第十章「刀と魔法と」5
「まあ、そうだろうな」
「意外と冷静に受け入れるんだね」
「そりゃ、いつもみたいに甦れなかった時点で色々と察しているからな」
「死ぬのが怖くないのかい?」
「それは人間として……ってことか?」
俺の言葉に彼女は大きく目を見開いた。
そして抑えられなかったのか、その口からは笑い声がこぼれる。
「やっぱり相当頭がキレるようだね。君の考えている通り“化物”としてで良ければ生き返ることができるよ」
「あの言い方だとそうとしか捉えられないからな。良い話ってのはそういうことなんだろ?」
「ああ。君の中には私の血が流れている。そしてそれを解放するための準備も整っているよ。かつて最強と呼ばれた私──不老不死の魔族としての血がね」
不老不死。
そう言われてもピンと来ない部分があった。
フィクションの世界では吸血鬼みたいに不老不死と言われる存在がいることはわかっている。
その延長線上で、このフィクションの様な世界で不老不死の魔族がいたところで何もおかしいことはない。
しかし、問題はそこではなかった。
「1つ聞きたいんだが、どうして不老不死なのにお前は死んでいるんだ?」
「死んではいないよ。私は常に生と死の狭間にいるだけなんだ。簡単に言えば今現在は君の身体の中で私の精神が生き続けているって感じだね」
「つまりは俺の身体を乗っとることもできるというわけか」
「そうなるね。まあ、今のところそのつもりは毛頭もないけど」
その言葉を信じても良いものか逡巡する。
わざわざこんな話をしているということは本当にそのつもりはないのかもしれない。
だが、だからと言って精神だけを生かし続けている意味が理解できるわけでもない。
「理由なら簡単なことさ。君が私を退屈させないからだよ。君がこの世界に来た時点で私は君の身体を乗っ取ろうと思ったんだけどね、そこでいきなり魔王を召喚してしまうものだから腹を抱えて爆笑したよ」
「笑い事なのかよ」
「ああ、いくら僕の血を継いでいるとは言えなんでもありすぎだからね。意外と良い見世物になっているよ」
俺はサーカスのピエロかよ……。
そう思ったものの言葉には出さなかった。
まあ、それでも心が読まれているみたいだから伝わってそうだけど。
「伝わってるよ」
わざわざ答えなくていいよ……。
「それはすまなかった。──それで君は人間をやめてでも元の世界に戻るのかい? それともこれから先のことは私に任せてゆっくり眠るかい?」
「そんなの聞くまでもなく分かってるだろ?」
「まあ、そうだね。それじゃ私はこれから先の展開を楽しみにこちらから眺めているよ。君と仲間たちとの絆がこれくらいで壊れるようなものじゃなければいいね」
「そんな壊れたら笑ってやるみたいな言葉はいらねぇよ」
「はははっ、君も心を読めるようになったみたいだね」
一本とられてしまったと言いたげに彼女は笑った。
が、すぐに神妙な面持ちに戻る。
「私から君へ細やかな餞別の言葉を送るよ。間違いなく君の中の力を制御できないと思う。その時が君の最後になるからそれだけは覚悟しておいてくれよ」
「ああ、問題はないだろう。俺が暴走したところでそれを止めてくれる仲間がいるからな」
「すごく仲間を信頼しているんだね」
「当たり前だろ。最高の仲間たちだからな」
「そうか。それでは君の幸運を祈るよ」
「ああ、それじゃ行ってくるわ」
俺はそう言うと再び後ろに向かってジャンプする。
何故そうしたのかと聞かれるとこれといった答えはないが、何故かそうしたら良いのだろうと思えた。
もしかしたらこれが人間を捨てるということなのかもしれないな……。
なんてそんなことを考えながら、俺の意識は薄れていった。




