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10:我、神話語りに耳を傾ける-②

 「えー、っと…。 あ、そうそう、ボク達が変わった切っ掛けだけど」


 あ、そういえばそんな話でしたっけ。

 我が質問したから一旦話が反れたんでしたね、うん。

 ……うん、忘れてませんでしたですじょ?


 「…まぁ、ボクもすぐに思い出せなかったしいいんだけどさ」


 じゃあそのジト目やめてくだしぃ。

 我、そんな目で見られてもご褒美ですとか思わないから。


 「さっき少し話した様になんとなく異物感を感じてはいたんだけど、ボク…っていうかボク達はまぁいいかで思考を終わらせてたんだ。 けど、一人だけ例外がいた」


 画用紙(じぶん)の中に異物感があったのにスルーとか鈍すぎやしませんかね?


 「ぶっちゃけ、あの頃のボク達ってアメーバとかあの辺の生物と大差ないレベルだったしねぇ」


 あめーば……ああ、我の主食のゼリー生命体。


 「アレはスライム、あんなのでも精霊種だからキミなんかよりよっぽど上等な生物なんだよ?」


 ラビ、立場弱っ。

 まさかのスライム以下!?

 っていうかスライムが精霊とか吃驚だよ。


 「精霊 "種" ね。 力を失ったり自然の加護を失くした成れの果てであって精霊そのものじゃないから同類扱いしたら本気で怒るよ、精霊が」


 ちなみに精霊さんって強いん?


 「基本、物質は完全に無効化。 魔術処理された武具なら一応ダメージは通るけど基礎が物質である以上ダメージは良くて本来の半分くらい。 魔術による攻撃は精霊の対魔耐性を貫けないと6~8割減?」


 なにそれひどい。


 「火力面では加護を通じて大気中のマナを取り入れる事で自属性の魔術を無限に行使できるね」


 チートやん。


 「風や水、炎なんかの自然現象がカタチを持ったものだしこんなものじゃない?」


 我、絶対精霊さんとは敵対しないし怒らせませぬ。


 「うん、それがいいと思うよ。 で、話を戻すけどその例外っていうのが規格外でね。 なんと自分からボク達一人ひとりにコンタクトを取ってきたんだ」


 それって凄いん?


 「凄いっていうより本来ありえない? だって当時のボク達はただそこに在る、ですべて完結してたんだよ?」


 ???


 「自分、の定義すら曖昧な中で他人っていう概念を生み出したんだよ、その子は」


 えーっと?


 「…受精卵が自意識を持った上で母親を認識して話しかけてくるようなもの?」


 ぱーどぅん?


 「実際はもっと違うし乱暴極まりない例えだと思うけどそんな感じに思ってくれればいいよ」


 とりあえずありえないっていうのは理解できましたです、はい。


 「それでいいよ。 で、その子はボク達と次々にコンタクトをとっていくことで異物感=ボク達、ボク達=ご同類っていう認識を生み出した」


 ほうほう。


 「で、その子はそこから更に踏み込んで自分達は一体なんなのか、っていう思考に至ったんだ」


 哲学的すぎやしませんかね、その受精卵(仮)さん。


 「そこまで深く踏み込んでの思考じゃないよ。 ただまぁその後が問題なんだけど」


 その後?


 「ボク達と話し合ってもそもそもボク達はその子と違って自己すら曖昧だから話し合いにならない。 かといって自分で考えようにも基準もなければ物差しもない訳で」


 あー、我とかが当たり前に知ってる知識とか情報も皆無な状態なのね。


 「で、そんな中でその子は思いつきました。 『分からないなら試してみよう』 って」


 ほむ?


 「そこで登場するのがコレ」


 そう言って美人さんが指差したのは先程出てきたガラスか何かで出来た正方形の物体。

 よく見ると内側がなんだかキラキラ瞬いている。

 つついてみると明滅して面白い、つんつん。

 で、ナニコレ?


 「"箱庭"、世界の元だよ」


 わーお、我世界をつついちゃった。


 「コレを生み出した彼女はこの中に生命を生み出した。 と、言ってもボク達みたいな意識だけの存在じゃなくてちゃんとカタチを持たせてね」


 ゼロから作るポピュ○ス?


