第八章「真相の先にあるもの」6
玉座の間へ残り十数ユーレ。
普段は閉まっているはずのドアが開いていた。
そしてその中からこちらを睨む1人の男。
親子とはやはり似るものなのか、バルハクルトを若くした感じの青年は俺たちを認めると玉座から立ち上がる。
間違いなくあれがリアやゼノが言っていたジキルクルトなのだろう。
「三厳、下がれ!」
そう思った刹那、ゼノとリアが俺の前に立つ。
別に攻撃されたわけではないが、2人は警戒態勢に入っている。
その後ろに構えているミリエリ姉妹とアークも獲物に手をかけていた。
殺伐とした空気が辺りを包む。
そんな中でジキルクルトが口を開いた。
「ゼノは兎角、まさか剣聖までも魔族の誇りを捨てるとはな」
その口調は怒りというよりも嘆いているように響いた。
しかしそれでもディルやウレーヌスのように短絡的な考えだけで攻撃を仕掛けてくることはない。
「誇りか……。確かにないかもしれねぇな。──ただ、戦いに敗れた結果のことだ。それを受け入れるのも1つの形だと思うけどな」
「負け犬のお前からすればそうなのかもしれないな。それを魔族が負けるように仕向けたお前から言われるのは腹立たしいが」
ゼノとジキルクルトが火花を散らして睨み合う。
おそらくジキルクルトが言っているのは、ゼノが味方であった貴族たちの情報をこちらに漏らした事であろう。
どこぞの敵前逃亡した第5貴族様は計算外だったとしても、あの決戦はこちらの計画通りに進んだ。
むしろ計画通りに進みすぎた感は否めない。
「あの試合で戦況が読めなかったのは剣聖とゼノの試合だけ。こちらが勝った2戦を含めて、残りの試合はひっくり返すことのできない組み合わせが用意されていた。それで魔族が負けたなど片腹痛いとは思わぬか?」
「さあ、どうだろうな? 三厳と親父の組み合わせは元々決まっていたことだし、あのエルフと、ここにいるござる、そしておっさんは誰と当たっても良い勝負をしていたと思うがな」
「拙者は正成でござる……」
「お、おっさん……」
「私たち2人は戦力外……」
ゼノの一言に後ろの仲間たちがダメージを受けていた。
正成はいつものことだし、アークは確かにおっさんだし、ミリエリ姉妹は個人戦に向いた能力じゃないから、確かに戦力外みたいなところがあったけど。
「問題はそれよりも、あの時点で魔王様が精神支配を受けていたことだ。能力に気付かなかったあの時は、あの無能な第2貴族がそこのガキにやられたことと同じことをされたのだとばかり思っていた。──しかしそれは間違いだった。そうだろう、柳生三厳」
「まあ、あながち間違ってはないな」
「あっさり認めるとはな」
「別に能力がバレてしまった今、隠す必要性がないからな」
その一言にジキルクルトは失笑した。
「そうか。本人がそれを認めたというならば、こちらとしても黙っているわけにはいかないな。──ジキルクルトは、現魔王柳生三厳に王位をかけた決闘を申し込む!」
「ジーク坊、そんな横暴を認めると思ってるの?」
ジキルクルトの宣言に、リアが剣を抜いた。
電光石火と呼ぶに相応しいスピードで一気に間合いを詰めると、いつでも殺せると言わんばかりに喉元で剣を止める。
しかし、それでもジキルクルトは一切表情を変えない。
「認めるか認めないかを決めるのは剣聖の仕事ではない。それに、元来魔王とは魔族の中で一番強いものに与えられる称号だ。ならば決闘を申し出るのもまた自由!」
「ゼノ、そうなの?」
「決闘どうこうは知らんが、歴代の魔王は魔族の中で一番強かったのは事実だな」
「そっか」
ふむ。
面倒だけど戦わないといけない流れのようだ。
「分かった。ジキルクルトの挑戦を受けよう。──ただし、戦う日にちはこちらで決めさせてもらう」
「何か悪巧みでもしようというのか?」
「いや、今日は疲れたから戦いたくない」
再びジキルクルトは失笑した。
「ふはは、食えぬ男だな。まあ、いい。それでいつだ?」
「明後日」
「よかろう。それまではこの城で最後の思い出作りでもしているがいい」
ジキルクルトは高笑いを残して消えていった。
そして残された俺に穏やかな状況が待っているわけはなく──
「ちょっとアンタ! どうしてそんな安請け合いしてるのよ!」
「そうだよ! 三厳はそんなに強くないんだから、無理な勝負をするとか意味がわからないよ!」
「いつものことながら、もう少し考えて欲しかったでござる」
「確かに、ジークは父親同様強いからな。無謀にもほとがある」
分かってはいるが散々な言われようだった。
しかし、そんな中で1人だけ味方がいた。
「魔王様が負けることはありませんよ。召喚士いかんを抜きにしても、強いですから」
「ヴァレリア殿、それはさすがに楽観視しすぎではないか?」
「そんなことはありません。この世界の誰にも彼を殺すことはできない。それだけは私が保証しましょう」
何の根拠もないが、とても頼りになる言葉だった。
「そうか。剣聖もこいつの秘密に気が付いていたのか……」
「はい。私からすればゼノウィリア様が知っていたことの方が意外でしたけど」
「────ちょっと、アンタたち2人は何を知っているって言うのよ!」
「そうだよ! いつも私たちをおいてけぼりにするのはやめてほしいかな!」
「……これに関しては知らない方が良いと思うでござる」
「ちょ⁉ ござるまで知っているの⁉」
「拙者は正成でござる!」
俺の話をしているはずなのに、俺までおいてけぼりにされていた。
リアやゼノ、ついでに正成は何を知っているというのだろうか?
「珍しくござると意見が合いましたね。それに張本人である魔王様が知らない限り、私からそれを言うのは避けたいと思っています」
「同感だ。この真実を三厳は知らない方がいい」
「全くでござる……」
「お前ら何の話をしてんだよ……」
「知りたいならエルフかチビッ子にでも聞け。少なくともチビッ子は知っているし、お前が聞いたら教えてくれるだろう」
サシャも知っていて、リリィも知っているかもしれない。
もう何のことだか分からないな……。
「というわけでこの話はおしまいだ。俺はジーク支持派の残党が残っていないか見回りに行ってくるわ」
それだけ言い残してゼノは来た道を引き返していく。
「それなら私は魔王様の護衛をしましょう。残りの4人は久し振りに解放されたことですし、のんびりしていてください────」




