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99:大乱-⑤

※この作品はぽんこつな子兎が主役のゆる~いふぁんたじーすとーりー


            『らびっつ!』…の筈。



 機先を制し、意表を突き。

 敵味方入り乱れての乱戦に持ち込み、巨躯の利を潰し。

 フレンドリーファイアの可能性をちらつかせ翼や尾といった異形の部位やその身に纏った炎などの異能の使用に枷を付け。

 一体に対し必ず複数で囲いその動きを制限し。

 皇国侍女長シェラ=フォーン、剣聖ロー=フォーを筆頭にトリュケシア皇帝カミラ=トリュケシア、ガオルーン皇后ラヴェルナ=ガオルーン、皇太子ヴォイド=ガオルーン、ハゲしく輝く皇国近衛騎士団長ベン=フォルルグル、七三メガネの皇国紋章官ハース=ウィクフェルフェクス、獅子頭の皇国騎士団長ハートレオン=ウルクシス、皇国宮廷魔術師長ルールゥ=ルーロゥといった超越者達が戦場を駆け、不意を打ちそれらを仕留めていく。


 だが、それ程に有利な戦況を築き上げていても。

 十二分に戦略を練り、ミラ法国の禁獣の群れを可能な限り封殺しても尚。

 圧倒的な種族の身体能力の差というあまりにも単純な暴威を以って。

 禁獣は暴れ、ガオルーンの兵士は容易く屠られていく。


 開戦からおよそ二刻。

 ミラ法国の被害、153体。

 対してガオルーン皇国の被害は、既に2,000を超えていた。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 「陰険メガネ、生きてっかっ!?」


 地に伏せた兵が大地を埋め尽くす地獄の中。

 ハースに覆い被さりその頭を食い千切らんと大口を開けた禁獣の首を手にした槍で穿ち貫き、ベンは声を張り上げる。


 「…遅い。 私は貴様のような戦うしか脳の無いケモノではないのだ、さっさと助けろ無能」


 顔色悪く、右肩についた巨大な噛み痕から大量の血を流し。

 平素、一分の隙もなくかっちりとセットされた髪は既にぼさぼさで手にした突剣は砕け、眼鏡も無様に罅割れ。

 そんな状態にあるにも関わらず、いつもと変わらぬ悪態を吐き身を起こすハースをベンは呆れつつもある種尊敬する。

 この状況下においても尚、俺への敵意が折れる事無く礼でなく悪態で返してのけるその根性は一体どこから沸いて出ているのやら、と。

 …第一声が陰険メガネ、で始まる時点で実質自身も同類である事に、残念ながら当の本人は気付いていないが。


 「うっせぇよモヤシ、礼のひとつくらい溢せやこのドチクショウが。

  ……で、ここも壊滅か?」


 「ああ、私が来た時には既に崩壊していた。 その元凶は屠ったのだが直後もう一匹現れてこのザマだ。

  流石に逆に不意を打たれて対処できるほど私は人間を辞めていないものでな」


 横に転がる全長4メートル程の六対の鎌を生やした蟷螂を見ればその眉間にはかつて突剣であった鉄の棒が突き立っている。

 あの鎌の猛攻を凌ぎ4メートルの高さを跳び眉間を貫く。

 戦働きが本業でない政治畑の人間でありながらそれだけの事をやってのけるハースに、ベンは薄ら寒いものを感じずにはいられなかった。


 (もしかしたらコイツ、本気で武官目指してれば俺より遥か格上だったんじゃねーのか…?)


 そんな事を考えながらふらつくハースの体を支えてやり。


 「…触るな、馬鹿が移る」


 直後、盛大に蹴倒した。

 倒れた瞬間に噛まれた右肩を強打したのか声にならない悲鳴をあげながら蹲っているが俺は悪くない、間違いない。

 そう自己弁護しつつ、流石に今の仕打ちはあれすぎたし助け起こすくらいはやってやろうとハースへと向き直ったベンの眼前に、折れた突剣があった。

 考えるよりも先に手が動き辛うじてそれを打ち払い。


 「殺す気かっ!!?」


 倒れた姿勢のまま、荒い息を溢しながらも投擲姿勢のハースを怒鳴りつければ。


 「むしろ死ね」


 これである、コイツの根性オリハルコン製の芯でも入ってるんじゃなかろうなとベンが戦慄するのは至極当然の事であろう。



 「この(さま)では話にならん、私は一度後方に戻り止血と装備の新調をしてくる。

  この近辺の遊撃は貴様に任せた。 数少ない活躍の場だ、万が一にもぬかるなよ」


 「…いや、流石に後方で休んどけよ。 どう見ても致命傷の一歩手前だろソレ」


 呆れた顔でそう言うと、ハースははぁ、とわざとらしく大きな溜息を吐き、割れた眼鏡をクイ、と中指で持ち上げ。


 「貴様は阿呆か、この一戦で皇国の存亡が決まるのだぞ?

  たかが致命傷程度で私が戦線を離脱して、その穴はどう埋めるつもりなのだ?

  兵士達だけでは戦にすらならん、私達が狩って回らねば無駄に屍が増産されるだけなのだぞ?」


 そこで言葉を切り、もう一度溜息を吐き出し。

 ちらり、とハースが視線を移した先には混戦状態の地獄の更に後方。

 そして、そこに佇み高みの見物を決め込むミラ=フォールンとそれに付き従う200の純白の全身鎧に身を包んだ集団。

 それらを視界に捉え、目を閉じ、軽く(かぶり)を振り、再度ベンへと視線を戻す。


 「何よりも、あちらはまだ本命を温存している。

  相手の王を討つ為にもシェラと剣聖殿は疲労を抑え十分な余力を残して貰わねばならない。


  ……もう一度聞くぞ、ガオルーン皇国近衛騎士団長ベン=フォルルグル。

  この状況で私が戦線を(・・・・・・・・・・)離脱したとして(・・・・・・・)その穴をどう埋める(・・・・・・・・・)つもりなのだ(・・・・・・)?」


 血の流しすぎで青白くなった、脂汗だらけの顔で。

 荒い息を吐きながらそう問い掛けてくるハースに返す言葉を、ベンは何一つ持ち合わせてはいなかった。


 「理解したのならさっさと動け、鈍間。

  今こうしている間にも兵への被害は拡大しているんだ」


 それだけ言うと話は終わりだとばかりに己に背を向け皇都へと向かうハースの背中が、ベンにはとても小さく頼りないものに見え。


 「…死ぬなよ」


 そう呟くように声をかければ。


 「…貴様もな」


 そう、返ってきた。

 ふらつく足取りで歩き去るハースの背を、しばし見送り。

 手にした槍を強く握り、大きく一つ深呼吸をし。

 ベンもまた背を向け、地獄目掛けて歩を進める。

 できればもう一度、あの悪態を耳にしたいなどと考えながら。




 開戦からおよそ四刻。

 ミラ法国の被害、313体。

 ガオルーン皇国の被害、4,000超。


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