 「流石にその子でも知らないものは作りようがないって。 だから最初の箱庭は何もない真っ白な空間に丸めた粘土みたいなのが蠢くだけの代物だった」


 それを延々眺め続けるとかどんな苦行?


 「キミにとってはそうかもしれないけどボク達にとっては新鮮な光景だったしまるで退屈はしなかったよ、最初の内は」


 あ、やっぱり飽きたんだ?


 「うん、つまらないって言い出す子が出てきた」


 あれ、でもそれってつまり逆に言えば退屈っていう感情を持ったっていう事?


 「はい正解。 そこですかさず例外の子が一言、 『じゃあどうしたらいいと思う?』 」


 ……その例外受精卵(仮)さん、ものっすごい怖いんですけども。


 「同感」


 例外受精卵(仮)さん、ほんとに美人さんとご同類なの?


 「そこは多分間違いないと思いたいんだけどね、もし違ったとしたらじゃあ一体なんなんだっていう話になっちゃうし」


 そう言って苦笑しつつ頬を掻く美人さんは誤魔化すように一つ咳払いをして空気を切り替えていく。


 「何か意見を言った子達にどうしてそう思ったか、どうしたらいいと思うかを問う。 その返事を受けて箱庭を作り変えていく、そこからはその繰り返し。 何もないのがつまらないと言われたら地面を作ってみたり、地面を転がってるだけでつまらないと言われたら段差や坂を作ったり、地面だけじゃなくて水溜まりを作ってみたりね。 粘土生命体の方もそんな環境の変化に適応して自分の形をどんどん作り変えていってさ、ボク達は夢中になって意見を出し合いながら箱庭を見守り続けたんだ」


 何それ聞いてるだけですごくわくわくするんですけど。

 ねぇ美人さん、その手に持ってる箱庭我にくれたりしない?


 「その内に生命体が一つじゃつまらないっていう意見が出て、いつの間にかその子以外もいじり始めて箱庭はどんどん変化していった。 粘土生命体も空を飛ぶ個体や水を泳ぐ個体、挙句一対の手足を生やしたものまで生まれてきたし」


 それって。


 「うん、所謂ヒト型」


 ヒトの系譜、最初期は神様が創った粘土生命体でした。

 …こんなの学会で発表したら追放待ったなしですわ。


 「そのヒト型はそれまでの粘土生命体と違って奇怪な行動が多かったんだけど、今にして思えば多分粘土生命体の突然変異種だったんだろうねアレ」


 ヒトの原種っぽい生物、突然変異扱いである。


 「次に何をするか分からないそのヒト型はみんなの間で大好評。 ボク達の原型に採用されたり後の箱庭作りの中でも優遇される事になったりしたんだけどまぁこれは閑話だね」


 神に似せて人が作られた、でなく神が人の形を真似しちゃいましたという衝撃の事実。

 …こんなの学会で発表したら以下略。


 「そのヒト型は他の粘土生命体と比べたら力も弱いし早く動けないし安定性もない、とないない尽くしだったんだけど、変わりに知恵があった。 石や木の枝なんかで武装したり穴を掘ったり、群れを作ったりね」


 どう考えてもヒトそのもの?


 「多少の差異こそあれ、ヒト型は同じ流れで進化していったし多分種の本能みたいなものなんじゃない?」


 そんなものですか。


 「そんなものだよ。 実際後追いの箱庭でも放っておいても言語を作り出したし」


 美人さん達が教えたとかじゃなくて開発したとか、ヒト原種賢いのね。


 「ちょっと勘違いしてるみたいだけど、そもそも言語を生み出したのってヒト型だからね? ボク達は便利だからそれを取り入れた側」


 ヒト原種さんも大概チートだったっぽい。

 けど言語の概念なかったならそれまでどうやって会話してたん?


