第八章「真相の先にあるもの」7
それとなく、さっきの話が何だったのか聞いてみたが、リアは一切口を割ろうとはしなかった。
それどころか、ジキルクルトとの勝負を受けたことに関してお小言を言われてしまう。
俺はその話から耳を背けるために、とある場所へとやって来た。
「やっぱりここは風が気持ちいいな」
「そうですね。ですが、こんなところに何の用なのですか?」
「最後の仲間を迎えるためにな。どうせここにはいないんだろうけど、喚び戻すにしても広い場所じゃないといけないだろ?」
「あぁ……そういうことでしたか」
リアも目的を理解できたようだ。
俺たちが向かったのはこの城の上部。
普段ならばライドラニース・エーゲンハルトとその息子のレイドラが塒としている場所である。
「やはり、ここにはいませんね」
「まあ、さすがに逃げるだろうな。ライドラだけならともかく、レイドラがいるとなると下手に対抗しない方が得策だろうし」
「確かに。──しかし、あのドラゴンを信じても良いのですか?」
「信じるって何の話だ?」
「あくまでも可能性の話ですが、あのドラゴンが他の竜族を呼んだとは考えられないのか……。そういう話です」
確かにリアがいうことにも一理ある。
結界が破れたから竜族は攻めてきた。
しかし、それが俺がいない時と被ったというのは、偶然にしてはできすぎている。
それならばやはり誰かが主導したと疑ってかかるのも当然のこと。
それがディルやジキルクルトからすると俺であり、リアからするとライドラであったというだけ。
「それでも俺はライドラを信じるよ。てか、竜族をけしかけた犯人はもう分かっているからな」
「そうですか。魔王様がそう言うのであれば────って、犯人が分かっているんですか⁉」
すごい驚きようだった。
まあ、そんな大事なことを平然と言われたらこんな反応にもなるか。
「犯人は……。いや、この話はまだしない方がいいのかもな」
「魔王様がそう言うのであれば、これ以上は聞きません。──ただ、さっきの当て付けで話さない。もしくはもったいぶっているのであれば、そういうところは直した方が良いと思います」
さっきの当て付けって……。
まあ、確かに気になりはするけど。
「そんなんじゃない。ただ、俺が信じたくないだけなんだよ」
「そうですか」
それ以上リアは何も聞いてこなかった。
ひょっとしたらその一言で犯人が分かったのかもしれない。
「とりあえずライドラを喚び戻すわ」
エスシュリー(仮)を起動させ、左手を天にかざす。
そして「召喚」と小さく漏らした。
「──すぐに戻る」
「ああ、迷惑かけてすまなかったな」
呼び出したライドラとそれだけやり取りをして召喚を解除する。
今どこにいるのかは知らないが、しばらくしたらレイドラを連れて戻ってくるだろう。
それまでは少しここで休むことにしよう。
地に寝そべって空を見上げる。
そこに広がるのは雲1つない青空と、太陽のような光輝く恒星。
慌ただしく過ぎていた時間が止まったかのような穏やかな時の流れに身を任せると、瞼が少しずつ重たくなってくる。
「魔王様、固い地面では頭が痛くありませんか?」
「起きた後に後悔しそうだけど、その時はその時ってことで」
「まったく、少しは身体に気を遣ってください」
リアは苦笑気味にそう言うと、俺の顔に当たっていた光を背負うようにして隣に座った。
「せめて私の膝を枕にしてください」
恥ずかしさはあるが、拒否する理由もない。
俺はリアの太ももに頭を乗せた。
鍛えられているにも関わらず、程よい弾力が頭を包む。
その心地いい感触の中で瞳を閉じると、リアが頭を撫でてきた。
「魔王様もこうしていると可愛らしいですね」
「いつも可愛いだろ?」
「それは……。はい、そうですね」
「いや、冗談だから無理はしないでくれ」
明らかに戸惑っているリアが面白くて失笑がこぼれる。
こういう穏やかな日が続けばいいんだけどな……。
そんな現実逃避な考えが脳裏を巡る。
少なくとも今は3つの問題を抱えている。
ジキルクルトとの対決。
エルフとの協力関係の締結。
そして竜族をけしかけた犯人をどうするかという問題。
休めるときに休んでいないといけないのは分かるが、ただ漠然と魔王を倒すと考えていた時とは何もかもが違っている。
果たして俺にそれら全てを解決することはできるのだろうか?
「魔王様、その闇の先には何があるんでしょうか?」
「平和で笑って暮らせる未来かな。降りかかる火の粉は払わないといけないが、わざわざ火中の栗を拾う必要もないと思ってるよ」
「そうですか。ふふっ、魔王様らしいですね」
「まあ、俺は面倒なことが嫌いだからな」
だからこそ真相の先にあるものは、穏やかな未来であることを望む。
そのためならば地位も名誉も捨てる覚悟ができている。
あいつらに話したらなんて言われるんだろうな……。
笑って受け入れてくれたらいいな。
そんなことを考えながら、俺の意識は深い闇の中に沈んでいった。




