102:大乱-⑧
「…何か用か、サルース」
「いや、今のその状態でキメ顔かまされても手遅れっスから」
少し離れた場所で血しぶきが吹き荒れる中、目の端に涙を浮かべ、傷が開き盛大に出血する肩口を治療される半裸の獣王、後頭部に抱きつくたわわっぱいな兎人のオプション付。
これが表情を引き締めて王の威厳で応対をしてきた際の猿人族長サルース=モネラの心境を答えよ。(10点)
「おーさまもふもふ~♪」
…俺っち、ガチでキレても許されるんじゃないっスかこの状況?
思わず拳を握り締め、無言で凝視すると流石に察したのかガオルは慌てて後頭部に張り付く少女を引き剥がした。
「ぶーぶー」
一方、引き剥がされた少女は唇を尖らせサルースへとブーイングを飛ばす。
あれ、なんで俺っちが悪者扱いされてるんスか? と、サルースはちょっと泣きたい気持ちになった。
「姐さん、兄貴と仲睦まじいのは構わないんスけど時と場所くらい弁えないとダメっスよ?」
それでもめげずに説得をすればサルースの言い分が尤もであると理解したのかブーイングは止み、渋々とガオルの後頭部から離れこそしたがこちらをジト目で見ている辺り納得はしていないらしい。
これが獣人種最強の種族である兎人の族長であり、同時にアラケル最強の個というのだからサルースが世の不条理を嘆くのも無理のない話であろう。
……尤も、問題のない品行方正な兎人などアラケルには一人として存在しないのであるが。
「で、結局何の用でこっちにきたんだ?」
暫しの後、手当てを終え上衣を羽織り皮鎧を身に纏ったガオルが再度尋ねる。
治療を終えた衛生兵は他の負傷兵の元へ、ゲオも物資在庫の確認の為に席を立ち、今この場にいるのは三名のみ。
阿呆の獣王、狼人ガオル=ガオラン。
アラケル最強、兎人の族長リーン=ニルシュ。
リーンの外付け制御回路、猿人の族長サルース=モネラ。
負傷の為一時後退したガオルの代わりに、本来であれば戦場の士気を保つべき獣人最強の個であるリーン。
それが最前線を離れ後方へとやってきている現状はアラケル陣営にとって好ましいものではない。
かと言ってサルースが意味もなくそんな選択をするような存在でない事はガオルとて承知しているし、態度を見るにリーンの舵取りを違えたようにも思えない。
故にこそ、そう詰問したのだが。
「…あー、と」
そんなガオルの問い掛けに、何故かサルースは気まずさげに目線をそらし後頭部を掻く。
常のサルースの態度とは違う、煮え切らないその姿にガオルは首を傾げる。
「…あー、その、っスね?」
「なんだ?」
若干苛立ちを感じながら問い返すガオルを、サルースは覚悟を決めたのか正面から見据え。
「兄貴、このままじゃ俺っちら全滅っス」
そう、きっぱりと言い放った。
「…そこまでか?」
驚くでもなく、焦るでもなく、ただ淡々と問い尋ねれば、サルースは苦々しげな表情で頷いた。
「まず、こっちの被害は凡そ七割。 狐人、虎人、熊人、獺人、猪人の連中が全滅っス」
「ああ、それはじいさんから聞いた」
「対する向こうさんは壊滅状態っス、尤も……」
そこで言葉を止め、ちらりと戦場へと目をやる。
つられてガオルも目を向ければ、そこにはただ只管に暴れ回る巨大合成獣の姿があった。
「アレを除けば、の話っス」
お手上げっス、とばかりに諸手を挙げ溜息を吐くサルース。
「切ろうが突こうが射ろうがびくともせずにただ暴れ回るだけっスけど、サイズがサイズだけにそれだけでどうしようもない脅威っス。
現存戦力でアレを仕留めるのはちょっと現実的じゃないっスね」
「たぶんつーかくがないんじゃないかな、あの子。 右目を槍でブスッてしてみたけど怯みもしなかったし。
傷口からも血がでてないし、あの様子だとスタミナぎれもしなさそうだから時間が経てばたつほどこっちがふり?」
サルースの言葉にリーンが言葉を被せる。
その言葉に訂正を入れる事無く首を縦に振っている辺り、サルースも同意見らしい。
「で、ある意味アレ以上に問題なのが教皇っスね。
首を切り落とそうが心臓を貫こうがあっという間に再生しやがるっス、おまけに……」
言いながら両の手を顔の前まで持ち上げ、十指をわしゃわしゃと動かす。
「十指全部が伸縮自在の触手モドキ、それも鉄を噛み砕く顎のおまけ付きっス。
口径は十センチ程度なんで喰われても即死にはなり辛いっスけど、それは一本だけならの話っスからねぇ」
そう告げるとこっちもお手上げっス、と諸手を挙げため息をこぼす。
ふむ、と相槌を打ち腕を組みガオルはサルースからの情報を吟味する。
まずあの巨大合成獣。
