの脳を覚ますには十分であり。
リーンの否定が己の発した言葉のどれに宛てられたものなのかを一考した瞬間、ガオルの全身の血が引いた。
「言葉どーりだよ? さるさるが帰ってくることはないからおーさまが怒ったりぼこぼこにしたりはむりだよね?」
「……サルースが帰ってこないってのは、どういう意味だ?」
「おーさまだってもう気付いてるんじゃない?
さるさるがあんなふざけた態度をとっておーさまを怒らせてれーせいさを欠かせてみたり。
ふだんは言わない信頼、だなんて言葉をつかっておーさまを丸め込んでくわしいせつめーをせずに逃げるよーにはしっていっちゃったのは。
ぜんぶぜ~んぶ、れーせいなおーさまにせつめーしたら怒られるーって思ってたからだって」
振り向き、見つめ合うリーンの瞳には一切の揺らぎもなく。
その表情も平素と変わらず、ただ淡々と事実だけを並べている。
だがしかし、その内容は受け入れ難く。 されどそれらを否定する術はガオルの手の内にはなく。
「なによりも、さるさるのかついでたあのおっきな荷物。
とってもとっても臭かったよね? 私たちの住んでるところじゃ嗅いだこともないくらい臭くて、でもここにきてから何回も嗅いだあのにおい」
ヤメロ、ヤメロ、ヤメロ……。
それ以上言うな、というガオルの言葉は喉元で引っ掛かり言葉になる事はなく。
弱々しく振ったかぶりを、しかしリーンは一顧だにせず。
「私たちにおそいかかってきた人の何人かがじぶんのからだにまきつけてた、火をつけたらばくはつするとってもこわいもの。
たしか、名前は…───」
ドォ……ン。
リーンの言葉を遮るように突如響き渡る轟音。
次いで、地響きを立てながら、何か巨大なものが大地とぶつかり合うのを、ガオルは知覚した。 …して、しまった。
毛玉「獣人パートは次で終わりの予定です(キリッ」 (ボソッ)
(¦3[▓▓]「も、もうちっとだけ続くんじゃ……(震え声)」