 「イメージを思い浮かべてそれを相手にぶつけてた?」


 わーお力技。


 「だから言語の創造は凄くありがたかったよ。 意思の伝達もスムーズになったし、何より名称を与える事で事象を概念化できるようになったからね」


 ふ~む、話を聞いてると神様って言っても別に万能とかそういう代物じゃないのね。


 「神様っていう概念自体ヒト型がボク達に対して作り出したものだからね。 単純に他の生物よりも力がある存在、程度の認識でいいと思うよ?」


 ヒト型、美人さん達を意識してたんだ?


 「初めて作った箱庭だったからシステム構築以前だったしヒト型に限らず粘土生命体は全員ボク達を認識してたし要望を挙げてきたりしてたよ」


 ポピュ○スっていうより巨人○ドシン?


 「まぁ、その所為で最初の箱庭は長続きしなかったんだけどね」


 ほむ?

 ご同類さん達がやらかし過ぎて生態系がご臨終でもした?


 「ううん、単純にボク達が力を行使し過ぎた所為で箱庭の中の魔力が枯渇しちゃったんだ」


 美人さん達が力を使ったら箱庭の中の魔力が枯渇?

 自前で消費してるんじゃなくて周囲から魔力を吸い上げて力を行使してるん?


 「消費するのは自前の魔力なんだけど、それに伴う変化に環境を適応させる為に箱庭自身が魔力を行使しちゃったんだ。 箱庭に追加の魔力を注ぎ込んでみたりもしたんだけど大気中の魔力濃度の変化も環境適応の範囲らしくて注ぎ込んだ分以上に消耗しちゃったし」


 酷い悪循環である。


 「うん、だからボク達もあれこれと話し合ってその結果システムを構築したんだ」


 会話の端々に出てくるけど、結局そのシステムってなんなの?

 なんとなく分かるような気がしなくもないけども。


 「箱庭の管理用プログラム、かな? 直接ボク達が手を加えると変化が大きすぎるから箱庭自身にこうするとこうなるよー、っていうプログラムを埋め込んだんだ。 変化も一瞬でじゃなくて時間をかけてゆっくり浸透させていくようにして箱庭の消耗も控えめに抑えるようにしたりね」


 箱庭を作る時に大量に魔力を篭めたら駄目なん?


 「…それも試してはみたんだけど大気中の魔力濃度が濃すぎてね、粘土生命体を投入した途端魔力に耐え切れないで変質するか破裂しちゃった」


 粘土生命体を強く作り変えるとかは?


 「強度が高過ぎたのか今度は身体を作り変えられなくなっちゃった?」


 お手上げ、と両手を上げる美人さん。


 「でもまぁ、結果的にシステム構築は大正解だったんだけどね。 確かにボク達は本格的に見ているだけになっちゃったけどその分システムに任せれば敷居が下がって誰でも手軽に作れるようになったから箱庭はもの凄い勢いで増産されていったし、それぞれの好きにカスタマイズできるから十人十色の世界に仕上がって、互いに自分の箱庭を見せ合ったりする中で新しい発見や思わぬ発想が生まれたりしたし」


 ほむ、そのシステムさんのサポートがあれば我でも箱庭運営できるんでない?

 ねぇ美人さん、試してみたいからちょ~っとその箱庭貸してくれない?


 「最初は自分で箱庭をいじれない事に文句を言っていた子もいたけど長続きはしなかったね、思うように進まない箱庭の成長に一喜一憂している内に不満そのものがどこかに吹き飛んだみたいで」


 それは当然だと思う。

 最初からなんでもありで文字通り自由にできるより多少不便で思うようにうまくいかないのを試行錯誤するのが楽しいのである。

 全部が全部思い通りで、先がどうなるかが分かってるなんてつまらないし飽きるよ?


 「箱庭の管理、システムへの介入も内部に作った管理用ユニットに任せて、それを眺めながら使えそうなものをどんどんシステムやボク達自身に取り入れる。 そんな日々を謳歌してたんだけど、ちょっと予想外の事が起こっちゃってね」


 今度は何さ。


 「箱庭内の住人の中に、管理用ユニットを殺してシステム介入権限を奪い取る存在が生まれちゃった?」


 それ、ちょっとどころか大問題だよね?

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