ガオルの見た限りあれはただ巨大なだけで、一般的な合成獣と大して変わらぬ程度の知性しか持たぬ獣でしかない。
ただ、その唯一の違いが齎す結果はあまりにも大きく、重い。
相手はただ本能のままに暴れ回るだけでこちらの兵は為す術もなく踏み潰される。
対するこちらの攻撃は相手の体が大きすぎて大した効果が見受けられない。
粘った所で血が流れないのであれば失血による衰弱を期待する事はできず、開戦から延々暴れ続けているあの様を見るにスタミナ切れとも無縁であろう。
つまり、火力不足で仕留める事ができない時点で詰みである。
次いで、きょーこーとやら。
死なない、再生する、この時点でもう詰みである。
積極的に戦線に参加こそしないものの近寄れば容赦なく伸びてくるであろう十指は致命の牙。
前者が力押しでどうにもならない以上、操者であろうきょーこーを狙うのが本来ならば正しいのであろうが。
首を切り落とそうが心臓を貫こうが死なず、四肢を切断したところで再生するであろう存在を狙ってどうしろという話である。
おまけに十指を封じることができなければ仮に複数でかかり押し倒し拘束したところで無意味。
結論、打つ手なし。
ここで全滅するか、尻尾を巻いて逃げるか。
今、自分達に取れる選択はそのどちらかしかないという事になる。
だが、しかし………。
「…もし、ここで俺達が撤退したとして。
素直に見逃してくれると思うか?」
「まず間違いなく追撃してくるっスね、下手すればアラケルまで」
「だよなぁ……」
キッパリと言い切ったサルースの言葉に、ガオルはがっくりと項垂れる。
サルースも同じように項垂れ、深い溜息を吐き、周囲は重い空気に支配されていく。
「教皇だけなら付け入る隙がない訳でもないと思うんスけどねぇ、血は流してたから失血狙いとかで。
再生にしたってなんのデメリットもリソース消費も無しに延々できるもんじゃないだろうし、殺し続ければワンチャンありそうっスよねぇ」
「その殺し続ける、がまず大問題ではあるがな。
だがまぁ確かに生物である以上限界はありそうだわな、問題は一度殺す為にこっちが何人殺されるかだが」
「っスよねぇ、はぁ~……」
二人は顔を見合わせ、もう一度盛大に溜息を吐き。
「あのおじさんを殺し続ければいーの?」
唐突に投げかけられたその問い掛けに、眉根を寄せて顔を上げる。
「…できるんスか?」
二人の巡らせた視線の先、人差し指を頬にあて首を傾げながら口を開いたリーンにサルースは問い掛ける。
「よゆーだよ?」
「…あの十指を掻い潜らなきゃならないんスよ?」
「なんで?」
「いや、なんでって……」
「あの指をえいやってして、そのままおりゃーってすればいいんだよね?」
「…えー、っと?」
そこで一度対話を切り、サルースはリーンの言葉を噛み砕いていく。
教皇を殺すのは余裕、十指を掻い潜るのは必要がない…?
指をえいやってして、そのままおりゃー……。
「…もしかして、ですけど。 姐さん、あの十指を切り落としてそのまま教皇を殺したりとかできちゃったりするんスか?」
「よゆーだよ?」
「あの指、猫人や虎人、狐人でも回避も迎撃もできないままあっさり捕食されてたんスけど……」
「ふつーに目で見えたよ?」
「……姐さんがバケモノなのは知ってたつもりっスけど、ほんとにつもりでしかなかったみたいっスね」
がっくりと肩を落とすサルースを不思議そうな目で見ながら首を傾げるリーン。
サルースを擁護をするのであれば、リーンはこれまで合成獣に狙いを定め戦場を駆け、敵勢力の頭数を減らす事に注力していた。
故に巨大合成獣相手にはすれ違い様にひと当てする程度、教皇に至っては放置すれば現状無害と手出しをせずにいた訳で。
それがまさかあの教皇を本人曰く余裕で封殺できるなどと夢にも思わなかったのである。
「だが、仮にあのきょーこーをどうにかできるとしてあっちの巨大合成獣はどうする気なんだ?」
会話が止まったのを見計らいガオルが問いを投げかければ、サルースはよろよろと体勢を正した。
「…あ~、それなら俺っちに考えがあるっス。
それに関して一つ、兄貴に頼みがあるんスけど」
どこか歯切れが悪そうに、こちらの顔色を伺うようなサルースの様子に不穏な気配を感じつつ。
無言で顎をしゃくり続きを促すと、サルースは真っ直ぐにガオルと向き合い。
「暇乞いをしたいんスけど、構わないっスか?」
そう、言った。
毛玉「出番、はよ」
(¦3[▓▓]「ガンバリマス…(震え声)」
毛玉「ってゆーかそもそもプロット見たら大乱は⑤までになってるんだけども?」
(¦3[▓▓]「(∩゜д゜)アーアーキコエナーイ」




