第九章「血は牆となりて」2
始まりの街中心地。
RPGの世界にやって来た冒険者がまず始めに訪れることになるその場所に到着した。
もうとっくに魔王は討伐されたというのに、魔王を倒すためにこの世界にやって来た冒険者達で賑わっている。
この内の大半が元の世界に帰るための道具、グリフィスの羽根を入手することすらできなかった人達なんだろうから仕方ないのかもしれないけど。
まあ、戻れるとしても戻りたくない可能性もあるしな。
なんて、そんな感傷に浸っていると隣にいるゼノが鋭い目付きをして質問をしてきた。
「それで、今回の目的はなんだ?」
「ゼノとのデート」
「帰っていいか?」
冗談のつもりだったのだが、本気で嫌な顔をされてしまった。
成り行きで、それもゼノの意思はほぼ関係なく婚姻関係になったとはいえ、こうも否定されると少しショックだ。
とはいえ、ここで機嫌を損ねてしまっては結界の修復が終わるまで1人寂しくなんて状況になりかねない。
さっさと本題を使えることにしよう。
「冗談だ。エルフ族と正式な友好関係を築くために先立つものが必要でな。それをかき集める事が今回の目的だ」
「友好関係なのに金か……。ただ利用されているようにしか思えないな」
「まあ、金銭を要求されたというよりも、わだかまりをなくすためにリリィが作った借金を返さないといけないって感じだからな」
「借金っておい……。もしかしてあのエルフは、それを三厳に解決させようとしているのか?」
言い方が悪かっただろうか?
いや、まあ、どんな言い方をしたところで、根本的な部分ではそういうことになるのかもしれないけど。
「返済はきちっとリリィにさせるつもりだ。ただ、その返済までの時間が残されているとは限らないからな。先手を打とうと思っているだけだ」
「お人好しだな……。まあ、三厳があのエルフからしてもらった事を考えれば安いものかもしれないが」
「というわけである程度まとまった金を作るぞ」
「あてはあるのか?」
「そうだな。まずは大量に入手してあるライドラの鱗を売るつもりだ。1年経てば手に入る物とはいえ、それを入手できるのは俺だけみたいなものだから需要はあると思う」
ライドラの鱗──
黒龍の鱗は耐魔法性能が高い上に、物理的な耐久値も優れている。
現にそれを活かして俺の刀や、正成のクナイなんかを作っているわけだから、加工用の素材としては良い値がつくだろう。
「竜の鱗か。需要があると言っても今は戦うべき相手がいない。武具や防具が必要なくなってきているのに買い手がつくと思っているのか?」
「それは……」
計画は早くも頓挫してしまった。
返す言葉も見つからない。
「結局はそれだけを頼りにしてたのかよ……。ダメ元で交渉してみたとしても、その先がないんじゃきついな。──それで、いくら必要なんだ?」
「1,000万キール」
「悪い、聞き取れなかった」
「だから1,000万キール」
金額を2度聞いたゼノは頭を押さえた。
個人で稼ぐとなったらとてつもない額だからな。
その反応も仕方ないのだろう。
「先に言っておくが、いくら三厳が魔王といっても、財政を切り崩すのはダメだからな」
「分かってる。だからこうしてここに来ているんじゃないか」
「その計画がご破算になってるから釘を刺してんだよ」
「まあ、その他に方法がないわけではないし……」
俺は明後日の方向を見ながらそう言った。
本当に方法がないわけではない。
あまりその手段を使いたくないだけで、手っ取り早く1,000万キールを手に入れる方法があるにはあった。
「念のために聞くが、どういう方法だ?」
「ここの王様から奪い取る!」
「よし、採用!」
いや、そこは止めるところだろ……。
そんなことを思いはするが、ゼノ的には自分達に関わりがなければそれで良いらしい。
なんていうかこういうところは魔族なんだな。
「それならひとまず王宮へ向かうか」
「分かった。門の前まで連れてってやるよ」
そしてゼノが再び呪文を詠唱する。
気が付くと王宮前に到着していた。
それから門番に話しかけ、王宮の中へ入る。
本当ならばアポイントがない限りこんなにすんなり入ることはできないはずだが、さすがは魔王を倒した実績があるだけはあってか顔パスだった。
そして久しぶりにやって来た王宮の玉座の間。
そこにはお馴染みの顔が2人いた。
「…………な、何のようじゃ、召喚士よ」
玉座に座ったクソロリコンキチン国王が声を震わせながらそう聞いてくる。
めんどくさい駆け引きなんて時間のムダだから単刀直入に切り出すことにしよう。
「エルフ族と友好関係を築きたい。協力してほしい」
「ほっ……そういうことか。たまにはお主もまともな事を言うのだな」
「ああ、だから1,000万キール用意しろ」
「えっ⁉」
クソロリコンキチン国王の顔が青ざめていく。
何がそんなにおかしいというのだろうか。
まったく、わからないものだ。
「召喚士よ、簡単に事情を説明してくれるかの?」
使い物にならないチキンの代わりに、老師が話しかけてきた。
仕方がないから簡単に説明をするか。
「かくかくしかじかというわけなんだが」
「ふむ、そういう事情があるのか……」
「いや、お前らはどうしてそれで会話が成立してるんだよ⁉」
様式美の分からないゼノからツッコミが入ったが、老師が分かったのなら問題はないだろう。
その証しに老師は何やら考え込んでいるしな。
「1,000万キールを用意するのは構わん。しかし、文献でエルフは違う貨幣を使っていると読んだことがあっての」
「ああ、あっちではユヒトっていう単位らしいな」
「ふむ、それで換金はどう行うつもりなのじゃ?」
「換金は行わない。友好関係を結んでエルフがこちらに来られる様にすればいいだけの話だ」
これに関しては交渉次第な面もあるが、そこ辺りの問題は交渉にサシャを連れていけばうまくまとめられるだろう。
必要があるならば1,000万キール分の素材に変えてもいいし。
「結界があるから無理じゃな」
「結界はこっち主導で張り直している。それができる術士がいる以上大した問題ではない」
「そうか。うむ……。分かった、1,000万キールを用意しようではないか」
「わ、わしの意見は……」
「国王は少し黙っておれ!」
「は、はい……」
国王の立場弱すぎる……。
もういっそのこと老師の方が物分かりがいいし、国王になればいいのに。
「しかし、条件が1つある」
「なんだ?」
「わしらとしてもエルフ族との交流ができるのは大きな利になる。しかし、だからといって全てを背負うことはできん。少なくとも半額は返済をしてもらいたいのじゃ」
なるほど、人間代表と魔族代表の協力なのだから負担も折半すべきということか。
「財政が厳しいのか?」
「そうじゃの。さすがにこれ以上税金をあげるわけにもいかんのでな」
「分かった。それなら半額の返済を約束しよう。細かいことは書面にサインした方がいいか?」
「いや、構わん。召喚士も女賢者もそういうところはしっかりしておる。利子もいらぬからゆっくりでも返してくれればそれでよい」
誓約書すらなしとかどんだけアホなんだよと思う。
しかし、そんなものがなかったとしても返してしまうのがリリィなんだよな。
まあ、俺も約束した以上は返すつもりだけど。
「それなら契約完了だな」
「うむ。入金は召喚士のエスシュリーに振り込んでおく。10分後くらいには反映されると思うぞ」
「分かった。とりあえず話がついたらエルフの長老を連れてもう一度来るわ。──ゼノ、帰るぞ」
「はいはい──」
三度ゼノが呪文を詠唱する。
そして魔王城へと戻ってきた。




