第八章「真相の先にあるもの」3
話はまとまった。
後は正成と合流をするだけだな。
そう思ってエスシュリー(仮)を起動しようとしたところで、タイミングよく正成からコンタクトが入った。
「どうした、正成?」
「大変でござる! さっきの男たちが徒党を組んでリリィ殿の実家へ向かっているでござる!」
ここに向かっているということは、俺たちがここにいることがバレたのか、もしくはホーリィが狙いなのかの2択だろう。
どちらにしても今の俺からすればいい状況ではないのは確かだ。
「リリィ、聞こえていただろ? 2人を連れてリアの城へ退避だ! 正成は後で呼び出すからしばらく待機していてくれ」
「了解でござる」
そして正成とのコンタクトが切れる。
リリィは急いでエリシュナクとホーリィをこちらに呼び寄せると、ワーティを唱えた。
視界が眩い光に包まれる。
その光が消えると、そこは既にヴァレリアの居城だった。
「なんとも大きな城じゃな……」
「やっぱり魔族の城ともなると、こんな規格外のサイズになるのねぇ」
事情の説明もなしに連れてこられたエルフ2人は、城の大きさに驚いていた。
その間に俺は正成を呼び戻す。
「──三厳殿、大丈夫でござるか?」
「ああ、それより今は時間が惜しい。これを持って、例の計画通りフランと入れ替わってくれ」
俺は月詠のローブを渡す。
この説明はしていなかったが、その意味を分かってくれたようだ。
「御意! 場所はどこへ行けばいいでござるか?」
「それはゼノと合流すれば分かる。──リリィ、城までの移動は頼んだぞ」
「はい! 正成さん、それでは行きましょう──」
そしてリリィは再びワーティを唱えて、正成と2人で魔王城へ向かう。
俺はその間に、ゼノへ『正成と合流して欲しい』とメッセージを送った。
後は手はず通りフランとサシャが脱出するのを待つだけである。
「マスター、送り届けてきました」
「ありがとな、リリィ」
帰ってきたとたん、抱き付いてきたリリィの頭を撫でる。
すると、リリィは嬉しそうに目を細めていた。
その様子を見ていたホーリィから冷やかされたが、しばらくの間会えなくなるのだからこれくらいは耐えるべきだろう。
そして、リリィの頭から手を離し、説明をしようとしたところで、廊下の向こうから足音が近づいてくる。
「──魔王様、おかえりなさいませ」
「リア、ちょうどよかった。しばらくここで待機するから休める場所に案内してくれ」
「かしこまりました。軽食程度ならばすぐに用意できますが、いかがしますか?」
「5人分頼む」
「はい。それではこちらへどうぞ」
リアは俺たち4人を案内するように、やたらと広い城の中を先導していく。
そして到着したのはダイニング。
リアは俺たちを椅子へ案内すると、使用人のように俺の後ろへ立った。
「リアも座っていいんだぞ?」
「魔王様の膝にですか?」
「それはダメです! 絶対ダメですからねっ!」
リアの冗談にリリィが過剰なまでに反応する。
どこぞの3人組リアクション芸人のノリみたいだなって思うが、そんな話をしたところで伝わらないから割愛しよう。
「リリィさんがそう言うなら、残念ですが今は我慢します」
「今じゃなくてもダメですから!」
そしてリアはひとしきりリリィをからかうと、俺の隣の席に座った。
隣といっても欧米的なテーブルで偉い人が座るようの、あの真ん中の席だが。
「それで魔王様、首尾の方はいかがでしょうか?」
「問題はまだまだ残っているが、今のところは順調だ。ちょうど正成がフランとサシャを迎えに行ってるから、2人と合流したらリリィたちにはアマゾネスへ結界修復に行ってもらう」
「私たちってことはマスターは来ないのですか?」
「俺が行ったところで役にはたたないからな。だからリアと一足先に城へ戻るわ」
その発言にリリィの表情が少し曇る。
それはリアと2人っきりになるからではない。
もちろん魔王城に戻るという危険に対するものだろう。
「リリィさん、魔王様は私がしっかりとお守りします」
「しかし2人では……」
「あっちに着いたらゼノもいるから大丈夫だ。むしろ少ない方が好都合だからな」
体感的にはかなり昔のことに思える出来事を思い出す。
森で精神支配されたリリィと戦った時のこと。
あの時は急進派の魔族がそういう手段を用いてきた。
そしてこれから相対するのはそういう魔族だ。
それならば月詠のローブで精神支配を防げる俺と、魔法に耐性のあるリア、完全に気配を絶てるゼノ。
この3人で挑むのが一番合理的だろう。
「あらあら、リリィったら……。永久の別れでもあるまいし、もう少しマスター君のことを信じてあげたら?」
「マスターのことは信じてます。でも──」
リリィがそこまで言ったところで俺のエスシュリー(仮)が鳴った。
起動したエスシュリー(仮)に表示されているのは新着メッセージ。
送り主はゼノだった。
「よし、準備は整ったようだな。──召喚っ!」
そして俺はフランとサシャを同時に呼び出す。
すると、月詠のローブを羽織ったサシャが俺の顔を見るなり飛び付いてきた。
「お兄さん……会いたかった」
「よしよし、大丈夫だったか?」
「問題ない。ゼノが助けてくれたから」
恐くなかったかと言われたら恐くないわけがないだろう。
それでもサシャはいつも通りの笑顔を見せてくれていた。
それもこれもゼノのおかげなのだろう。
「フラン、状況は分かってると思うが、どれくらい時間がかかりそうだ?」
「この5人で修復するとしたら作業自体は1時間もかからないかな……。でもあの街は広いから移動時間も合わせると倍近くはかかると思う」
「上出来だ。3日くらいかかるというのも予想してたからな」
「ははっ、柳生三厳、神である僕の力を舐めてもらったら困るよ」
魔族に囚われていた神が何を偉そうに……
そんなことを一瞬思ったが、まあ、それは置いとくことにしよう。
「それなら5人はここで飯を食べ次第アマゾネスに向かって結界修復に当たってくれ。その間に俺はあのバカ2人に会ってくる」
「…………」
「柳生三厳にしては気が利くじゃないか。こっちはこの僕がいるんだ。大船に乗ったつもりでいてくれ」
大船が泥舟でないことだけを祈っておこう。
「ちょうど今、食事の用意ができたようです。城の当主として何もお構いできなくて申し訳ありませんが、どうぞお好きなだけ召し上がりください」
「もう出発するのならば城の近くまで送りますね──」
そして俺とリアはリリィに送り届けられ、城の近くの草むらに到着した。
「マスター、絶対無事でいてくださいね」
「ああ、分かってるよ」
「それではご武運を──」
帰り際、リリィは俺にキスをすると、少し照れくさそうな笑みを残してサシャたちの元へと帰っていった。
「以前よりも2人の距離が縮まっていますね。何かありましたか?」
「親に挨拶をしたから自覚がわいてきたのかもな」
「そうですか。まあ、ここからは気持ちを引き締め直してくださいね」
さて、リアの言う通り気を引き締め直して、あのバカどもを一発殴りにいくとしますか。




