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97:大乱-③



※この作品はぽんこつな子兎が主役のゆる~いふぁんたじーすとーりー

              『らびっつ!』です。



 ガオルーン皇国・皇都近郊。

 伐採、整地され往来の便と見通しを向上されたその平原にて、ガオルーンとミラの軍勢は相対していた。

 緊張した面持ちで息を呑み、対面の敵を見やる多勢(ガオルーン)

 その様子をにやにやと嗤いながら嘲りの目を向ける、弛緩した空気を纏った少勢(ミラ)

 あまりにも異常で異質なその光景は、しかし正しく両者の力関係を示していた。


 「折角の皇都の利を捨てて打って出てくるだなんて、ガオルーン皇は破滅願望でも持っているのかしら?」


 人差し指を頬に当て、軽く首を傾げ問うミラ。 その顔は純粋にただ疑問を口にしているだけのように見えるが、薄く吊り上がった口角とその瞳が彼女の本性を如実に物語っている。


 「思い通りにならなかったのがそんなに不満か?」


 対するウシュムは顔色一つ変えず、平坦な声を発する。

 感情を露にせず、相手の言葉に反応を示す事無くただ淡々と応対する。 この女にとってはそれこそが一番効果的であると理解しているが故に。


 「もしこっちが篭城しようもんなら嬉々として城門を物ともしないご自慢の禁獣どもを送り込んでくるつもりだったんだろ?

  街中で数の利も生かせず蹂躙される様を眺めるのはさぞかし愉快だろうよ、貴様のような性根の腐った女にはな」


 真顔でそう言い切り最後にふん、と鼻を鳴らしてみせればミラの顔にはあからさまに不機嫌な色が浮かび上がる。

 今にも舌打ちせんがばかりのその表情に多少の溜飲が下がり、ウシュムは久し振りに喜色の笑みを零した。

 が、そんなウシュムの笑みを見たミラの口端が密かに吊り上がった事に気付く者はいなかった。



 「…残念だ、と言うとでも思ったかしら?」


 「…なに?」


 先程見せた感情はなんだったのか、クスクスと嗤うミラの顔に負の色はなく。

 そのどろりと濁った瞳に喜悦を浮かべ、愛おしげにウシュムを見つめるその姿はあまりにも不気味で。

 ウシュムはこの時、いい知れぬ不安と共に理由の分からない己が失態を予感した。


 「私は信じていたわ。 ガオルーン皇、貴方なら必ずその考えに至り実行に移すだろうと。

  よく覚えておきなさい? 己を賢しいと思い込んでいる者ほどその思考は単純で読み易いものなのよ、今の貴方のように」


 「なに、を……」


 なんだ? 自分は一体何を間違った…?

 つい先程までしっかと存在していた筈の地面がまるで泥沼にでも変わったかのように感じる。

 目の前に在る人の形をした悪意は、一体何を考え実行した?

