第十章「刀と魔法と」2
あの後バルハクルトの言った言葉をうまく飲み込む事が出来ないまま、決戦の時はやって来た。
むしろ逆にこうすることが目的だったのかもしれないが、どちらにしても舞台に上がってしまえば同じことなのかもしれない。
そんな風に割り切って俺はステージに続く長く細い花道を歩みだした。
「まず登場したのは現魔王の柳生三厳だ! しかし人望がないのか、観客からはブーイングの嵐! やはり魔族の期待はジキルクルト様に集まっています」
まあ、そうだろうな。
別に俺が悪いことをしたわけではないが、血の壁をたった1ヶ月程度でなかったことにするなんて不可能だ。
むしろ俺が逆の立場だったら同じことをしている自信がある。
そう考えると本来あり得ないはずの行動も自然と許せてくる。
やっぱり王たるからには器の大きさも必要だろう。
そんなことを考えながら鳴り止まないブーイングを無視する。
するとその声が急に完成に変わった。
「そして遅れて登場するのは我らの希望ジキルクルト様! 果たしてどんな華麗な虐殺を見せてくれるのでしょうか!」
ジークはジークで周りの声など興味がないのか、ただこちらを真っ直ぐと見据え昂然と向かってくる。
そして中央まで来ると、ニヒルな笑みを浮かべて挑発してきた。
「いつものドラゴンは連れてこなくて良かったのか? いや、これだけバカみたいに味方を連れてきていては城の守りに残さざるを得ないのか」
「城の守りなら1人別で残してるさ」
「たった1人で守れると思っているなんて滑稽だ。あれだけ残っていても俺に城を占領されたのを忘れたのか?」
「あの時は防衛する気がなかったからな。今のあいつならヴァレリアさえいなければ何人たりとも城の中にいれねぇよ」
「ふっ、戯れ言を……」
ジークは俺の発言を戯れ言だと一蹴したが、それはただこいつがフランの素性を知らないからだろう。
あんななりをしていても神だからな。
自称ではあるけど。
「まあどちらにしてもこんな舞台まで用意しておいて、今更空になった城を襲撃する奴なんていないだろ。ジキルクルトが俺に勝てると思っているなら尚の事……な」
「それもそうか。やはり頭はキレるようだ」
「そりゃどうも」
試合開始の合図を前に俺たちの口撃は続く。
さて、そろそろ最初の手を仕掛けるとするか。
「まあ、今日はよろしく頼むわ」
俺はジークに手を差し出す。
試合前の握手を求めたつもりだったのだが、ジークは一定の距離を保ったまま全く動こうとしない。
「そんな見え透いた手に引っ掛かるものか。俺をあんな無能と一緒にするな」
「さすがに同じ手を2度は使えないか……。てか、無能って酷い言い様だな」
「事実だからな」
「まあ、事実か……」
そんなくだらない会話をしていても警戒は怠らない。
それはジークも同じだった。
分かってはいたが、やはり一筋縄ではいかない相手だな。
そしてそんな牽制が続く中で闘いのゴングが鳴り響いた。
「バリークシード!」
俺はその音を流して聞きながら防御魔法を前方に展開する。
そしてそれを楯にジークへと突っ込んだ。
「笑止!」
しかしその攻撃はあっさりとジークに防がれる。
小手調べと思っていたから攻撃が通じないことは折り込み済みだったが、油断していると一瞬で勝負を決められてしまいそうなカウンターが返ってくる。
俺はそれを寸前のところで回避すると、ジークの間合いから避けるように後方へ回避した。
「まさかいきなり正面突破で来るとはな。その上本来の闘い方とは程遠い戦法とは、ナメられたものだな」
「そんなことはないさ。認めているからこそ出来うる全ての手段を使っているだけだ」
それは事実だ。
本来の篩水流だけに頼っていては勝てないのは分かりきっている。
だからこそのミリエリ姉妹風な戦術を取ってみたのだが、どうやらジークはお気に召さなかったようだ。
「さて、切り替えていこうか! 影をも焦がす無数の炎よ。その光とともに世界を闇へと染めゆき、等しく滅びを与えんことを──デスラーム!」
続いて試すのはリリィお得意の魔法攻撃。
ここまでの大技を使うのであれば、本来は魔力量の考慮をしなければならないが、おそらく今回は魔力に頼った闘い方にはならないだろう。
そう思うが故のいきなりクライマックスな術選びだ。
まあ、それでも結果は見えているんだが……。
「そんな付け焼き刃な攻撃が利くとでも思っているのか!」
案の定俺の攻撃はジークの放った魔法によって打ち消された。
それどころか、相殺ですらないその魔法攻撃は俺の元へと向かってくる。
まあ、こうなることは分かっていたけどな。
そしてジークの魔法はフィールド最深部の結界位置まで到達した。
その状況で実況の声のトーンが上がる。
「まさに俊殺! フィールド上には略奪者の姿はありません! これで勝負は────」
決まりました。
そう実況が告げようとしたところでジークが声を上げた。
「まだだ! その手は既に知っている!」
刀と剣がぶつかり合う。
ある程度予想はしていたが、やはり単純な力比べではジークに分があるようだった。
「まさか気配を消していても攻撃が悟られるとはな……」
「例え姿が見えずとも、そこに実体があるならば関係はない。俺の耳はわずかな風の音でも聞き分けられるからな」
なるほど。
ならば気配を消したところで無意味か……。
俺はそう悟った。それにしても、実体がある限りは関係ないとは恐れいったわ……。
「それならばやっぱり正面から向かっていくしかないようだな」
俺は刀を鞘に戻し、本来の闘い方をすると決めた。
ここまでの闘い方はこの後の闘い方のための布石だと自分に言い聞かせて、集中力を極限まで高める。
ここから先は待ちの戦いだ。
その意思を感じ取ったのか、間髪入れずに動いたのはジークの方だった。
「次はこちらからいかせて貰うぞ!」
ジークは先程の鍔迫り合いで力勝負でも勝てると確信したのか、魔法を展開する事なく突っ込んでくる。
俺はそれを間合いに入った直後に抜刀術でいなすも、やはり力勝負の前に徐々に後退を余儀なくされた。
さて、そろそろ手を打たないとな……。
「篩水流抜刀術九乃型──細雪!」
ベルウィリアとの闘いでは使わなかった技名を前にジークの警戒度が一気に膨れ上がる。
そして刀身を見せた刹那には、俺の間合いからジークは退いていた。
「……判断力は流石と言ったところだな」
「まあ、警戒されているならわざわざ晒す必要もないからな」
正直な話をすると九乃型なんていうのはブラフだった。
そもそも五乃型『秋霖』までしかないから飛躍し過ぎなんだよな。
「さて、仕切り直しといこうか」
「精々楽しませてくれよ、偽魔王──」




