94:我、光の尊さを知る
大切なものは、失って初めて気付くものである。
そんな言葉が二足歩行で脳内にて激しいタップダンスを繰り広げる我は現在鳥籠モドキの中。 周囲は真っ暗で光のひの字もありゃしないのでな~んにも見えませぬ。
ただまぁここに我入り鳥籠モドキが収納されるまでの間に見た限りだと大人が屈んで入れるくらいのスペースだった気がするです。
そんな中に鳥籠モドキごと収納されて上蓋を閉じられ真っ暗な中ぽつねんと立ち尽くす我の現在地はシェラさんルームのクローゼットの底板を外した場所にある隠しスペースっぽいところでありまする。
寝ていた所をいきなり摘ままれて鳥籠モドキの中に収容されて、「後で必ず出してあげるから静かにしておきなさい」 とシェラさんから命令されてここに閉じ込められたのが数分前。
その後ルカに状況を聞いてみたところどうやら神属さんが攻め込んできたらしい?
ああ、それで我を避難させてくれたのね~…ってちょっと待った、神属さんが来るのって二日後って言ってなかった?
それから一晩経ったけどそれでも一日の余裕はあるんじゃなかとですか?
(二日後、というのは飽くまでもウシュム=ガオルーンの予想にすぎず、実際は想定以上だっただけの事でしょう。
若しくは単純に神属ミラ=フォールンが進軍速度を速めたかですね)
…誰、うしゅむがおるんって?
(マスター呼称:筋肉さんです)
へ~、筋肉さんそんなご立派な名前だったんだ、脳筋の癖に。
などといらない所でちょっとだけ感心したけどあっさり予想を外す辺り所詮は脳みそ筋肉か。
そして神属さんや、そんな張り切らなくて良かったのよ?
想定通り二日後にしてくれてたら我、予定通り今日一日かけていろんな物資をポッケないないできてたのよ?
それを邪魔してくれやがってこの野郎、さっさとシェラさんにこてんぱんにのされてしまいやがられなさいまし。
(仮に一日の猶予があったとして、マスターが物資回収に成功していたか否かは分かりませんけれどね)
言わんといてください、今までもあれこれ横槍入ったり隙を伺い過ぎた結果機会をふいにしちゃってるからその言葉は我に効くのですよ。
でもでも敵が攻め込んでくるー、とかなったらあっちこっち大わらわできっと我を気にする余裕はないだろうから成功した……筈だもん。
(人の夢と書いて『儚い』となります、願望を抱く前に現実と向き合いましょう?)
そもそもマスターは人ではありませんが、と一言余計な追撃付きでルカの容赦ない言葉の刃が我を抉る。
やめてください、泣いてるラビだっているんですよっ。
(その涙、先程大きな欠伸をした時に出たものですよね?)
…ナンノコトヤラ?
と、いつも通りのやりとりを繰り広げている間にやっとお目々が覚めてきました。
とりあえず喉を潤して、それからこれからの事を考えよ~…ってお水の入ったお皿どこ?
真っ暗闇の中、四つん這いであっちこっちと手探りすること二分少々。
どうやら現在この鳥籠モドキの中には我しか存在しないっぽい、寝床用の布すらございませんね。
…うん、端的に言ってピンチです。
我とて生物の端くれ、水分補給なしじゃ干乾びちゃうとです。
加えて現在地は密閉空間、ぶっちゃけ蒸します、めっさ熱が篭もってます。
で、今の我は起き抜けで喉からからのお腹えんぷてぃ状態。
結論、今日も今日とて我は元気に詰んでますっ♪
とか言ってる場合じゃねーですだよ、どーすんのさこの現状。
へるぷ、るかへるーぷっ。
(…空間魔法の収納の存在、忘れていませんか?)
この真っ暗な中でどーやって収納バインダーさんとご対面せいと?
(文句も苦情も後で聞きます、だからさっさとやれ)
いえすまむっ。
舌打ちでも聞こえてきそうなレベルの不機嫌さを宿したルカの言葉に怯え慌てて収納バインダーさんかも~ん、と呼び出してみた訳だけども。
…なんか、ふつーに見えるね?
周囲真っ暗やみ~の一寸先も見えない有様なのに。
あれか、魔法的なご都合設定があれやこれやでソイヤッソイヤッ、された結果ですか。
…なんか誰かさんのため息が聞こえた気がしたので大人しく目的を果たしませう。
収納バインダーさんのタブをぺちって食べ物のページを開き、そこではたと気付く。
そーいや我、水の収納とかしてない……。
前回ルカにカツアゲされたワイン以外のワインが何本か入ってるけど、この体でお酒飲むのは危険があぶない予感しかしないし。
はてさて、どうしたものかと脳みそ捏ね繰り回しながら収納バインダーさんと睨めっこしているとふと目に入る一枚のカード。
見るからにトマトっぽい赤くて丸い物体の描かれたそのカードをじっと見つめ考える。
これ、我の知ってるトマトと同じ代物なら喉とお腹をダブルで満たしてくれたりする?
とはいえ油断は禁物、キャロットンガラの脅威を我はまだ忘れておりませぬ。
仮称:トマトをタップしそのまま前足を当て続けるとやがて浮かび上がってくる謎ボードさん、いつもご苦労さまです。
え~となになに……。
{トメィトゥ:
甘味と酸味溢れる果汁を多量に含んだ野菜。
薄皮一枚を隔てて中には果汁と一粒の種が入っている}
………ん?
なんかおかしくない、この説明文?
薄皮一枚隔てて仲には果汁と一粒の種? 実はどこにいったし?
まぁ毒ではないっぽいしとりあえずクリックしてカードから実体化させると、目の前に何かが現れた気配。
両前足を伸ばしてみると滑らかな皮の手触りが我の前足にやってきた、のだけども。
なんかこう、ぶにょんぶにょんと水風船でも触ってるみたいな手触りでござーます。
え、まさかこれほんとに説明文の通り中は果汁だけで実はないの?
つんつん、たぷんたぷん。
うん、どー考えても実の詰まってる手応えじゃないね。
さて困った、どうやって食べればいいのこれ?
受け皿とかあるならいいけど、このまま齧り付いたら破裂して一面汁びたしになっちゃうのは目に見えている。
…端っこ、なるべく上部に噛み付いて吸う?
いやいや、実物のトマトとそう変わらないサイズだから成人の掌に収まる大きさの我とそんなに変わらない訳で、そんなものを啜り続けても先に息が切れるのは間違いなし。
ってゆーか自分とそう変わらない体積分の水分を飲み干すとかふつーに無理。
折角出て来てもらって申し訳ないけれど、君はボッシュートです。
その後も出しては引っ込めを続ける事暫く、ようやくお眼鏡に叶ったライチっぽい果物のお陰でようやく喉とお腹が満たされた。
なんか食べると口の中で溶けて果汁に変化する不思議な実だったけど、おいしかったからよし。
ほふぅ、とひと心地つくと栄養の回った脳がようやく活動を開始する。
神属さんに攻め込まれたこの状況、ピンチだけど我にとっては同時にチャンスでもある。
対神属さんで城内の人員が出払ってる訳だから、それって要するに物資げっとのチャンスだよね。 …そこ、火事場泥棒言うなし。
そうと決まれば早速ここを出て~……。
出て~………。
出………。
…将来的に、一度行った事のある場所やマーカー的なものを付けた場所へ転移できるようになる可能性もあるかもしれない。
けれど、現状の我は視界内の転移しかできない訳で。
一面真っ暗闇、一寸先すら見えないこの状況で。
…………どうやって視界を確保するの?




