第八章「真相の先にあるもの」4
「正門の防衛に魔族が30……その指揮を執っているのは相変わらず第2貴族のエルトハルムですね」
「そうだな……」
リアと2人で城の前まで近付いてみたが、どうやら前よりも警戒が強まっているようだった。
まあ、そろそろ俺が帰ってくる予定の期日だから当然と言えば当然なのだが、それ以上に気になるところがある。
それはどうして正門の守備を固めているのか。
こういう状況に──あの時事前にフランから連絡が入っていなかったならば、俺はリリィと共にワーティで玉座の間まで直行していただろう。
だからこそ、本来ならば正門の守備を固める必要性はないわけで……
「それで、魔王様。いかがしましょうか?」
「少し気になることがあるから様子見をしたいところだが」
「気になることですか?」
「ああ──」
俺はリアに気になったことを伝える。
すると、リアもそれがおかしいということに気が付いたのか、何か考え込んでしまった。
「確かに違和感はありますが、あれでもエルトハルムは馬鹿ではありませんから、どこかから──例えば私や、ゼノウィリア様から情報が漏れることを考慮しているのではないでしょうか?」
リアの考えは一理ある。
しかし、それでは説明できない状況であることも確かだ。
「それは分かるが、そうだとしてもディルがわざわざ防衛に回るのはおかしくないか? 俺、ベルちゃん、バルハクルトの3人が指揮を執れない状況だからあいつに指揮権が移ってるんだ。それならあいつの性格上、玉座の間でふんぞり返っていそうなんだが……」
「それは確かにそうですね……。それならばもしかすると他に頭になる魔族がいるということになりますが?」
そこまで考えたところで、リアは首をかしげた。
現段階の魔族の序列はさっき話した通り、俺、ベルウィリア、バルハクルト、エルトハルムの順。
その次にあたるウレーヌスも反乱側についているのだろうが、あのナルシシストに指揮権を譲るとは考えにくい。
「考えたくはないが、それならベルちゃんかバルハクルト──もしくはゼノの誰かが裏切ったということになるな」
「それは考えにくいでしょう。ベルウィリア様とバルハクルト様は前の戦いで意識不明の重体です。この目で確認しましたからそれは間違いないです」
「となると、残るのはゼノだが……」
「彼──いえ、彼女が裏切るとは思えません」
「そうなんだよな……」
もしゼノが裏切り者なのであれば、帰ってきたあの時に俺を殺すことができたはず。
いくら召喚の効果で直接的な攻撃を封じているとはいえ、間接的な方法を考え付かないようなやつではないからな……
「──はっ!? もしかして……」
「どうした? 他に何かあるのか?」
「ジキルクルトが戻ってきているならば、もしかしたらもしかするかもしれません」
ジキルクルト。
その名前に聞き覚えはなかったが、なんとなくそれが誰なのかは理解ができた。
「バルハクルトの親族か……」
「はい。バルハクルト様の息子で、エルトハルムとは仲が良かったはずです。父親譲りの高い魔力を持っていますし、エルトハルムよりも強い可能性も充分に考えられます」
なるほどな。
それなら問題は後1つか。
「リアとどっちが強いんだ?」
「私は天変地異が起こらない限り負けません。体質のこともありますし、ただでさえ魔王様から能力を引き上げてもらっていますから」
冒険者と魔族で決戦をしたとき、リアはアクルセイドに負けた。
しかしそれは俺がアークの能力を引き上げていたからであって、今回はその状況とは逆になる。
つまりリアは誰が相手であろうと負けないし、負ける気はないようだ。
「それなら正面からしかけるか」
「正面からですか? それはさすがにどうかと思いますが……」
「俺を守る必要がなければ問題なく城の中へ入れるだろ?」
「えっと……私1人で潜入しろと?」
「いや、そうじゃない。表向きにはリア1人で城に戻ってきた風を装うということだ」
そこまで言うと、リアは俺が何を考えているのかが分かったようだ。
──いや、何か勘違いがあったみたいだな……
まあ、それでもいいんだけどさ。
「気持ち悪くなるからあまりスピードは出すなよ?」
「今回は急ぐ必要はありませんので、ご安心ください」
そして俺はしゃがみこんだリアの背中に乗る。
別におんぶをされる必要はないが、リア的にその方が安心できるなら黙って従うことにしよう。
「それでは出発します」
リアは城門近くの草むらから、城から遠ざかるように移動を始める。
ここで直接城に向かわないあたりは、さすが状況判断力が優れていると誉めるべきところだろう。
さすがに道ではなく、そこら辺の草むらから出ていくのは怪しすぎるからな。
それから城が見えなくなるまで草むらの中を移動して、魔王城へ向かう正規の道へ出る。
それと同時に俺は気配を絶った。
「これからはしばらく喋らないから、怪しまれないようにリアも話しかけるなよ」
「分かってます。しかし何かあったらそれとなく伝えるので、私の話はしっかりと聞いていてくださいね」
それだけ話すと、俺はリアの身体にしっかりと密着した。
いくら気配を消しているとは言っても、リアの手が俺の足を抱えているようでは絶対にバレる。
正門前でドンパチやるのだけは勘弁だからな。
リアは俺を抱えていないかのように、自然な足取りで城へと歩いていく。
そして城の前に到着した。
「止まれ、いくら第4貴族と言えども城の中に入れるわけにはいかない」
「ははっ、そんなことを言っていてもいいのかい? 君の首くらい簡単に飛ばせることを忘れてもらっちゃ困るな」
「仲間同士の殺生が禁止なのはお前も知っているだろう。その禁忌を犯すつもりか?」
「仲間だと言うならば城に入るくらい問題ないだろ? まあ、それでも入れないというなら仲間ではないということで禁忌自体が意味のないものになるけど。──さあ、エルトハルム坊、どうするんだい?」
「ちっ! 好きにしろ……」
リアの正論を前に、ディルは捨て台詞を吐いて道を開けた。
それに続くように部下の魔族たちも道を開け、閉ざされていた門が開く。
「物分かりのいい子はお姉さん嫌いじゃないよ。その命大切にしなよ」
「化け物が……」
貴族としての優劣とは何だったのか?
そう思わず考えてしまうやり取りを終えて、リアは堂々と城門を潜った。
まあ、正成の拷問がトラウマになったように、何かしら過去にあったのかもしれないな……
てか、本気で殺す時の目をしてたし、それにビビっただけかもしれないが。
そして俺たちは玉座の間まで向かう。
途中、警備をしているのであろう魔族とすれ違うが、一切俺の姿に気付くものはいなかった。
しかし、その油断がいけなかったのかもしれない。
後1つ廊下を曲がれば玉座の間に辿り着く。
そう思った刹那だった──
「──まさか真っ正面からやって来るとはな……」
俺とリアの警戒心を最大まであげる何者かの声が聞こえた。