 俺が篭城を選ばず総力戦を選択し、打って出る。

 その行動を読み切って、その上であれ(・・)が実行しそうなこと、は………。


 「…まさ、か。 まさか、貴様…─── 」


 全身が震える、汗が噴き出す。

 呻くように、振り絞るように辛うじて発する事ができたその言の葉の意味を、しかし眼前の悪意には確かに伝わったようで。

 ニィ、と口角を吊り上げるその姿に己が思考が間違いでないという事実を否が応にも思い知らされ。

 何か言おう、とからからに渇いた口を無理矢理開けたところで。


 「ああ、そうだ」


 不意にぱん、と両手を打ち合わせミラによって発されるべき言の葉は霧散し。

 しかしてそんなウシュムの事などまるで眼中にないかのようにミラは視線を巡らせ、やがてその目が留まった先には女帝カミラ=トリュケシアの姿。


 「トリュケシア皇。 貴女には一言、どうしてもお礼が言いたかったの」


 先程までとは異なる、純粋な笑みを浮かべ。

 にこにこと笑うその姿に、カミラは怖気と警戒を感じた。


 「礼、だと?」


 「ええ、お礼。 本当にありがとう………」


 そこで一旦言葉を切り、俯き。


 「貴女の連れて来た八千の兵、とても役に立ったわ」


 そう言いながら持ち上げられたその顔は、悪意に染まりニヤリと嗤っていた。


 「…余の部下を、どうした?」


 「殺したわ。 半数ほどはあの子達のご飯になったけれど、残りは捨て置いたから今頃は獣のお腹の中かしら?」


 そんなミラの言葉と共に、背後に控える全身を白いローブに覆い隠した者達の中から数名が歩み出て、その手中にあるものをカミラへと見せつける。

 それは、赤黒く血に染まったトリュケシアの紋章の描かれた軍旗。

 それは、無残に千切れ、抉られ、切り裂かれたトリュケシア軍正規採用の鎧。

 それは、苦悶の表情を浮かべた騎士団長の生首。

 それは、数多の眼球を数珠状に繋ぎ合わせた長大な紐飾り。


 見るもおぞましいそれらは、彼の軍勢が辿った末路を悟るには十分であり。

 同時にそれは、最早援軍など望むべくも無く現有戦力のみで抗わざるを得ない事を一同に知らしめた。


 「…そうか、あやつらは皆死んだか」


 それらを前に、取り乱す事も憤怒する事も無く。

 カミラはただ、そう呟いた。


 「あら、思ったより冷静ね。

  混じり物のバケモノは人間の部下なんてどうでもいいのかしら?」


 あてが外れたのか残念そうにそう問い掛けるミラにふ、と笑い掛け。


 「死んだのはあやつらが弱かったからであろう。

  兵とは死ぬことも仕事の内、戦時にまともな感性など邪魔なだけだ」


 そう言い切り、カミラはその背に負った剣を引き抜く。


 「が、余の部下を喰らったとなれば話は別だ。

  ただ喰いなどは許さぬ、対価は支払ってもらうとしよう」


 「…ちなみにお値段は?」


 「貴様と、貴様の部下どもの命。

  我も強欲ではない、それだけで勘弁してやろう」


 悪戯めいた笑みで問い掛けるミラに対し、引き抜いたその剣を突きつけながらカミラは吠える。

 その声音に多分に含まれた殺意に、ミラは頬を緩ませる。


 「それを言うのなら、私の部下は32人も殺された訳だけれど。

  その分の割引くらいはして貰っても罰は当たらないんじゃないかしら?」


 「寝言は寝てほざけ」


 からかうように発した言葉は、容赦なく斬って捨てられ。

 だが、それにさえ気を良くしたのかミラの頬は更に緩み。


 「私の可愛いお人形、総勢2,300。

  トリュケシア軍との交戦で32を失い、2,268。

  そしてガオルーン皇が篭城を捨てた事で城内に残された、あるいは皇都から逃げ延びた流民と皇女サマへの対処の為に100を割き2,168。

  そこに足す事のいち」


 そこで自分を指差し、クスクスと嗤い。


 「それを殺し切れるものならやってみなさい、トリュケシア皇」


 そう啖呵を切った(のち)、ミラの視線は再度ウシュムを射抜き。


 「ガオルーン皇、貴方の予想通りがら空きの皇都と皇城、そして裏門から抜け出た者達には既に手を打った訳だけれど。

  100の禁獣の対処にどれだけの兵力を割くのかしら? それら兵力が私達を振り切って皇都の門を(くぐ)るまでにどれだけの数が減るのかしら?

  そして何よりも、貴方の大事なものにこちらの手が及ぶ前に間に合えるのかしら?」


 そこで言葉を止め、ふたたび三日月のような笑みを浮かべ。


 「貴方なら分かるわよね? 援軍のないこの状況下で、全軍が皇都を離れここにいる現状で。

  守る為に兵を割く事がどんな結果を招くのか。 私達が健在の状況で守る事の無意味さが。

  貴方は何も守れない。 ただ守ろうとしたものが背後で失われるのを指を咥えて眺めるだけ。

  篭城を選択していれば、あるいは守れたのかもしれないのにね? ……尤も、貴方が死ぬまでの短い間は、だけれど」


 ミラの狂声が響く戦場、ニヤニヤと嗤うミラ法国の兵士達。

 焦燥と絶望を浮かべるガオルーン皇国の兵士、口の端が裂け血が滴る程に歯を食い縛るウシュム。

 そして一人、ただ無表情のまま静かに剣を構えるカミラ。


 「さぁ、存分に抗って頂戴?」


 その声を皮切りに、両軍は弾かれたように動き、ぶつかり合い。

 ここに、大乱の幕は切って落とされた。


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