第十章「刀と魔法と」7
「それじゃ第2ラウンドといこうかっ!」
俺は抜刀の構えを捨て、抜き身の刀をジークに向けると一足で距離を詰める。
力対力のぶつかり合い。
先程までは完全に劣勢であったはずのそれは、魔族としての力が急激に加わった事もあってか一転した。
「ぐぬっ……」
力負けしたジークは呻き声を上げながら後退し、間合いから外れる。
一瞬深追いをするか考えたが、自分の力を理解出来ていない以上は無理はしないのが得策だろう。
「まるで別人のような力……。これにあの嫌らしいまでの小技が噛み合うとなると厄介どころの話ではありませんね……」
ジークは衝撃によって痺れたのであろう右腕を振りながら嘆きにも似た声を漏らした。
それは仲間の力に頼るしかなかった昔の俺からすれば大きな成長である。
戦うために幼い頃身体に叩き込まれた抜刀術を使うようになり、それだけでは周囲との差を埋めきれなくて正成からトリッキーな戦い方を教えてもらった。
それだけではどうにもならない事もあったから魔石を用いた事もある。
しかしそんな苦労が嘘だったかのように、ここ数日でエリシュナクから魔力を譲り受けて魔法を使えるようになったし、エリザベートの力が覚醒したことで人智を越えた力も手に入れた。
が、それに胡座を掻いていて良いわけでない事も理解している。
今の力をもってしてもリアには遠く及ばないと思うし、これから先本当にこの世界を統一するのであれば、それ以上に強い相手が現れることだってあるだろう。
だからこそ俺は甘えを捨てなければならない。
今は付け焼き刃でしかないとしても、この力を自分自身の武器に昇華させる。
この戦いはそのための第一歩なのだろう。
故に俺はそれを言葉にする。
魔王として確固たる決意を表すために。
「俺はジークを高く評価している。だからお前が降参をするまでありとあらゆる方法で叩きのめすつもりだ」
「はい。殺されないよう私も精進します────」
再び刀と剣が交錯する。
力の差を埋めるために放たれるジークの乱れ突きの如き連撃を3本の刀で順にいなしていき、呼吸のために一瞬攻撃が止まった瞬間に攻撃魔法を打ち込む。
威力こそは低いが、動きを止める事には成功した。
ならばとその隙をついて抜刀し、ジークの身体ではなく剣の根元を狙う。
「何っ⁉」
その攻撃で狙い通りジークの得物をなくすことができた。
彼の手元を離れた剣は数秒宙に舞った後、鈍い金属音を立てて地面に落ちる。
だが、そんな事態に対してもジークは至って冷静だった。
武器がないならと割り切り、左手一本で魔法を放つ。
勝負あったと思ってしまっていたがために油断していた俺はその攻撃をもろに喰らってしまった。
「次はこちらが攻める番です!」
月詠のローブでダメージ自体は軽減されているものの、やはり無警戒状態では分が悪くなる。
それを好機と見たのか、ジークは丸腰のままでこちらに向かってきた。
「ワーティ!」
いくら死なないと言っても痛いものは痛い。
ワーティでフィールド中央へ緊急回避をし、すぐさま魔法での追撃を避けるためバリークシードを展開する。
俺が咄嗟にこう動くと読まれていたのには冷や汗をかいたが、どうにか九死に一生を得ることが出来た。
「やはり一筋縄ではいきませんね」
「簡単にやられてしまっては面子がたたないからな」
そんな軽口を叩いてはいるが、予想以上の負荷を前に心臓は早鐘を鳴らしていた。
鍛練が足りてないな……。
そう自分を戒めるように小さく呟く。
そしてもう一度刀を鞘に納めた。
「さあ、まだまだやろうか!」
啖呵を切って勢いよく飛び出す。
先程の攻防で力押しでも充分に戦えることが分かった。
それならば俺が取るべき手段は1つだ。
「抜刀っ!」
自分の間合いで放つ右腕での一閃。
人智を越えたスピードで動いているはずなのに、受けに回ったジークの動きがスローモーションの様にハッキリと見える。
剣先を受け流し、その勢いのままこちらを穿とうとする動きを察して、それを避けるように身体の重心を少し傾ける。
その刹那、金属音が鳴り響く。
俺が次の展開に備えて右手を開くと、予想通りにジークの突きが宙を切った。
「まだです!」
「バリークシード!」
そして第二波。
近距離での攻撃魔法と防御魔法のぶつかり合い。
刀を捨てた右腕で展開したバリークシードが、身体を捻りながら左手で放ったジークの魔法を食い止める。
そこでジークが声を漏らした。
「参りました……」
彼の視線が俺の左腕から自分の首元に動く。
そこにあるのは2本のクナイ。
右手のみで攻防をこなしていた意味にジークが気付いた時には既に手遅れだった。
「悪いな、こんな決着で」
「いえ、私の完敗です」
「完敗……か。俺からしたら薄氷の勝利でしかないけどな。事実として1度は負けているし」
「最後に勝った者が勝者です。そして私は本物の魔王様に剣を向けた……いかようの処罰も覚悟しております」
剣を鞘に納めて片膝をついたジークを見下ろす。
ここから俺が下せる選択肢は2つに1つだ。
ジークの反乱を許し、配下に加えるか。
または彼をこの場で処刑するか。
どちらを選んだとしても相応のリスクを負う難しい選択だった。
一瞬の静寂に観衆の緊張が高まるのが分かる。
答えを先伸ばしにする選択を取りたい衝動に駆られながらも、俺はその答えを口にした。
「不問にする。これからは俺の部下として命の限りを尽くせ」
「はい。慎んでお受けいたします」
これで当面の問題は解決だな……。
後はもう1度あいつと会えるかどうかだけだ。




