第十章「刀と魔法と」3
偽魔王か……。
まあ、魔族じゃないからな。
なんてことを思いながらも、仕切り直しとなって膠着した状況下で少し身体を休ませる。
まだまだ闘いは始まったばかりだが、予想以上に体力の消耗は激しい。
その上物理的に力の差で敵わない以上、このまま長期戦に持ち込むのは得策ではないだろう。
それならば次の一手は────
「来ぬのならばこちらから行かせてもらおう!」
考えがまとまりかけたところでジークがこちらへ向かって突進してきた。
そのスピードはリアのそれほどではないが、人間を相手にするならば充分すぎるもの。
ヤバイと身体が咄嗟に動いた時には、既に間合いに入り込まれていた。
「────っ! バリークシード!」
「ふんっ! 甘い!」
防御魔法を展開するも、その結界ごと力押しで破られてしまう。
少しでもその威力を抑えようと、右手で刀を扱いその攻撃をいなしにかかった事が奏功してか被害は刀を一本失っただけで済んだが、それでも劣勢には変わりなかった。
ここは手段を選んでいる場合ではないのだろう。
「閃光!」
「何っ⁉ 眩しい──」
手持ちが少ないからなるべく防御に使いたくはなかった正成お手製の閃光弾でひとまず窮地を脱する。
それと同時に目が眩んでいるジークに毒を塗ってあるクナイを投げたが、その攻撃はうまく決まらなかった。
「目が見えずとも耳が聞こえれば問題はない。折角の策も不発に終わってしまったな」
「元々当たるとは思ってなかったから構わないよ」
「ふっ、負け惜しみを」
ジークの言う通りこれは負け惜しみだった。
他に策がないわけではないが、有効打にはなると思っていただけに心労的に堪えるものがある。
ただこれで次の策に移る準備は整ったか……。
「次はこっちから行かせてもらうぜ!」
俺は刀に手をかけると、地を蹴って距離を詰める。
そして普段よりも少し早くその刀身を空気に曝した。
「篩水流抜刀術六乃型──雷雨!」
周囲に火花が咲き、爆音が鳴り響く。
これも正成に作ってもらった爆竹のような火薬玉だった。
「そんな子ども騙しが通用すると思っているのか!」
しかし先程の光とは違い、音での攻撃はあまり効果を発揮しなかった。
ジークは火花の熱さなど気にかける事もなくこちらの攻撃に合わせてカウンターを仕掛けてくる。
そして鮮血が飛び散った。
「なん……だと⁉」
血を流したのはジークだった。
その右手──二の腕のところには黒い刀がしっかりと刺さっている。
本来ならば首元に刺さるはずだったが、咄嗟に防がれてしまったから失敗と言わざるを得ない。
それでも手負いになっただけでも良しとしよう。
「小癪だが、見事な攻撃と言わざるを得ないな。抜刀に爆薬の使用、そして魔法による刀の操作と三段構えか。もう少し修練を積まれていたら今の一撃で決まっていたかもしれなかった」
ジークはこれまで以上に神妙な面持ちでこちらを見据える。
その瞳はもう同じ手は使えないぞと語っているようで、やはりこの一撃で決めきれなかったのは痛手になりそうだ。
「いやいや、ジークも流石だよ。あれだけ搦め手を使ったっていうのに、こちらの意図を潰してしまうんだからな……。ただ、その代償が右腕じゃ厳しいんじゃないか?」
それでも俺はそれを悟らせないように強がりをいう。
しかし、ジークはそれに笑みを浮かべて応えた。
「腕の1本くらい構わない」
ジークはそう言うと左手に持ち替えた剣で自らの右腕を切り落とした。
そしてその断面から新しい腕が生えてくる。
「再生能力か……。生で見るとすごい気持ち悪いな」
「気持ち悪いはやめろ。俺も出来ればこんなことしたくないんだ」
ならするなよ。
なんて思うけど、この状態でしない選択肢なんてないわな。
でもやっぱり気持ち悪いな。
「ひとまずこれで元通りだ。さて、そろそろ策が切れる頃ではないか?」
「ああ、さっきのが切り札だったからな。もう後は刀と魔法。自分の持てる全ての力を持って闘うだけだ」
「そうか。少しは楽しませてもらったぞ、人間よ!」
そりゃどうも。
そう心の中で応えつつ、距離を詰めてくるジークと相対する。
「影をも焦がす無数の炎よ。その光とともに世界を闇へと染めゆき、等しく滅びを与えんことを──デスラーム!」
そして俺が最後に選択したのはリリィ直伝の高位魔法だった。
「威力が上がったか……。しかしムダだ!」
最大威力で放ったデスラームも、ジークの魔力の前では赤子の手を捻る様に、いとも簡単にはね返されてしまう。
バリークシードを唱えたところで防ぎきれないであろう、魔力の塊が次第に近付いてくる。
今から身体を動かしたところで回避することはできないだろう。
そう思いながら俺は小さな声で呟いた。
「──ワーティ」
身体が光に包まれる。
それと同時に胸が熱くなるのを感じた。
手にはもう力が入らない。
何故。
どうして。
そんな頭の中を駆け巡る答えは光が解けると同時に分かった。
「残念だったな。その手は最初から警戒していた」
目の前に立つジークの手に握られている剣が、俺の胸部にしっかりと突き刺さっている。
それを認めた瞬間に、全身の力が抜けていくのを感じた。
ああ、そうか。
移動ポイントの近くに誘い込んでいたつもりだったが、俺の方が誘い込まれていたのか。
そんなことを思いながら、重くなってきた瞼を閉じる。
最後に聞こえてきたのは大事な仲間たちの声ではなく、ただこれが現実だと伝えてくる実況の魔族の明るい声だった。




